お茶好き文筆家・甲斐みのりが語る、日本茶の魅力とキホンのキ。
Gourmet 2025.07.03
多様な茶葉の製法や淹れ方、味わいにいたるまで、とても奥が深い日本茶。日本茶とともに育ったという文筆家・甲斐みのりがお茶愛を綴る。おすすめ品まで一緒にチェックして!
お茶処の静岡で生まれ、お茶好きの母に育てられた私は、子どもの頃から朝・昼・晩の食卓には、日本茶が欠かせませんでした。おやつの時間も、コーヒーとお茶、紅茶とお茶という風に、食卓に何が並んでも最後は絶対にお茶で締め、食べてすぐ食卓を離れようものなら、「戻ってお茶を飲みなさい」と母から呼び戻されるほど、とにかくお茶を飲んで育ってきました。お茶の楽しみ方が広がったのは、京都に住み始めてから。大学時代に初めて行った一保堂茶京都本店の喫茶室で、きっちりと時間を計ってお茶を蒸らし、最後の一滴まで丁寧に注ぐという作法を知り、日常とは違うお茶にときめきを覚えました。それからは、お茶のおいしい淹れ方や茶器にも意識が向くようになり、京都でたくさんの"一生ものの道具"と出合うことに。そのひとつが、自分で初めて買った急須、一保堂茶舗の白磁急須です。開化堂の茶筒もこの頃に買ったもので、どちらも20年以上経ったいまも現役で活躍中。竹の茶こしも欠かせない茶道具で、毎日愛用しています。
時を追うごとに味のある色合いに変化する銅の茶筒(平型200g、φ9.2×H11cm)¥25,300/開化堂 一保堂のお茶をおいしく淹れるために最初に製造された波佐見焼の白磁急須・小と茶碗5客セット(急須φ約9.7×H約6cm、茶碗φ約7.7×H4.8cm)¥22,000/一保堂茶舗 その他/スタイリスト私物
我が家には、実家から届く静岡茶や全国行く先々で買ったさまざまな種類のお茶が潤沢にあり、朝起きるとまずお湯を沸かしてお茶を淹れることから一日が始まります。朝は京番茶かほうじ茶をたっぷり淹れて水筒に移し、お茶を飲みながら仕事をします。今日はちょっと頑張りたいという時は深めのお茶を。時間にゆとりがある時は古くなったお茶や半端な量が残ったお茶をブレンドして、一期一会の味わいを楽しみます。アトリエにスタッフが集う日は、午後3時はお茶の時間に。毎日こうして呼吸をするようにお茶を飲んでいますが、お茶の時間がいい区切りになり、気持ちや考えがリセットされます。忙しいとつい手間を省きたくなりますが、茶葉からお茶を淹れることを"ちょっとした楽しみ"に変えられると、お茶を買うこと茶器を選ぶことすべてが、日常の悦びに繋がっていきます。
学生時代から欠かすことなく毎年この時期になると、実家から新茶が届きます。新茶を味わう時はいつも、緑のみずみずしい茶畑の光景が浮かんできて、故郷に格別の思いを抱きます。爽やかな新茶に合うお菓子を想像しながら、今年も届く日を心待ちにしています。
甲斐みのりさんおすすめのお茶
新芽のみ黄金色の茶葉が芽吹く希少な在来白葉茶やまぶき 紙筒 40g ¥1,620/しばきり園
「濃厚な旨味と、出汁のような風味。初めて飲んだ時に衝撃を受けました」
好みが分かれるスモーキーないり番茶 150g袋 ¥648/一保堂茶舗
「初めて飲む人はびっくりするほど薫香が独特。私はその唯一無二の味にはまりました」。
富士山の火山灰土で育った茶葉を使用し、滋味深く甘露を思わせる味わいの和紅茶 ティーバッグ2g×12個入り ¥1,080/富士園
「ほうじ茶の延長線上で飲める和紅茶で、食事にもよく合います。贈り物にも喜ばれます」
日本茶の種類
キホンのキ
煎茶 Sencha
茶の生葉を蒸した後、揉みながら針状の形に乾燥させた緑茶の総称。品種によって甘味、渋み、香りがさまざまで、茶葉の量、湯温、湯量、浸出時間を調整しながら、自分好みの味わいを探っていけるのが魅力。
玉露 Gyokuro
一番茶の新芽が開き始めた頃から茶畑に覆いをかけ、20日以上日光を遮断して栽培する緑茶の一種。とろりとした口当たりで旨味が強く、50度前後のぬるめの湯で淹れるか、じっくり水出しするのもおすすめ。
番茶 Bancha
新芽が伸びて硬くなった茶葉や茎などを原料としたお茶。三番茶・四番茶などを指すことも。熱めの湯でカジュアルに淹れてもおいしく飲める。地方特有の番茶もあり、京都の"京番茶"は独特のスモーキーな香りが特徴。
ほうじ茶 Hōjicha
主に煎茶や番茶などをローストしたもので、香ばしくさっぱりとした味わいが特徴。焙煎時間や焙じるお茶の種類によって、味わいもさまざま。フライパンなどで茶葉を焙煎すれば、自宅でもほうじ茶が作れる。
かぶせ茶 Kabusecha
摘採前7日前後から日光を遮った茶園で栽培した生葉を、煎茶と同様の工程で製造した茶。玉露と普通煎茶の中間的存在。玉露にも似た上品な味わいが楽しめる。渋み、苦味が控えめであっさりしている。
抹茶 Matcha
玉露同様、覆下栽培した若い芽を蒸して乾燥させたものを"碾茶"と呼び、それを石臼で挽いて粉状にしたもの。茶筅で点てることでクリーミーに仕上がり、抹茶独特の甘味、苦味、旨味を楽しむことができる。
和紅茶 Japanese Black Tea
日本国内で生産されている紅茶のことで、生葉を萎れさせ、酸化酵素を最大限に働かせて作ったもの。国産紅茶は比較的渋みが少なく、柔らかな印象を受けるものが多く、近年さらに注目を集めている。
静岡県生まれ。旅やお菓子、雑貨、建築などをテーマに、50冊以上の本を執筆。作家活動20周年を記念し、人気随筆集『たべるたのしみ』『くらすたのしみ』(いずれもmille books刊)を大幅加筆した改訂文庫版を4月に発売。
*「フィガロジャポン」2025年7月号より抜粋
photography: Yumiko Miyahama styling: Misa Nishizaki text: Chiaki Tanabe