自然派ワインの造り手を訪ねて。Vol.1 前編 生ける自然派ワイン界の伝説、ロビノを訪ねて。

Gourmet 2019.10.18

“自然派ワイン”の定義はさまざまだが、共通しているのは造り手が自然に敬意を払い、その年の気候と向き合いながら造る、“土地をぎゅっと搾ったような”味のするワインであること。アタッシェ・ドゥ・プレスとして活躍する鈴⽊純⼦は、企業のブランディングやコミュニケーションを手がけるいっぽうで、そんな自然派ワインの造り手を訪問することをライフワークとしている。

フランスを中心に各地のワイナリーを訪ね、そこで出会った造り手との絆を深めてきた彼女が、造り手たちの言葉、そして彼らが愛情をかけて造るワインについて紹介する。


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Profil #01
○名前:ジャン=ピエール・ロビノ Jean-Pierre Robinot
○地方:フランス・ロワール
○ドメーヌ名:レ・ヴィーニュ・デ・ランジュ・ヴァン Les Vignes de lʼAnge Vin

ジャン=ピエール・ロビノとの出会い。

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⽣ける⾃然派ワイン界の伝説、ジャン=ピエール・ロビノ。
世界中のトップレストランでオンリストされる偉⼤なるワインの造り⼿であり、その⼈柄も相まって彼のことを嫌いな⼈はきっといないだろう。

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2年に⼀度アルザスで開催されるワインサロン「サロン・デ・ヴァン・リーブル」でのジャン=ピエール・ロビノ。Tシャツには「フィロソフィーは存在する」といういかしたメッセージが。

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このサロンは⾃然派ワイン⽣産者たちが⼿作りで開催している、こぢんまりとしたピースフルなサロンだが、こちらについてはまた別の機会に。

パリの伝説的ワインバー「ランジュ・ヴァン(lʼAnge Vin)」オーナーであったロビノ。
世界中にムーブメントとして広がった、⾃然派ワインの礎を築いた造り⼿マルセル・ラピエールなどをパリで初めて紹介した彼は、「雷に打たれたように」出合った⾃然派ワインを広めたいと、執筆活動も精⼒的にこなしていた。だが、より⾃然を感じたいとの思いから、⼤⼈気だったワインバーを潔く売り払い、2000年に造り⼿へ転⾝。彼の故郷、ロワール渓⾕のトゥールとル・マンの間の⼩さな村に、奥様のノエラとともに古いブドウ畑を購⼊。栽培・醸造を始めた。

推定年齢70歳を超えていまなお、「真夜中に20歳に⽣まれ変わる!」が⼝癖のエネルギッシュな彼と初めて出会ったのは16年、アルザスで開催されるワインサロン「サロン・デ・ヴァン・リーブル(Salon des vins libres)」だった。その当時パリへ短期語学留学中だった私に「Junko, Tu vas bien?(ジュンコ元気かい?)」と温かく声をかけてくれたことをよく覚えている。

試飲を申し込むと、「こちらに来なさい」と彼の横に通され、ロビノと腕を組みながらの試飲(!)。後にも先にもそんな試飲スタイルの経験はもちろんない(笑)。

そこから彼との交流が始まった。彼のドメーヌ(ワイナリー)を訪問したり、彼がパリに来るタイミングで飲みに⾏ったり。「僕はジュンコみたいな⼥性を敬愛している。考えて“鍵”を⾒つけ、⾃⾝の⼒で道を切り開いていく強さをもった⼥性を、ね」 など、フランス⼈らしいウィットに富んだ⾔い回しで励ましてくれる存在。

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記念碑的な写真になるから、と⾔われてのひとコマ。いつものキメ顔のロビノ(中央)の隣には、フランソワ・モレル(左)。
彼の盟友でありフランスにおける⾃然派ワインムーブメントの黎明期を⽀えた⼈物。

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ロビノのドメーヌを訪ねて。

今年の5⽉、彼のドメーヌ「レ・ヴィーニュ・デ・ランジュ・ヴァン(Les Vignes de lʼAnge Vin)」訪問を申し込んだ。
「パリで合流して、ワインバーをホッピングして、それからうちのドメーヌに来ないかい?」。ふたつ返事でOKするも、数⽇後には「季節外れの氷点下の予報で、畑を離れられなくなっちゃったよ」と再び連絡が。残念ながらロビノとのワインバーホッピングはキャンセルになってしまったものの、畑が気になりすぐに彼のドメーヌに向かった。

この時期のロワールはブドウの開花前のタイミングであり、氷点下の冷え込みがきたらブドウはたちまちやられてしまう。 年々厳しさを増す⾃然は、造り⼿への試練も増やしていることを実感する。ロワール渓⾕エリアに位置する彼の⽣まれ故郷、シャエーニュにある彼のドメーヌ。ロビノの⾃邸に到着すると、ロビノと奥様のノエラ、そして愛猫のプリンセスが迎えてくれた。

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1850年に建てられた自邸。向かって右手は元馬小屋だったそう。

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シンボルツリーの西洋菩提樹。あまりに大きな木ゆえ、風が通るとまるで雨音のような葉擦れの音が響く。

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さっそく食事でもてなしてくれたロビノとノエラ。

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ロビノが手ずから育てた鶏のロースト。

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フランス人、なかでも醸造家の食事の傍らには必ずワイン。エチケットは付けておらず、その場で手描きしてくれた。

塩を使わず、素材の味をそのまま⽣かした滋味深い味わいの料理は、セージなど⾃⽣のハーブたち、胡椒、マヨネーズソース、 オリーブオイルなどで仕上げられる。⿂以外のほぼすべての素材が彼の農場や友⼈・知⼈のところで採れたもの。

試飲をしてやっぱり彼のピノ・ドニスのワインは最⾼だと、何度⽬かの確信をする。彼のトップキュヴェである「カミーユ・ロビノ」は、樹齢100年超えのブドウを1年以上かけてシュール・リー()で熟成させ、樽熟成・瓶詰め熟成を経て世に出される。シルクの布のような、どこにも引っかかりのないエレガントな味わい。「『ロマネ・コンティ』みたいだろ」とロビノが笑う。⾷事のメインディッシュ、⽩⾝⿂のセージ蒸しと素晴らしく合う。ローカルな品種でありながら、彼の造るピノ・ドニスほどエレガントなそれを私は知らない。彼のことを「ムッシュ・ピノ・ドニス(Monsieur Pineau dʼAunis)」と敬愛を込めて呼んでいる。

*シュール・リー:フランス語で「澱の上」という意味。ワインの発酵後、発生した澱を取り除かずにそのまま容器底部に残し、ワインと一緒に数カ月保存することで複雑味、旨味を引き出す製法。

>>後編に続く。

鈴木純子 Junko Suzuki
フリーのアタッシェ・ドゥ・プレスとして、食やワイン、プロダクト、商業施設などライフスタイル全般で、作り手の意思を感じられるブランドのブランディングやコミュニケーションを手がけている。自然派ワインを取り巻くヒト・コトに魅せられ、フランスを中心に生産者訪問をライフワークとして行ういっぽうで、ワイン講座やポップアップワインバー、レストランのワインリスト作りのサポートなどを行うことで、自然派ワインの魅力を伝えている。10月25日(金)、26日(土)に銀座ソニーパークのポップアップストア「ÉCRU. GINZA」にて、パティシエールのオザキリエ氏とワインイベントを開催予定。詳しくはインスタグラムにて。
Instagram: @suzujun_ark

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photos : AYA KAWACHI (TITLE), JUNKO SUZUKI

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