アメリカの若者の間で「永久避妊」が爆発的に普及している理由とは?

Lifestyle 2025.01.16

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アメリカでは現在、精管切除(パイプカット)や卵管結紮(けっさく)を受ける人が増加している。中絶手術が受けづらくなったことに加え、ドナルド・トランプの米大統領再選がその背景にある。政治学者ニコル・バシャランに話を聞いた。

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米最高裁の中絶権利否定判決に反対するプラカード。photography: Reuters/Aflo

2022年6月24日、アメリカの連邦最高裁は中絶が憲法上の権利であることを認めた50年前の判決を覆し、各州が独自のルールを制定することを決定した。それ以来、保守的かどうか、北部か南部か、共和党優勢か民主党かなど、州ごとに状況は変わってきた。このことは、すでにアメリカ人の避妊習慣に影響を及ぼしている。

ジョージ・ワシントン大学の研究者が1月6日の「ヘルス・アフェアーズ」誌に発表した研究によれば、最高裁決定後の数カ月間で永久避妊希望者が大幅に増加したという。パイプカットの予約件数は2022年5月時点で175件にすぎなかったが、同年8月には350件と倍増している。同時に、卵管結紮の予約件数は3ヶ月間で70%も増加した。

こうした傾向は中絶の権利が制限されている、あるいは将来制限される可能性が高い州で顕著となっており、ドナルド・トランプがホワイトハウスに返り咲いたことで、さらに強まる可能性が高い。米国を専門に研究する政治学者・歴史家のニコール・バシャランがこの現象を説明してくれた。

ーーパイプカットに卵管結紮など、アメリカでは、若い男女が永久避妊を決断する傾向が強まっています。それはなぜでしょうか。

不安だからです。比較的若くして子どもはもう作らないと決めること、しかも自分の決断を確信していることは、不安感の現れです。米国に特有の問題が中絶手術です。国内の21の州で事実上禁止されています。アメリカ人は今、避妊の権利がさらに制限されることを恐れています。最高裁がこの問題に関する全権を各州に与えて以来、自分で自分のことを決められなくなると考えた人たちの間である種のパニックが起きています。望まない妊娠や、経過が思わしくない妊娠の場合でも治療が受けられない、あるいはとんでもない条件でしか治療を受けられないという恐怖が存在します。

ーードナルド・トランプの再選は新たな不安を生んでいるでしょうか。

ドナルド・トランプの政権復帰は多くの人々を不安にさせています。特に今回の任期では超保守政権になると予想されているからです。個人的には、トランプ氏が避妊に関する法律をことさら厳しくするとは思っていません。結局のところ、彼は中絶問題で多くの票、特に女性の票を失いましたから。その一方で、彼は自分と一緒に政権を担う人選を慎重に行うでしょう。

ーー避妊に関して、アメリカ人の不安の種はこうした政治的背景だけなのでしょうか。

まだすべてが明確になっているわけではありません。経済的な理由も、永久避妊を使用する原因になっているかもしれません。20年間子どもを育てる経済力も、中絶費用を支払う手段もないような層においては、永久避妊の人気があるようです。一方で子どもを産まないという選択は世代間の問題でもあります。ほとんどのヨーロッパ諸国のように、若い女性が中絶にアクセスできる場合でも、この問題はますます深刻になっています。気候変動、地政学的緊張、不確実な世界情勢等々、子どもを持ちたくない理由は山のようにあります。

ーーもともと米国では永久避妊に頼りやすい傾向にあるのでしょうか。

比較的簡単に選択しますね。私の知る範囲でアメリカ人はなかなか過激な選択をします。例えば、アメリカでは帝王切開が非常に多いこともその一例です。永久避妊に話を戻すと、男性がこの手術を受けた場合でも、それがやりすぎだとか、社会的に後ろ指を指されるようなことはありません。

ーー過去2年間に保守的な州で導入された中絶の権利に対する厳しい制限に続き、カイザー・ファミリー財団の最近の調査によれば、アメリカの成人5人に1人が避妊を「今後奪われるかもしれない危機にある権利」だと恐れています。そして、この恐怖は若者の間で強く感じられているようです。

1973年以来、米国で中絶を憲法上の権利として保障してきたロー対ウェイド事件が最高裁で覆されたにもかかわらず、まだ不満を抱える超保守主義者は常に存在します。中絶に続き、今度はモーニングアフターピルの規制、医師に対する監視を求める声が上がっています。避妊に反対する動きは最近始まったことではないゆえに、今や現実的なリスクとなっています。オバマ政権下でさえ、多くの企業や団体が、従業員のために用意した医療保険で避妊をカバーしないことを裁判所から認められていました。それがオバマケアのパッケージの一部であったにもかかわらず。だからバラク・オバマは避妊費用の補填を約束しなければなりませんでした。こうした意味でもトランプ政権への不安が高まっているのです。

ーー2024年6月に発表された調査結果によると、中絶禁止令が採択された州では、薬局で調剤される避妊薬やモーニングアフターピルの量が大幅に減少したそうです。これは家族計画クリニックが閉鎖された結果です。最高裁が人工妊娠中絶の憲法上の権利を否定して以来、他にどのような変化があるでしょうか。

テキサス州では、新生児の捨て子数が増加傾向にあると言われており、監視が始まっています。これは中絶禁止との関連も疑われている現象です。このようなブーメラン効果を中絶反対派は決して顧みません。ですが古来より、女性はさまざまな理由で中絶してきました。唯一の違いは、安全におこなうか危険を伴うかの違いだけです。

From madameFIGARO.fr

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>>関連記事:中絶の権利は?体外受精は認められる?トランプ新政権下で気になる女性の権利

>>米国大手企業、従業員が中絶する場合の旅費を負担すると発表。

>>憲法に中絶の権利を採用したフランスの様子は?

text : Ségolène Forgar (madame.lefigaro.fr)

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