弱い自分を楽しみ、育む。紅甘が選んだとっておきの6冊とは。【いま知りたいことを、本の中に見つける vol.22】
Culture 2025.09.15
知りたい、深めたい、共感したい──私たちのそんな欲求にこたえる本を26テーマ別に紹介。各テーマの選者を手がけた賢者の言葉から、世界が変わって見えてくる贅沢な読書体験へ!
vol.22は「弱くてもいいじゃないか」をテーマに、俳優、文筆家・紅甘が選んだ6冊を紹介。弱さを否定するのではなくポジティブに見つめ、日々の助けになる一冊を見つけて。
選者:紅甘(俳優・文筆家)
弱くてもいいじゃないか。
強い人ってなんだろう、と考えてみると、それは単に「強くならざるを得なかった人」なんじゃないかと思えてきます。そういう人ほど、弱い自分を痛いほどにわかっている。でも私は、自分の弱さを隠したり、嫌ったり、憎んだりするんじゃなくて、いっそ楽しんでほしいと思う。強い自分がやっぱり好きでも、つかの間のバカンスみたいに、弱い自分を楽しむ。弱さは嫌悪すべきものだなんて、いったいだれが決めたんですか。弱さを育んで、満喫して、なにが悪いんですか。そう開き直ってふてぶてしく生きてゆくためのガイドブックを選びました。
ワンピース¥198,000、中に着たブラウス¥50,600、カーディガン¥52,800/以上ピリングス(リトルリーグ インク)
1. 『がんばりません』
佐野洋子著 新潮文庫 ¥605
『100万回生きたねこ』の作者・佐野洋子さんのエッセイ集。佐野さんの魅力は、パワフルさと繊細さが共存しているところ。ある時は強すぎて、ある時は弱すぎる。私もしょっちゅう最強と最弱を行ったり来たりしていて(気分の話)、そんな自分がいやになることもあるけれど、佐野さんのエッセイを読むと、ああ、人間ってそれだからおもしろいのか、と清々しくなる。"できる人"より、"おちゃめな人"を目指したくなります。
2. 『きらきらひかる』
江國香織著 新潮文庫 ¥605
アル中の妻とゲイの夫、という異質な組み合わせの夫婦関係を描いた恋愛小説です。そんなふたりだから、世間や社会の中に置かれてしまうと、とても弱い。けれどもふたりは解決も成長もしないで、むしろそれらを拒んで、弱いまま、癒えないままで生きていこうとしているのだと、私は思います。その姿が痛ましくもあり、これ以上ないほど心強くもある。高校生の時に出会ってから、なんどもなんども読み返している、私のお守りです。
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3. 『カフカ俳句』
フランツ・カフカ著 頭木弘樹編・訳 中央公論新社刊 ¥1,925
フランツ・カフカの小説や日記などから、自由律俳句として読める一文を抜粋して構成された句集。一句ごとに編者の頭木弘樹さんの解説が載っています。「朝、枕にため息をつく」「会話はわたしのせいで絶望的なものに」「いつだって満足するしかない」など、人間ここまでネガティブになれるのかという句が満載。カフカは言わば、弱さを極めた人だと思います。弱さすらも極めれば人の心を強く打つ、ということを証明している本です。
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4. 『鬱の本』
点滅社編・刊 ¥1,980
「鬱の時に読む本」に関するショートエッセイを集めたアンソロジー。「こんな有名人でも鬱の時ってあるんだ」とまず励まされる。そして、鬱の時にしか感じられない心があることに気づきます。でもまあ、それは元気な時に読んだ場合の話で、この本のいちばんすごいところは「奈落の底まで落ち込んでいる時でも読める」ところです。一編が短いし、自己啓発的な要素がない。どんなにだめな自分のことも受け止めてくれます。
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5. 『なぜ人は自分を責めてしまうのか』
信田さよ子著 ちくま新書 ¥968
臨床心理士の信田さよ子さんによる、これまでのカウンセリングの知見をまとめた本。公開講義をもとにしているため口語体で書かれており、とても読みやすい。信田さんは、ずっと現場にいながら家族研究をやってきた人で、その理論も「いま目の前にある問題」のために考えられています。その場しのぎの安らぎではなく、自分の「弱さ」は何に起因しているのか、しっかりと向き合って考えたい人におすすめです。きっと助けになります。
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6. 『生殖記』
朝井リョウ著 小学館刊 ¥1,870
まさかの"生殖本能"が語り手のエンタメ小説。どういうことかというと、つまり"生命の根源的欲求を司るもの視点"で、人間のあらゆる営みが描かれています。労働、出世、恋愛、結婚、出産など、ありとあらゆる人間独自の価値観にふりまわされて悩んでいる人に、ぜひこれを読んで"生殖本能"目線を獲得してもらいたい。生殖本能からすれば、すべての"個体差"は肯定すべきもの。なぜなら、種の存続に多様性は不可欠だからです。
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子役としてキャリアを開始。映画『白河夜船』(2015年)や『光』(17年)などに出演。俳優業の傍ら、エッセイストとしても活動中。
https://www.instagram.com/guama_uchida/
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リトルリーグ インク
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*「フィガロジャポン」2025年9月号より抜粋
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