自然派ワインの造り手を訪ねて。Vol.4

自然派ワインの若き造り手の兄貴的存在、ババス。

いまワインの世界で大きな潮流となりつつある自然派ワイン。フランスでその自然派ワイン造りに真摯に取り組む造り手たちと、彼らが生み出すワインに魅了されたアタッシェ・ドゥ・プレスの鈴⽊純⼦が、ワイン造りの現場からレポート。

特集

April 5, 2020

アタッシェ・ドゥ・プレスとして活躍する鈴木純子が、ライフワークとして続けている自然派ワインの造り手訪問。彼らの言葉、そして愛情をかけて造るワインを紹介する連載「自然派ワインの造り手を訪ねて。」。今回は、若い自然派ワインの造り手たちが多く参加するワインサロンを主催、自身も酸化防止剤不使用のワインを造り続けるババスを紹介する。


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Profil #04
○名前:セバスチャン・デルヴュー Sébastien Dervieux
○地方:フランス・ロワール(アンジュ)
○ドメーヌ名:レ・ヴィーニュ・ド・ババス Les Vignes de Babass

若手自然派生産者の登竜門的サロン「アノニム」。

収穫からの作業がひと段落する冬から畑仕事が始まる春までは、ワインサロンシーズン。とりわけ2月初旬のロワールではいくつものサロンが開催され、最新ヴィンテージを先んじてテイスティングできる機会ということもあり、世界中からワイン関係者や愛好者が集って“ワイン色の日々”が繰り広げられる。

その中でアンジュのワインサロン「アノニム」(Les anonymes/名の知れぬ、の意)は、熱い思いを持つ若手生産者が多く参加し、開場とともに満員になる人気ぶり。

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アノニムのサロン入口。たいていのサロンはグラス代を支払って入場する。

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熱気あふれるサロン会場は、移動するのも大変なほど。

その「アノニム」主宰者のひとりであるババス(セバスチャンのニックネーム)・デルヴューは、2010年に惜しまれながら解散した伝説のドメーヌ「グリオット」のひとりであり、自身の名を冠した「レ・ヴィーニュ・ド・ババス」を立ち上げた現在まで、酸化防止剤ゼロのワイン造りを貫いている。

長身痩躯、彼が愛するロックスター然とした佇まいのババスは、なぜ「アノニム」を立ち上げたのだろう。若手の造り手から兄のように慕われる彼の思想にもっと近づいてみたい。そう思い、18年初夏のある日、彼のドメーヌに向かうことにした。

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ババスのドメーヌを訪ねて。

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ババスのリビングルームには、アルファベット順に並ぶレコードとギターがずらり。レコードの音楽が終わった時のジジジ……という音が会話の間に心地よく響いた。

奥様のアニエスと迎えてくれたババスは、「まぁ、飲もうぜ!(On boit un coup!)」とリリース前の2本を用意してくれていた。瓶詰め前のシュナン・ブラン「ジョセフ・アンヌ・フランソワーズ」2017年は、マロラクティック発酵(*1)もほぼ終わり、今年の収穫が始まる前、8月中には瓶詰めするとのこと。

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「ジョセフ・アンヌ・フランソワーズ」。エチケットには農工具から直接グラスに注がれるワインが描かれており、彼の思想である“畑から生み出される味をそのままに”を表現している。

*1 マロラクティック発酵:ワインに含まれるリンゴ酸が、乳酸菌の働きによって乳酸に変化すること。この工程を経ることでワインの酸味がまろやかになる。

もう1本、すでに瓶詰め作業が終わったカベルネ・フラン「ロック・キャブ」2017年は、2016年より色が濃いめでフラン特有の青臭さ、土っぽい味わいも強い。

聞くと、それは暑かった17年の気候を反映しているからだ、と。例年は9月中旬からスタートする収穫も17年は9月初旬だったそう。

思えば毎年変わる気候や自然環境を反映し、味わいも変わるのは至極当然のこと。ババスのワインに毎年差異を感じていた身にとっては、すとんと腑に落ちる。

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受け継がれる、自然派ワインの歴史を映す伝説の畑。

ババスの持つ畑は、特別なものだ。“自然派ワインの神”と言われるピエール・オヴェルノワなどとならび、1950年代から自然派ワインを造っていた数少ない生産者であるハケット姉妹(アンヌ、フランソワーズ)と兄のジョセフから受け継いだ畑。
彼らが引退する際、志は高くとも無名の若者であったババスたちに無償貸与され、いまも交流が続いている。

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ハケット姉妹とババス、奥様のアニエス。18年当時でそれぞれ94、96歳でご存命とのこと! 自然派ワインは薬なのかも!?

お気に入りの近くのピザ屋でランチの後、3キロ離れた畑に連れていってもらう。畑は現在約4.14ヘクタール。シュナン・ブラン、グロロー、カベルネ・フランのうち、いちばん古い樹齢の畑は「ロック・キャブ」の1955年(65歳!)。ハケット姉妹から引き継いだ大切な畑たちから、年間最大12,000本のワインを生み出している。

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隣のAOCエリアのコトー・デュ・レイヨンは湿度が高く秋冬は霜が降りるが、ババスの畑は標高が高く風通しがよい。

地質は粘土質にブルターニュ高地からのシスト(schist/結晶片岩)が混在し、雨が降ると泥のようになり、乾くと固くなって、トラクター作業が大変な地質。

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シストは層構造が明瞭な見た目をしており、薄く割れやすい。

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開花時期を過ぎ、ブドウの実が気持ちよさそうに育っていた。

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“酸化防止剤ゼロ”を貫く、ババスのワイン造りの現場へ。

9月18日。ババスの収穫に立ち会うため、ふたたびアンジュの地へ発った。
通常はトータル15日間ほどで終える収穫はグロローから始まり8日目。現在はシュナン・ブランの収穫中で、最後にカベルネ・フランの収穫を行うそうだ。

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ちょうど休憩中のババス。ロックスターのような風貌からは想像できないような、クシャっとした笑顔で迎えてくれる。

カーブに入ってすぐ目に入るのは、1960年代の樫の木製の圧搾機2台。まさかの手搾り!

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ブドウから出るジュースの塩梅を見ながら“車のタイヤ交換”みたいにジャッキでプレスしていく。

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圧をかけすぎないようコントロールされ、少しずつ流れ出てくるジュース。

ブドウの実は球体のため、1回では搾りきれない。そのため重しの板を取り外し、ピヨッシュ(くわ)でかき混ぜてまたプレス。白ブドウはそれを2回繰り返し、一晩置く。手仕事で醸造する、ということは膨大な時間と作業量が必要なのだ。

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ピヨッシュでブドウを混ぜ合わせるババス。

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板を外した後、プレスされたブドウたち。自然が描いたモザイク画みたいだね、と伝えたら笑ってくれた。

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朝7時から収穫されたブドウは、フォークリフトを使ってカーブ内に積み上げられていく。

ババスのワイン造りはその年の特徴を反映しやすいシンプルなもので、収穫時は選果せず、基本的にすべてのブドウを収穫する。自然には揺らぎがあるもの、今年の作柄としてすべてを受け止めたい、とババス。

醸造においては、赤はマセラシオン・カルボニック(*2)。「軽いニュアンスを出したいから。早飲みできるし、仕事量が少ない。何より味わいを気に入っている」と。ブドウ自体の旨味をジュースに染み込ませるために、果皮がしっかり浸かっていることが大事。ジュースが少ない年は混ぜることもあるが、それもその年の味になっていく、と。

年ごとの変化を含めた、ババスを取り巻く環境の中で自然に寄り添って造ることで、唯一無二のババス節のワインが出来上がるのだ。

*2 マセラシオン・カルボニック:主にボジョレー・ヌーヴォーに用いられる技法。ブドウを破砕せず、二酸化炭素と一緒にタンクの中に置いて発酵させることで、フレッシュな香りと濃い色合いを併せ持つワインが造られる。

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タンクには収穫を終えたマセラシオン中のグロローが。途中で淡い色の液体を皆で試飲した。グロゼイユ(赤スグリ)みたいだな、とババス。

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サロン「アノニム」を始めた理由。

ふとした話題からババスが何気なく発した言葉が、ババスから聞きたかったことだった。それは、サロン「アノニム」を始めたきっかけについて。

「技術革新があったことで世の中の合理化が進み、手づくりのものが減り、“うまいもの”がなくなってしまった。本当にうまいものを知らない人も昨今は多いだろう。いっぽうでうまいものを作ろうとしている若者たちがいるが、資金やネットワークが足りず、自身のことを伝えたくともその土俵にすら上がれない。

本当にうまいもの、そして、うまいものを楽しむ時間を提供しようという志を持っている彼らをサポートしたい。そこから生まれたのが『アノニム』なんだ」

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「アノニム」のリーフレットとグラス。

ほろりと落涙した。
彼はギターをピヨッシュに持ち替えた、いまもロックスターだ。その眼差しと奏でる“音楽”でよき世界に人々を連れていってくれる。
できるだけ彼のワインを毎年飲み、彼の“ライブ”に参加したい。そう思った彼との時間であった。

鈴木純子 Junko Suzuki
フリーのアタッシェ・ドゥ・プレスとして、食やワイン、プロダクト、商業施設などライフスタイル全般で、作り手の意思を感じられるブランドのブランディングやコミュニケーションを手がけている。自然派ワインを取り巻くヒト・コトに魅せられ、フランスを中心に生産者訪問をライフワークとして行ういっぽうで、ワイン講座やポップアップワインバー、レストランのワインリスト作りのサポートなどを行うことで、自然派ワインの魅力を伝えている。
Instagram: @suzujun_ark

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大好きなヴァンナチュールが買える&飲める、ワイン好きの楽園。

photos et texte : JUNKO SUZUKI

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