ピエール・アルディが語る、色彩が主役のエルメスハイジュエリー。
Jewelry 2024.11.20
2年に一度、エルメスが発表するハイジュエリーコレクションは、ジュエリーの既成概念を軽やかに超越するグラフィックかつアーティスティックな作品集。クリエイションを手がけるピエール・アルディが、色彩あふれる新コレクションを語る。
照明を落とした会場の大きなウィンドーに、虹の色彩を放つジュエリーが浮かび上がる......。去る6月、パリの装飾美術館の大広間を舞台に、エルメスのハイジュエリーが発表された。ジュエリー部門のクリエイティブ・ディレクターを務めるピエール・アルディが放つ新コレクションは「レ・フォルム・ド・ラ・クルール」(色の形)。グラフィックなデザイン性が際立った前回までのコレクションから一転、7色の虹を思わせる鮮やかな色彩が主役だ。
「エルメスにとって色は非常に重要な表現手段、メゾンの美学の一端を担うものです」とアルディは言う。
「ジュエリーはメゾンの中でも若いメティエ(製品カテゴリー)。お手本がない中で、ほかのメティエとは違う色の言語を模索しました。前回の『ジュ・ドゥ・オンブル』では光と影が生むニュアンスを追求しましたが、今度は色のプリズムをさまざまな方法で探求しようと考えた。色はずいぶん前から考えていたテーマですが、いまそのタイミングがやってきたというわけです」
このコレクションの出発点は、80年代のミュージカル映画『ザナドゥ』のワンシーンからインスパイアされた「カラー・アイコン」のシリーズだった。
「ダンサーが動くと後ろに光の帯ができるシーンがあります。ダンサーの姿は確認できるが、同時に色によって完全に変形しています。誰もがよく知る『ケリー』や『シェーヌ・ダンクル』を変形し、色によってその見え方を変えること、それが最初のアイデアでした」
光のバイブレーションから生まれる色は、アルディらしい知的考察と理論を通して、次々とジュエリーの形に昇華された。色彩理論から発想したのは、「ポルトレ・ド・ラ・クルール」のリング。
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「ある一定の色を長時間見つめるとフォルムが見えてくるという理論があります。この抽象的な理論を転用し、それぞれの石の色の典型的なフォルムを取り入れました」
「フレッシュ・ペイント」では、まるで画家が肌の上に直接絵筆を乗せたかのように、色石が色とフォルムを描き出す。また、アルディが理論と感覚の出会い、と説明するのは「アルク・アン・クルール」の波打つネックレス。
「色彩は光のバイブレーション、ある一定の波動が赤や青の色になります。その色の波動を手首や胸元に置いたらどんな形にできるか、と」
これまでとは違うアプローチで、センターストーンからデザインを始めたシリーズもある。
「『カラー・バイブス』では、センターストーンが内部に秘めるデザインをジュエリーの形にしようと考えました。石自身の強さ、色、形がどのように空間の中に拡散していくのかを表現したものです」
これまでよりずっとたくさんの色石を扱った本コレクション。小さなストーンを集めてグラデーションを描き、白い光が何色にも分解される色のニュアンスを探し、時には数種類の色を混ぜて明暗を表現した。
「トーンの違うブルーやオレンジを組み合わせて表現すること、それを表現できる石を探すことはエキサイティングな経験でした」
アルディは、エルメスのハイジュエリーを自動車メーカーのレーシングチームにたとえる。
「彼らは街を走れるか、安全性や快適性はどうかなど、商業的なクルマ作りとは無縁のところにいます。そこは技術やコンセプト、美的な面でも最先端の研究が行われる場所。ハイジュエリーも同じことです。エクスペリメンタルな面がある。ユニークピースであり、この分野で最高のものを追求します。いままで見たことのない新しさをどうやって作り出すか? 人を驚かせ魅惑し、さらには女性たちを誘惑する力さえ持ったオブジェを追求しているのです」
Pierre Hardy
最高学府であるエコール・ノルマル・シュペリウールを修め、1990年にエルメスのシューズ部門、2001年にジュエリー部門のクリエイティブ・ディレクターに就任。10年、初のハイジュエリーを発表。ビューティのオブジェデザインも務める。©Mathieu Raffard
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photography: Hermès ©Harley Weir, ©Guide Mocafico text: Masae Takata (Paris Office)