マダムkaoriの23SSパリコレ日記 折り返しの5日目は待望のロエベ、おいしいディナーも。
Fashion 2022.10.11
元「フィガロジャポン」の編集長でもあり現在ファッションジャーナリストとして活躍中のマダムKaoriこと塚本香さん。
2年半ぶりにパリコレ参戦中。リアルで見たかったというコレクション、そしてパリディナーの様子まで。折り返し5日目スタートです。
9月30日 快晴のパリ、コレクションも折り返し
9日間のパリコレ取材もようやく折り返し地点に来ました。今日は快晴。とはいえ、昨日も午前中はお天気だったのに午後にはどしゃ降りの雨、というパリのお天気、信用できません。
それでも、心地よい青空の下、ロエベの会場に到着。”Gendarmerie National-Grade Repullicane”と呼ばれるここは、フランス国家憲兵隊の建物。エルメスもしばしばショー会場として使用しているのも、馬術の訓練も行われる場所ゆえ。この日もその真っ最中で、会場に向かう足を止めてしばし見入ってしまいました。
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さて、いよいよロエベです。今回のパリコレで絶対に生で見たいと思っていたショーのひとつ。コロナ禍でもアイデアあふれるデジタル配信を行なってきたジョナサン・アンダーソンですが、ランウェイ復活の2022年春夏コレクションでミニマリズムを宣言。「これからは実験の時、新しい美を誕生させる時」と語って時代を牽引する新たなステージに向かっている彼なので、今回も期待大。そしてそれを裏切らないコレクションでした。自然光の入る白い床の会場には巨大なアンスリウムのオブジェが置かれています。実は招待状もこのアンスリウム(オブジェでなく本物)とともに送られてきました。
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この植物が今季のテーマを象徴しています。赤いハート型は花ではなく「仏炎苞」という葉の一種、その中心に伸びている肉穂にたくさんの小さな花を咲かせるというアンスリウム。「まるでデザインされたオブジェのようにも見える自然界の産物」とショーノートでジョナサン・アンダーソンが語っているように、この花を出発点に「デザインが真っ向から主張するコレクション」が展開されていきます。
ファーストルックはワイヤーでスカートのフロントのみを膨らませた黒のベルベットのミニドレス。サンダルの右足だけに大きなアンスリウムがあしらわれています。モデルはティモシー・シャラメと共演した新作映画『Bones and All』が話題のテイラー・ラッセル。彼女が着ることで不思議なフォルムのドレスがリアルな存在感を放っています。
続いて登場したのはメタルのアンスリウムのトップスにミニスカートの組み合わせ。オブジェのようでもあり、でも、服としても美しい。その後もアンスリウムのモチーフはさまざまにアレンジされて繰り返し登場してきます。
加えて、引き算して縮小したり、伸長して変形したりというデザインが主張するミニマルルックが続きます。子ども服のように小さく仕立てたニットのミニドレス、ミニチュアサイズのハンティングジャケットやボマージャケット、それとは逆に袖が長~く伸ばされたレザーのシャツドレスやスウェットドレス、布をねじりパッド加工を施したTシャツやチノパンなど、一見スタンダードなアイテムにも不思議なノイズが加えられている。
でも、そのノイズこそがジョナサン・アンダーソンが目指す新しい美には不可欠なのかも。リアルだけど退屈じゃない、心をざわつかせるこれまでのリアルを超えた服。服のリアリティを誰とも違うアプローチで探求するアンダーソンのロエベにこれからも目が離せません。
ちなみに私のお気に入りはフラワーペイントのエナメルメタルのドレスとアウトポケット付きのAラインのハンティングジャケットのルック。ドレスは商品としては販売されないランウェイのみのピースかなと思いますが、このコーディネートは完璧! リアルとアンリアルをぎりぎりで組み合わせた感性に脱帽します。でも、この花柄メタル、ミニドレスでなく後半に登場するねじれたパンツとのスタイリングなら日常に着てみたいです。
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ロエベの感激を胸に次のイッセイ・ミヤケへの移動は、例の会場と会場を結ぶファッションウィーク公式バスで。19区ヴィレットのParis Event Centerが会場なのでここからはかなり距離も時間もかかります。でも、バスのなかでうとうとしているうちに到着、同乗していたジャーナリストに起こされるという始末。そろそろ疲れも溜まってきてますね。
でも、その疲れを癒やしてくれるようなイッセイ・ミヤケの2023年春夏でした。ブランドの創始者である三宅一生さんがこの8月に逝去されて初めてのコレクション。ショー前には故人を偲んで、会場の壁に「I believe there is hope in design. Design evokes surprise and joy in people(私はデザインには希望があると信じています。デザインは人に驚きと喜びを喚起するものです」という言葉とともにポートレートが映し出されました。
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その後スタートした現デザイナー、近藤悟史さんのランウェイも一生さんの言葉のままに驚きと喜びに満ちあふれたもの。”A Form That Breathes―呼吸するかたちー”というテーマどおり、ランウェイを歩くモデルたちの動きに合わせて、服が揺れて弾んで膨らんで、自由なエネルギーを発散しています。
1枚の布で彫刻のトルソーの形を表現した「TORSO」はかっちりと見えて伸縮自在、着ることでさらに立体的なフォルムが際立ちます。繊細な無縫製ニットの「ASSEMBLAGE」シリーズは軽やかに透けて身体も心も解き放ってくれるよう。フィナーレにはダンサーたちがそのヌードベージュのドレスやセットアップを纏って登場、しなやかに躍動するパフォーマンスを披露。モデルたちもダンサーたちとともにリズミカルに動き笑顔でランウェイを駆け抜けていくエンディングは大きな拍手に包まれて。服と人がつながって希望が生まれる、近藤さんが届けてくれるファッションのJoyに毎回、胸が熱くなります。
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しかし、会場の外に出るとそのJoyも消えて、現実は厳しい! 地下鉄を乗り継いでパリの中心部に戻ってランチもとらずに展示会をこなし、そして、今日のラスト、クリスチャン・ルブタンの2023年春夏の新作コレクション発表へ。
ルブタンの会場はなんとエッフェル塔のギュスターヴ エッフェルルーム。一般のツーリストと同じ通路しかなく、エントランスもエレベーターも大混雑。パリの観光客は本当に増えてます。並んで待ってたどり着くまで30分以上。でも「THE LOUBISHOW Ⅱ(ザ ルビ ショーⅡ)」というオリジナルのダンスパフォーマンスによるコレクションショーはその価値、ありました。
ルブタンのシグネチャーである真っ赤なハートモチーフが置かれたステージで、13人のダンサーたちが新作のリップストラス ヒールのパンプスやネオンカラーのサンダルを履いてグルーブ感いっぱいに踊ります。ダンサーの足元だけでなく会場全体に新たに登場するシューズやバッグが展示されて。
ショーの後、地上に降りるエレベーターも30分待ちというさらなるオチもありましたが、ダンスを愛するルブタンならではの粋なショーを堪能。こういうのもパリコレの醍醐味です。
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まあまあ頑張った後半戦初日のご褒美は、モンパルナスにあるRestaurant TOYOでのディナー。中山豊光シェフの日本の懐石料理を融合させたようなモダンフレンチは疲れた胃にも優しい。シャンパンを飲みながら、季節の素材を使った目にもおいしいコース料理を完食。しっかりエネルギーチャージできたので、明日からのパリコレ後半戦も頑張れそうです!
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Vol1.ファッションジャーナリスト塚本香の23SSパリコレ日記スタート!
Vol2.Blackpinkのジスに遭遇! 感激のパリコレ2日目へ。
Vol3.ドリス ヴァン ノッテンに胸を熱くしたパリコレ3日目。
Vol4.4日目はクロエのショーからスキャパレリの展覧会まで。
ファッションジャーナリスト/エディトリアルディレクター。
1991年より「フィガロジャポン」の編集に携わる。「ヴォーグ ジャパン」のファッションディレクターを経て、2003年「フィガロジャポン」編集長に就任。その後、「エル・ジャポン」編集長、「ハーパーズ バザー」編集長とインターナショナルなファッション誌の編集長を経験し、今年からフリーランスとして活動をスタート。このコロナ禍までは毎シーズン、パリ、ミラノ、ニューヨークの海外コレクションに参加、コレクション取材歴は25年以上になる。
Instagram:@kaorinokarami
text & photography: Kaori Tsukamoto