「お洒落になりたい」人へ、栗野宏文が贈る6冊。【いま知りたいことを、本の中に見つける vol.26】

Culture 2025.09.19

知りたい、深めたい、共感したい──私たちのそんな欲求にこたえる本を26テーマ別に紹介。各テーマの選者を手がけた賢者の言葉から、世界が変わって見えてくる贅沢な読書体験へ!
vol.26は「お洒落になりたい」をテーマに、ユナイテッドアローズ上級顧問クリエイティブディレクター・栗野宏文が選んだ6冊を紹介。お洒落で、格好良くあるために、本を通じて磨かれるものとは?


選者:栗野宏文(ユナイテッドアローズ上級顧問クリエイティブディレクター)

お洒落になりたい。

目の前の誰かが"素敵"に見えるのはどういう時だろう。爽やかな挨拶? 笑顔? 或いはその誰かが活けた花の組み合わせが新鮮であったりする。そこには当事者の"意思"が見える。わたしたちは他者の発するものを受け、反応し、関係を構築する。自分も何かを発する。声で態度で......そして見かけで。何かを発するには自分を知り、他者に想いを馳せ......発信の"核"となる意思や意識を持ち、磨くことが必須だ。たとえば本との付き合いは"核"の充実においてとても大切だ。本を選び、読み、思考する行為は服を選び、組み合わせる行為へと繋がる。

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ワンピース¥154,000/アレッタ(ドーバー ストリート マーケット ギンザ) タイツ¥2,090/パメラマン(ぽこ・あ・ぽこ)  ボビーワゴン3段4トレイ ホワイト¥79,200/ビーライン(メトロクス)

1. 『Unfashion』

Tibor and Maira Kalman著 Harry N Abrams刊 絶版

書籍名を直訳すれば"非・ファッション"。いずれにせよ"ファッション"はここでは"既に存在しているもの"としては扱われていない。近代以降を生きる我々が、例えば"これはおしゃれだ・これはおしゃれではない"と区別し"ものごと"の価値基準としてきた"なにか"に対し無言で突きつけた疑問がこの本である。世界中の編集者がお手本としてきた書籍であり、先入観を無化し、あらたに"格好良いって何だろう?"を考えさせる一冊でもある。


2. 『砂丘律

千種創一著 ちくま文庫 ¥880

コロナ禍が残響する2022年、僕は"読書と身嗜み"というトークイべントを立ち上げた。閉じ籠るだけでなく"考え・行動し・そして『おしゃれしよう』"と。イべントは現在も継続し、今春のゲストは歌人の千種創一。彼は"うた"とことばと文化について語り、応えた写真家、土屋航もそれに哲学や視覚論で臨んだ。アラビア語の専門家である歌人のコーラン音読は官能的な程に響いた。ことばや思想の"美しさ"は会場を魔法で包んだ。

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3. 『スーザン・ソンタグ
「脆さ」にあらがう思想

波戸岡景太著 集英社新書 ¥1,210

スーザン・ソンタグは"格好良い"。それは何事に対しても批判的に立ち向かって生きた姿勢に、と同時に、批評家は"意見製造機となってはいけない"という自律性に、そして徹底的に"考え続けた"ことにおいて。彼女には遠慮や忖度はない。繰り返しもない。スーザン・ソンタグは"スーザン・ソンタグ"という自分のブランドを生ききった。だから格好良い。失礼ながら僕はそこにコム デ ギャルソンの川久保玲との共通性を感じている。

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4. 『声と文字の人類学』

出口顯著 NHKブックス ¥1,760

我々は誤解してきた......文字は音声よりも優位、上位であると? 本著は数々の例でその先入観を解き、また、豊かな他のコミュニケーションの可能性も示唆する。口承で伝えられるものの価値、"おと"が人の深部に響く例。時には"書かれたもの"の限界を軽々と超える"ことば"や"おと"たち......。おしゃれになるには"おしゃれに関する記述"は余計なのかもしれない。"ことばの宇宙のゆたかさ"に浸る、それはお洒落なすがただろう。

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5. 『女たちのテロル』

ブレイディみかこ著 岩波書店刊 ¥1,980

革命される側にとって、革命を起こそうとする連中が格好良いとされては困る。だから抑圧する。しかし"訳あってことを起こし・信条に従って発言し・行動する"人々の輝きは押さえつけられない。チェ・ゲバラの例を待たずとも。英国の女性参政権活動家:E.ディヴィソン、アイルランド独立運動家:M.スキニダー、そして帝国日本に反逆を挑んだ金子文子の意思、発言、態度はすこぶる"格好良い"。彼女たちを全力で描くブレイディみかこのロック魂同様に。


6. 『コモンの「自治」論』

斎藤幸平、松本卓也、ほか著 集英社刊 ¥1,870

"服"は"ひと"をつつむ......心地好く、楽しく、美しく。そして"ひと"のかたまりをつつむのが"家"であり、家々をかこむものが村や町=コミュニティ。気持ち良く生きるにはコミュニティをもっと自分ごとにし、より良くすべきだ。気に入った服を着るがごとく。中央政治や大政党に閉塞感が漂う一方、身近なコミュニティの改善には希望が持てる。複数の筆者を編んだ本著では古着屋のコミュニティ性も描かれる。小売り屋としても嬉しい視点だ。

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栗野宏文|Hirofumi Kurino ユナイテッドアローズ上級顧問クリエイティブディレクター
1953年生まれ。89年ユナイテッドアローズ創設に参画。バイヤー、ディレクターとして80年代から35年にわたって国内外のファッションウィークに参加。トークイベント「読書と身嗜み」主催。著書に『モード後の世界』(扶桑社刊)
問い合わせ先:
ドーバー ストリート マーケット ギンザ
03-6228-5080

ぽこ・あ・ぽこ
03-3477-5006

メトロクス
03-5777-5866

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*「フィガロジャポン」2025年9月号より抜粋

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