「男の現在地を考える」6冊を武田砂鉄が選出。【いま知りたいことを、本の中に見つける vol.17】

Culture 2025.09.10

知りたい、深めたい、共感したい──私たちのそんな欲求にこたえる本を26テーマ別に紹介。各テーマの選者を手がけた賢者の言葉から、世界が変わって見えてくる贅沢な読書体験へ!
vol.17は「男の現在地を考える。」をテーマに、ライター・武田砂鉄が選んだ6冊を紹介。ジェンダーにまつわる問題や議論はいつの時代も絶えない。それらの根底にあるものとは。本を通して見つめなおしたい。


選者:武田砂鉄(ライター)

男の現在地を考える。

男性優位社会を検証する『マチズモを削り取れ』という本を出してから、ジェンダーに関する原稿を書いて欲しいとの依頼がやたらと増えた。そこには、「男性も考えるべき」との視点があったはずだが、そもそも「男性も」ではなく、「男性が」ではないのだろうか。この社会で男性が下駄を履かされてきたのは事実。それさえ認めない人もいるし、むしろ、男性が差別されている、との議論に持ち込む人も少なくない。なぜ、不平等であるという前提さえ嫌がるのだろう。この6冊は、様々な角度からその前提を問う本です。

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1. 『男性の繊細で気高くてやさしい「お気持ち」を傷つけずに女性がひっそりと成功する方法』

サラ・クーパー著 渡辺由佳里訳 亜紀書房刊 ¥2,178

タイトルはもちろん皮肉。男性の自尊心の取り扱いは難しい。ボーイズクラブでは女性が男性と同じことを言っていても、異なる意味に変わってしまう。会社で男性が「この件について考え直しました」と言うと「思慮深い」となるのに、女性が言うと「一貫性がない」。なぜだ。本の中には「男性がマンスプレイニングしている間に落書きをするための白紙ページ」といったスペースも用意されていて、本の存在そのものが武器になっている。

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2. 『男性学入門
そもそも男って何だっけ?

周司あきら著 光文社新書 ¥990

「主人」なる形容がなかなか消えないように、男性は家庭の中で主たる存在であり続けている。この日本でジェンダーギャップ指数が改善しないままなのは、女性の問題というより男性の問題なのに、なぜか二次的な問題だとされがち。男性はいかに問われ、そして問われてこなかったのか。「男性も大変なんですよ」で終わらせないために、歴史を具体的に振り返りつつ、学問として男性を問い直す。

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3. 『クソッタレな俺をマシにするための生活革命』

済東鉄腸著 左右社刊 ¥1,980

引きこもり生活から脱するなかで、ところで男ってどうしてこうなんだ、男はどうしたらいいのかとの壮大な問いにぶつかり、関連する本を乱読しながら自分を刺激していく。弱者男性論にのめり込まずに思考を外に開いていく。この本に貫かれている姿勢はシンプル。それは、考えないとヤバいよね、と気づけば、人は考えるようになるってこと。ジェンダーをめぐる言葉をパクパク食べながら行動に移していく様が痛快だ。

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4. 『韓国、男子
その困難さの感情史

チェ・テソプ著 小山内園子、すんみ訳 みすず書房刊 ¥3,300

韓国の大統領選挙をめぐっては、若い男女によって支持政党が分かれたと報じられた。日本を上回る勢いで少子化が進む韓国では、兵役義務のない女性が優遇され、自分たちは被害者だと考える男性が少なくない。受験戦争を経て、兵役も終えて社会で戦っているのに、どうして「味噌女」(無能な女性を形容する言葉)と同等の権利しか与えられないのかと憤る。著者は1984年生まれの男性。バックラッシュを慎重に読み解いている。

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5. 『物語じゃないただの傷』

大前粟生著 河出書房新社刊 ¥1,892

「男のくせにフェミニストやポリコレにおもねっている」文化人の後藤と、彼の家に住み込むようになった白瀬。後藤はリベラルな発言を重ね、そのイメージを守ろうと必死になっているが、白瀬は後藤の実体とのズレを知っている。男のノリを厳しく指摘している一方で、そのノリに助けられるように仕事を続けていく。男性に対して厳しく論評しているほうがうまくいく時代だ......そう固執することで生じる軋みがいかにも生臭い。

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6. 『性暴力の加害者となった君よ、すぐに許されると思うなかれ』

斉藤章佳、にのみやさをり著 ブックマン社刊 ¥1,980

有名芸能人の事案がそうだったように、性暴力の加害者や支持者は、被害者にも落ち度があったとにおわせ続ける。謝罪しつつも自分の人権を主張し、うやむやにしようとする。本書では、性暴力被害者が加害者と対話していく「修復的司法」を実践するプロセスについて語られている。なぜ女性を傷つけたのかとの問いに「何でもいいから誰かに勝ちたい」などの回答が出てくる。性欲だけではなく、支配欲や特権意識が影響しているのだ。

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武田砂鉄|Satetsu Takeda ライター
1982年、東京都生まれ。出版社で主に時事問題やノンフィクション本に携わった後、2014年からフリーライター。『マチズモを削り取れ』(集英社文庫)ほか著書多数。ラジオのパーソナリティも務める。
https://x.com/takedasatetsu
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*「フィガロジャポン」2025年9月号より抜粋

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