「常識が変わる」10年後は生年月日が不要になり、生物学的年齢で社会が動く可能性とは?
Lifestyle 2025.09.30
老化のメカニズムの研究成果を活かした新しい健康法が広まりつつある。用いられるのは細胞へのアプローチや高濃度ビタミン点滴などのバイオハックの手法だ。
2025年6月に開催されたカンファランス、「The Beauty of Longevity」でロレアルグループ副CEO兼リサーチ&イノベーション テクノロジー責任者のバーバラ・ラヴェルノは、「10年後の人は、生年月日ではなく、生物学的年齢を聞かれるようになるでしょう」と予測し、「コスメティクスの世界は新しい時代に入りました」と続けた。
いまや語るべきはアンチエイジングではなく、"長寿"だ。2040年には5人に1人が60歳を超える。100歳以上の長寿者は2010年に50万人だった。それが2024年には700万人にも達した。寿命の延びは経済的にも社会的にも現実となりつつある。「大切なのは過ぎた年数を数えるのではなく、意味のある年数を生きることです」とバーバラ。そしてそれはシワやたるみの問題にとどまらない。肌、頭皮、そして心身の健康といったグローバルなものだ。「永遠の若さから永遠のウェルビーイングへ」。長生きするのなら、元気に楽しく生きたほうがいい。「そのためには皮膚の深部、目に見えないところで何が起こっているのかを理解する必要があります。冒険はまだ始まったばかりです」とバーバラは言う。
老化に関連する15のマーカー
科学者が老化に関連する15のマーカーを特定してから、この分野の研究は一気に加速した。なかにはノーベル賞を受賞した科学者もいる。これら15のマーカーのうち9つは肌に関わるものだ。非常に複雑なメカニズムであり、その仕組みをさらに解明すべく研究が進められている。バーバラ・ラヴェルノスは次の要素を列挙した。「生活習慣に関連するエピジェネティックな変化、細胞間コミュニケーション、慢性的な炎症、テロメア(染色体末端)の短縮、タンパク質の質、細胞老化、マイクロバイオーム、幹細胞の枯渇、そして細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアの機能不全」。AIを活用したマーカー研究が進むにつれ、個人の生物学的年齢を算出し、成分の効果測定がわずか5分でできるようになった。
「目に見える老化の兆候ではなく、その根本原因を探れば若返りも夢ではありません」とロレアルグループのチーフイノベーションオフィサーのヴァニア・ラカスカードは述べる。ランコムのインターナショナルサイエンティフィックディレクターのアニー・ブラックも言う。「もう、抗酸化物質や日焼け止めだけで予防する時代ではありません。新しい成分は、目に見えない段階からある種のメカニズムを"遮断"し、別のメカニズムをリセットします。それによって老化の兆候を予防し、遅らせ、進行を逆転させることもできるでしょう」。ただし長寿への挑戦は1つの製品で完結するものではない。グローバルかつ多次元的なアプローチが必要だ。
セレブもアスリートもクリニックへ
科学技術で人間の身体を向上させようとするトランスヒューマニズム思想にとりつかれたアメリカの富豪、ブライアン・ジョンソンが全身の細胞すべてに巨額な資金を注ぎ込んで究極の再生医療を自ら試している傍らで、長寿を夢見るエリート層は徹底管理された各種療法に頼る。バイオマーカー測定、遺伝子・エピジェネティック検査、バイオフィードバック、AIによるオーダーメイドの健康増進プログラムなどだ。すべては老化を食い止め、可能ならば若返り、さらに身体・メンタル・代謝のパフォーマンスを向上させることを目的としている。
こうした療法で有名な施設にスイスの「クリニック・ラ・プレリー」と「ネサン病院」、スペインの「SHA ウェルネス・クリニック」(ナオミ・キャンベル、カイリー・ミノーグ、モニカ・ベルッチが通う)、オーストリアの「ビバ・マイヤー」(エリザベス・ハーレイやニコール・キッドマンが通う)、イタリアの「パラス・メラーノ」(30年前からトップアスリートに人気の「リバイタル」メソッドで知られる)がある。パラス・メラーノにはヴィクトリア・ベッカム、元スキー選手のデボラ・コンパニョーニ、元サッカー選手ローラン・ブランやジネディーヌ・ジダンが定期的に通っていることで知られる。ジダンはこの施設のアンバサダーに最近任命された。
同施設のサイエンティフィックディレクターのマッシミリアーノ・マイアーホーファー博士は「我々の目的は、疲労の限界状態でここを訪れる人々を完全に回復させることです。アスリートも怪我を予防して体調を万全に整えるため、シーズンに先立って1週間滞在します。長寿の三本柱、すなわちデトックス、スポーツ、メンタルウェルビーイングを実践してもらいます」と説明する。ここでは近年、アスリート向けのメニューを充実させている。バイオメカニクステスト、認知機能検査、DEXA検査による筋肉量測定、さらにクライオセラピー(低温療法)を受けられる「クライオボディ」ベッドも導入された。「このベッドを使えばクライオセラピーをカプセル内ではなく、ベッドに3〜5分横たわって冷たい布団をかけるという、より安全な形で実施できます」。
ビタミン点滴
ニースの美容外科医であり、パリの「インナースキン」クリニックでも施術するバンジャマン・ドゥビュック博士によると、ウェルネスでもっとも有望な療法はビタミンの静脈点滴だそうだ。「これはバイオハッキングの最も包括的かつ有望な治療です」と言う。ドゥビュック博士はこの療法を近々フランス国内で開始する予定だ。すでにアメリカ、ロンドン、ドバイでは大人気で、多くの人の関心を集めている。「経口サプリだと肝臓で大部分が分解されてしまいますが、点滴は血液中のビタミン濃度を急上昇させ、エネルギー、認知、細胞代謝、疲労回復に効果があります」。この療法が注目されている一因に、食べ物の栄養価の低下や腸で栄養をうまく吸収できない人の増加があるそうだ。
「果物や野菜は数十年前と比べ、全般的にビタミン含有量が少なくなっています。加えてストレス、活動過多や慢性的な炎症のために腸の吸収効率も下がっています」と言うドゥビュック博士は1回500ユーロ程度の点滴を月1回ペースで3回行うことを推奨する。免疫力アップ、美肌効果、時差ぼけ、アンチエイジングなどの目的別に6〜7種類の「ビタミンカクテル」が用意されている。抗酸化物質のグルタチオンや栄養素のセレニウムも含まれており、事前に検査して何が足りていないのかをチェックしてから療法をスタートさせる。
似たような発想の療法に、NAD+(ニコチンアミドジヌクレオチド)点滴療法がある。この療法もこれからフランスで広まるかもしれない。NAD+はDNA修復を助ける長寿酵素タンパクを活性化する物質で、これからの点滴療法として注目を浴びており、たとえばアマンダ・リアはすでに取り入れているそうだが、その効果に関してはまだ議論がある。パリの邸宅ホテル「メゾン・ヴィルロワ」のスパでは、イギリスの「NADclinic」と提携しており、この点滴療法が受けられる。
フランス人も興味津々
こうした療法はフランスでも今後普及するかもしれない。効果があるなら老化を遅らせる治療を受けてみたいと考えるフランス人は64%いる。また、14%は若者の細胞や血漿の輸血を受けてみてもいいと考えており、同じく14%は遺伝子修正により、なるべく長寿になりたいと考えている。こうして最近の美容医療では、単なる注射やレーザー治療にとどまらず、ビタミン検査、酸化ストレス測定、DNAメチル化解析といった包括的な検査から栄養プログラム、運動指導、若返りケアまで提供している。
ただしフランスの法規制を遵守していることは言うまでもない。アンチエイジングの専門家で予防医学センターを創設することを目指す「Zoï」プロジェクトを推進していたクロード・ダル医師は今年3月に亡くなったが、生前にこう語っていた。「縦割り医学はもう限界だ。包括的に診断していくべきだ。予防医学と美容医学、コスメティックは融合していくだろう」と。こうした医学界の動きと並行して「ゲロプロテクター(老化保護剤)」と呼ばれるラパマイシンやグリフロジンといった薬も登場しているが、本当に効果があるかはまだ未知数だ。
スイスのネサン病院の創設者、ジャック・プルースト教授は、毎日ウロリチンAを摂取しているそうだ。これはミトコンドリア活性化物質で、筋力、心肺機能、神経機能を高めるとされる。長寿というものは結局のところ、未来を見越してグローバルに取り組むべきものであり、コスメ業界とアンチエイジング医療はその実現に向けて並走している。ちなみにドイツ・ハイデルベルク大学の研究によれば、自分を若いと思っている人の方が長生きするらしい。内面の美は外見に通じるということだろうか。
From madameFIGARO.fr
text: Marion Louis with Justine Feutry, Sophie Goldfarb & Victoria Hidoussi (madame.lefigaro.fr)