セクシーであっていい! 身体をさらけだす女性が今年のトレンド?

Fashion 2022.02.28

今シーズン、女性が自分をさらけ出しはじめた。セクシーなのは自分がそう望むから。それはひとつのスタイル宣言、そして同時にフェミニスト宣言でもある。

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キム・カーダシアン Instagram/@kimkardashian

2021年夏、ファッション史の専門家、フローレンス・ミュラーは、マイアミの街を歩いていた。そしてすれ違う女性たちがことごとく、クロップド丈や透ける服を纏い、下に着ているマイクロ水着を見せていることに気づいて面白く思った。ウェブマガジンstylezeitgeist.comの創始者であるファッションジャーナリストのユージン・ラブキンも同様の現象を観察した。ただしニューヨークで。彼がBOF(The Business of Fashion)に寄稿した記事「性は売れない。覗き趣味は売れる」では、コロナの規制が解除された後、女性たちが露出度の高い服を思い思いに着てビッグアップルの街中に出現したことを伝えている。

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「“Look but don't touch(見て、でも触らないで)”は、コロナパンデミック後の露出度高め(エキシビジョニズム)なルックに浸透している倫理観です」とユージン・ラブキンは話を続けた。トレンドセッターたちは、この「夏は恋の季節」的なトレンドにいち早く注目し、デザイナーたちもこれに飛びついた。2022年春夏コレクションは、露出度の高いカッティングの服、セカンドスキンのドレスやオールインワン、マイクロスカート、透ける素材のトップス、トップスとしてのブラがプレタポルテのランウェイにあふれかえった。同時にミュグレーの半透明のレギンスや、LVMH2021賞を受賞したネンシ・ドジャカのランジェリー作品は、飛ぶように売れている。

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身体が明らかにしたこと

 

 

ファッションサーチエンジン「タグウォーク」の創設者であるアレクサンドラ・フォン・オートは「非常に強いトレンドでしたので、2022年春夏用に『unveiled body (露わになったボディ)』という特別なタグ(キーワード)を作りました。その後、2021年春夏と比較したところ、今シーズンでは336%以上増加していました」と語った。 このコンセプトを最も多くコレクションに取り入れたデザイナーは? 例えばアルバニア出身の若手デザイナー、ネンシ・ドジャカがいる。紳士服仕立て(テーラリング)の服と組み合わせたコルセット、網素材のグラフィカルなカットアウトをあしらったブラジャー一体型ドレス、ボディスーツ(ベラ・ハディッドが着用)などで、文字通りファッション界に旋風を巻き起こした。ほかにルドヴィック デ サン サーナン、バルマン、ファッションイースト、グッチなども多く取り入れている。

タグウォークによる今シーズンのトレンドキーワードにはこの他、「キャットスーツ」(サンローランやマリーン セルで多用された体にぴったりしたオールインワン)、「カットアウト」、「ミニ」、「トップスとしてのブラ」がある。また、プラダのラフ・シモンズとミウッチャ・プラダは、服を通じたセクシュアリティの表現や魅せる概念に焦点を当てて、伝統的な薄手ニットのポロシャツながら胸がはっきり見える服などを発表した。

とどのつまり、今年目立つのは露わになった女性の身体なのだ。これは、コロナ禍で私たちが身を潜め、ひっそりと過ごさなくてはならなかった反動なのだろうか? トレンド分析を行うカーリン・クリエイティブ社のスタイリストでトレンドセッターのトマ・ジルベルマンは次のように分析する。「確かに、私たちは心地よさを追求する一方で、他者に働きかけ、振り向かせて惹きつける身体作用が存在しないかのように振る舞ってきました。そして今、コロナ禍で私たちの生活から失われていた部分、すなわち他者と交流し、互いに惹かれ合う瞬間を再発見したいという思いが込められたボディランゲージに戻りつつあるのです。また、この現象のもう一つの発信源として特定の世代の女性たちがいます。彼女たちは、他者からの強要されずとも、自分たちの身体がある種のエンパワーメントになることを発見しました。身体を取り戻して自分の好きなようにできる、自由と解放のベクトルです」

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魅力とはなにか

身体を讃えて、女らしさを強調し、セックスアピールする。そんなトレンドに物としての女性、2000年代の幾つかのビッグブランドが提案していたような、異性を惹きつけるための服への回帰を見る悲観論者もいる。オンラインメディアBrutのジャーナリストで22歳のテスは、そんな見方を一笑に付す。「セクシーになるのも、気が向いたらタイトなドレスやミニスカートを着るのも自分の自由です。フェミニストの先輩たちは、自分たちの女性性を否定して男性と同じフィールドに身を置こうとしましたが、私たちは自分の魅力や官能性を主張します。それもまた自分の一部だからです。自分の身体をどうすべきか他人に指図されたくありません。だから逆転の発想です。化粧をするのも、ヒールを履くのも、インスタグラムに水着で登場するのも、それは自分がそうしたいからで、誰からも批判されることではありません。私たちは、何がどうなろうと、女性が性的な存在であることを理解しました。だから、それはそれとして、自分達の基準で行動します」

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テス

テスは、クラブでトゥワークダンス(女性が低くしゃがんだ状態でお尻を振る官能的なダンス)を踊る世代に属しているが、超セクシーに踊るからと言って、それが誰かを誘うものではなく、ましてや近づいていいという合図でもない。かの有名な “Look but don't touch (見て、だけど触らないで)”だ。「今日、フェミニストであることは、女らしさの主張につながり、さらに追求すると立場の逆転が生じます。男性が女性を物扱いすることは許しません。セクシーになるかは自分が決めます。カーディ・Bの“Bad bitch(バッドビッチ)”、つまり、本当は私がボスよ、ということです」

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女体賛美

2020年夏、カーディ・Bとミーガン・ジー・スタリオンはシングル「WAP(Wet Ass Pussyの略)」をリリースした。極めて「性的にポジティブ」な曲に極めて示唆的なビデオはウェブで爆発的な人気となり(24時間で2550万回再生、楽曲の売り上げはいきなり世界1位に)、何よりも熱い議論を呼び起こした。「カーディ・B や ニッキー・ミナージュなど、この世代の女性ラッパーたちは、これまで女性服従の符号だったものを火炎放射器に変えてしまいました。完全な役割の逆転です」とトマ・ジルベルマンは分析する。

 

 

インフルエンサー兼モデル兼女優のエミリー・ラタコウスキーも同様だ。著書『My Body』で、自分の外見を挑発的にひけらかすことがフェミニストの女性解放の一形態であることを語っている。彼女のような完璧ボディでなくても、セクシーな気分になることは許されるのだろうか? 答えはイエス。それもまた、偉大なフェミニスト的勝利であり、新しいボディコンシャスなのだ。そうした意識はお尻が目立つカーダシアン姉妹や、トップモデルのパロマらプラスサイズモデルをランウェイに起用したコペルニやクロエなどのブランドのデザイナーのおかげでもある。

ボディコンシャスという言葉は、1970年代末に伸縮性のある繊維が登場し、身体にぴったり沿う服作りが可能になったことから登場した言葉だ。その代表格はファンタジー溢れるミュグレー、そして洗練されたアライアだろう。しかし、今日「ボディコン」と略されるようになったこの言葉に込められているのは、コンプレックスを感じることなく自分を肯定したい、自分の体の曲線をあますところなく見せる服で自分の体を引き立たせ、女らしさを主張したいという気分なのだ。

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多様な女らしさ

 

 

トマ・ジルベルマンは続けて、「今日のデザイナーたちは、女らしさとは何かを追求し、非常に多様な形で表現しています。ランウェイにはいまやさまざまなセクシーボディが登場しています。ルドヴィック デ サン サーナンはジェンダーの概念を問い、ステラ・マッカートニーはスポーティに、新しいミュグレーやエステル・マナスは包括的な表現を目指しています」と言う。そこにおける身体は決して受動的ではなく、さわやかにしてヒューマニスト、そしてフェミニスト的だ。ヴィクトリアズ・シークレットのように女性の体を誘惑の道具とするようなレベルの女らしさはもういらない。このランジェリーブランドはその古臭いビジョンが数々の不祥事をもたらし、伝説的なファッションショーが姿を消したばかりだ。

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ポストMeToo時代において女性の曲線美を讃えることの意味合いが異なってきている。「“ハイパーフェミニン ”と “ボディコン ”は、現代では異なる概念になってきていると思います。1990年代にはどちらもある種の文化的な美のスタンダード、すなわち痩せていて背が高く若い、という基準を守るための道具として使われていました。いまやカルチャーが変わり、私たちの美の概念はよりオープンになっています。ミュグレーで私が大切にしているのは、セクシーさを求めるすべての人に対応することです」と、同ブランドのアーティスティック・ディレクター、ケーシー・カドウォールダーは言うと続けた。「あらゆる体型やサイズの人に着てもらいたいと思っているので、さまざまな体のタイプに合う服を作るように心がけています。スパンデックスのボディスーツやレギンスは大変人気があります。大胆で目立つ一方、全身をカバーすることで、視覚的に体を細長く見せるからです。どれも伸縮性があり、多様な体型やプロポーションにとても柔軟に対応します」

クレージュのアーティスティック・ディレクター、ニコラス・デ・フェリーチェもこうした女性の身体の新しい見方に賛同する。「今の時代が素晴らしいのは、ファッションが既成概念にとらわれなくなったことです。家父長制社会の反動かもしれませんが、自由でありたい、自分のために美しくセクシーでありたいという女性の気持ちを感じます。創作意欲が湧きます」と言う。彼がデザインした、カッティングを施したビニールのマイクロクレージュドレスは、すべてのサイズで大人気を呼んだ。

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【コラム】ファッション史家、フローレンス・ミュラーの分析
身体を「魅せる道具」とする傾向は、フェミニスト運動の盛り上がりの後によく見る現象で、今日もそうです。1970年代末の状況と類似しているように思います。当時シャンタル・トマスが、物としての女性の概念をうまく昇華させて、50年代のピンナップガールの伝統的なランジェリーを復活させました。その意味合いは多くの闘いを経て、女性たちはピルを飲む権利、中絶する権利、自分の体を自由にする権利を手に入れ、次の段階に進むことができるということでした。つまり、女性性の属性を再認識し、腰、お尻、胸など、女らしさの魅力を引き立たせることです。次いで1980年代には体にピッタリしたボディスーツやボクサーショーツが流行りました。アライアを頂点とした、体を露出するファッションが今日勢いを盛りかえしています。たとえば、リアーナ、ロザリア、マイリー・サイラスといった音楽界の新しいスターたちは超パワフルです。たとえ完璧ボディではなくとも、自分の身体を披露し、圧倒します。ポストMeTooの最後のフェミニスト闘争の後、女性たちが本物の女性であることを自ら許しはじめたかのようです」

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自己認識

包括的なボディコンシャスといえばアズディン・アライアの真骨頂だった。同ブランドの新アーティスティック・ディレクターのピーター・ミュリエも春夏コレクションでこれを意識している。「身体を意識する傾向への回帰はこのブランドにとって願ってもないことです。ひとつには何事にも果敢に挑戦し、非常に視覚的な方法で自分の身体とコミュニケーションする新しい世代が原動力となっていること、そして、これがすべての女性に力を与えるためにデザインしていたアズディン・アライアの仕事へのオマージュとなっているからです。彼は女性たちが自分たちの身体を肯定し、その美しさを引き出してほしいと願っていました」。こうした新しいボディコンシャスは、このポスト・パンデミックの空気の中で、服従することなく好きなように魅せる力を女性の手に取り戻す。それは自分の体を卑下することなく、行動し個性を高めるための手段として身体をみなすニューウェーブのフェミニズムなのだ。女性を「か弱い性」なんて呼ぶのは、もう的外れなのかもしれない。

text: Marion Dupuis (madame.lefigaro.fr)

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