【ミュウミュウ】ヴェネチア映画祭で存在感を放つプログラム「MIU MIU WOMEN'S TALES」
Culture 2025.10.14
ミュウミュウが手がけるショートムービープロジェクト「MIU MIU WOMEN'S TALES(女性たちの物語)」の最新作が第82回ヴェネチア国際映画祭でプレミア上映された。国際的に活躍する女性監督たちが21世紀の女性という主題でそれぞれの世界を表現するこのプロジェクトは、2011年に発足してからほぼ毎年「ヴェネチア・デイズ」部門で初公開され、世界の映画人たちの注目を浴びてきた。その参加リストは、ルクレシア・マルテル(アルゼンチン)、アリーチェ・ロルヴァケル(イタリア)、クロエ・セヴェニー(アメリカ)、リン・ラムジー(イギリス)、カルラ・シモン(スペイン)、マティ・ディップ(フランス)、タン・チュイムイ(マレーシア)、そして2019年に90歳で逝ったヌーヴェルヴァーグの伝説アニエス・ヴァルダら錚々たる名前が連なる。
第30作となるのはアリス・ディオップの『FRAGMENTS FOR VENUS』。セネガル系フランス人のディオップは、ドキュメンタリーを経て、長編『サントメール ある被告』が第79回ヴェネチア国際映画祭で審査員グランプリを受賞した注目の逸材だ。本作は21分の短編だが、「その重みは私の長編作品『サントメール ある被告』と同じ」で、「このショートフィルムの進み方は静かですが、そこには政治的意図がある」とディオップは語る。
舞台はブルックリンの美術館。絵画の一枚一枚をじっくり鑑賞する黒人女性と作品を解説するナレーションによって、西洋絵画が黒人女性に与えてきた「視点」(偏見)を読み解いていく。
1970年代以降のフェミニスト映画理論の核である「見る」ことへの視点を描ことで、「私たち黒人は、絵画の歴史から来ています。絵画の中で私たちは疎外され、モノとして扱われてきました」「私たちアーティスト、作家、思想家が生まれ、いまなら自分を表現できる方法をこの映画が証明している」とディオップは解説する。黒人女性たちの存在を顕在化させる力強い讃歌という点で、まさに本作はディオップの核となる主題を描いた『サントメール ある被告』と地続きの秀作といえるだろう。
アリス・ディオップ
1979年生、フランス生まれ。映画監督。『La Permanence』(2016年)や『Vers la tendresse』(2016年)などドキュメンタリー作品で注目される。ブレイクのきっかけとなった長編映画『サントメールある被告』(22年)は初フィクション作品で、ヴェネチア国際映画祭では審査員大賞とルイジ・デ・ラウレンティス賞(新人監督賞)受賞。photography: Brigitte Lacombe
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知的なクリエイターたちが集結するトークイベント。
ミュウミュウは、ヴェネチア映画祭期間中に本プロジェクトの一貫としてトークイベントを開催している。そのひとつである「MIU MIU WOMEN'S TALES(女性たちの物語)」のコミッティメンバーであるマギー・ジレンホールとアドバタイズキャンペーンに登場しているエマ・コリンのトークセッションを紹介したい。
女性俳優として第一線で活躍しているジレンホールとコリンは、監督やプロデューサー、脚本家などにも活躍の場を広げている。
左がエマ・コリン、中央にマギー・ジレンホール。
インディペンデント映画とハリウッド大作を縦横無尽に横断し、キャリアを築いてきたジレンホールは自ら脚本も手がけたエレナ・フェッランテの小説を原作とする『ロスト・ドーター』で長編監督デビューし、第78回のヴェネチア映画祭で脚本賞を受賞するなどフィルムメーカーとして高い評価を受けているが、ポルノ業界で働く女性が映画の監督へと成長していく物語が描いたHBOのドラマ『ザ・デュース/The Deuce』(17-19年)に主演した経験が自らの監督としての資質に築いた転機だったと語る。「仕事の中で経験することが、人生で学ぶことよりも先になることがよくあるんです」
現在は、ゴシックスリラー「フランケンシュタイン」の原作者として知られる作家メアリー・シェリーにインスパイアされた『ザ・ブライド』を制作中だという。
「私の作品における根本的なアイデアのひとつを、ここで初めてお話しします。それは、メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』や『フランケンシュタインの花嫁』という文学を私が心から愛していることは言うまでもありませんし、メアリー・シェリーから私は大きな影響を受けました。それなのに彼女は生前、どの作品においても彼女自身を表現できなかったのです。そして私が作り上げた映画の幻想世界(『ザ・ブライド』)で、彼女はようやく語るべきことを語り尽くすのです」
まだ編集中の最新作は伝記映画ではなく、あくまでジレンホールの空想上のメアリーが登場するとのこと。19世紀という時代に閉じ込められた"女性作家の声"を開放するという極めて興味深いアプローチに、いまから多くの期待が寄せられている。
俳優でクリエイターのマギー・ジレンホール。『セクレタリー』で数々の俳優賞を受賞。
Netflixの大ヒットシリーズ『ザ・クラウン』でダイアナ妃を演じて人気となったエマ・コリンは、クイアでありノンバイナリーを公言している新世代のアイコン的存在だ。
現在は、メアリー・シェリーと同様に19世紀の作家であるジェーン・オースティンの小説『プライドと偏見』のドラマの制作中。主人公エリザベスを演じるだけでなく、エグゼクティブプロデューサーとして名を連ねている。
「制作過程の意思決定全般に関与しています。脚本修正やアイデアについて、私の意見を積極的に求めてくれるのが本当にうれしかったです。でも、撮影現場で自分の意見を発信できるようになるまで長い時間がかかりました。私はどちらかというと実践的に熱狂的に取り組むスタイルが好きで、ただ流れに身を任せてきました。でも、みんなが『いや、ぜひあなたの考えを聞かせて』って言ってくれるのは本当に楽しい」
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今年のヴェネチアでは、中東の民話集を基にしたイザベル・グリーンバーグのグラフィックノベルが原作のコリン主演作『100 Nights of Hero』も監督週間で上映された。
「物語は中世ファンタジー世界が舞台で、これは私の大好きなジャンル。ファンタジー要素もコメディ要素もたっぷり詰まってるし。同時にラブストーリーでもあり、物語を紡ぐ行為そのものを讃えている。この作品に惹かれた最大の理由はそこです、だって舞台は女性が読み書きを禁じられた世界だから。物語を紡ぐ女性が作品の中心にいます。そして物語こそが、世代を超えて女性たちを繋ぎ、共同体を築き、抵抗運動を起こし、自らの声と自由を見出す手助けをする唯一の手段なのです。そういう点が大好きです。物語はすべての人を自由にするのです」
そう語るコリンは現在、脚本も執筆していると言う。
『デッドプール&ウルヴァリン』などに出演するエマ・コリンは1995年生まれ。
物語を紡ぐことは、「声を上げる」ことでもある。女性のフィルムメーカーたちが「演じる」ことだけに閉じ込められず、自由にクリエイションを謳歌する意味を熱く語ってくれた登壇者たちの言葉に、会場からは大きな拍手が送られた。
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text: Atsuko Tatsuta photography: ©MIU MIU