マッシのアモーレ♡イタリアワイン 「食後酒」はなぜ必要? マッシが教える、イタリア人とグラッパの深い関係。

Gourmet 2025.09.16

マッシ

日々の生活を彩るワインを自分らしく楽しむフィガロワインクラブ。イタリア人ライター/エッセイストのマッシが、イタリア人とワインや食事の切っても切り離せない関係性について教えてくれる連載「マッシのアモーレ♡イタリアワイン」。今回のテーマはイタリア人とディジェスティーヴォ(食後酒)の深い関係について!


ピエモンテの「グラッパ」はピエモンテ生まれ育ちの僕から見ると食後のマストアイテムだ。今年は故郷と日本を行ったり来たりする機会がたくさんあって、僕の故郷のユニークな文化に改めて感動した。食事しながらグラッパでディジェスティーヴォ(食後酒)する文化が日本にも広がったらうれしいと何回も思っていたから、今回はより楽しめる食事の秘密はグラッパに隠れていることをご紹介しよう。 

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お店に並べられたグラッパ。ボトルに書かれているのは、元になったワイン名だ。

食後にエスプレッソを飲むのは、もうすっかり日本でもおなじみになっただろう。でも、実はイタリアにはもうひとつ、食後の時間を豊かにしてくれる欠かせない存在がある。それが、僕の故郷ピエモンテのお酒「グラッパ」だ。誰もが飲むディジェスティーヴォの代表格は、間違いなくグラッパだろう。

ディジェスティーヴォとは、食事が終わった後、胃腸の働きを助けるために飲むお酒のこと。アマーロやリモンチェッロなど種類はたくさんあるけど、ピエモンテ人にとってはグラッパ以外あり得ない。

ピエモンテのレストランでは、食事が終わると「グラッパはいかがですか?」と聞いてくれるお店がたくさんある。中にはバーのようにさまざまな種類のグラッパをずらりと並べた専用のコーナーを設けている店もあるほどだ。お店によっては、グラッパのボトルを傾けると自動でグラスに注がれるユニークなディスペンサーを置いていたりもする。

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ピエモンテで発見したグラッパのディスペンサー。ショットグラスを下に置けば自動で注いでくれる。酔ってもこぼさない優れもの!?

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「グラッパって何?」って思う方もいるかもしれない。簡単に言うと、ワインを造るときに残るブドウの搾りかすを発酵させて作る蒸留酒のことだ。日本の焼酎に似ているとよく言われるけど、香りはよりフルーティで華やか。ワインの原料になるブドウの品種によって、味わいがガラッと変わるのもおもしろい。

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こちらはマルヴァジア(ブドウ品種)の搾りかすから蒸留したグラッパ。ボトルの形もユニーク。
 

日本では「グラッパ」と聞くと、少し年配の男性が飲むイメージを持っている人もいるかもしれない。でもピエモンテではそんなことはない。若者からお年寄りまで、女性も男性もみんなが楽しむ、とても身近な存在なのだ。特に僕が好きなのは、食事が終わってお店を出る前に、お店の人とおしゃべりをしながらグラッパを飲む時間。今日の食事はどうだったか、最近の天気の様子、サッカーの話など、たわいもない会話が弾む。グラッパはただ飲むだけでなく、人と人を繋ぐコミュニケーションツールでもあると、子どもの頃から思っている。

そして、グラッパは飲み方もとても自由。食後にショットグラスで飲むのが定番だけど、カクテルのベースにしたり、エスプレッソに少し垂らして飲んだり(カフェ・コレット)、デザートにかけて風味付けをしたりと、楽しみ方は無限大だ。

おもしろいのは、ピエモンテにいるとどこでもグラッパと出合えること。レストランやピッツァ屋さん、スーパーなどにたくさんの種類が当たり前に置いてある。歴史的なカフェでも可愛らしいバールでも、どこでもグラッパがあり、その場で飲んだりボトルを買ったりできる。お水とコーヒーと同じように、重要な存在だということがよくわかる。

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グラッパはピエモンテの誇りだけではなく、サステイナブルな文化でもある。ピエモンテはイタリアの中でも特にワイン造りが盛んな地域だ。世界的に有名なバローロやバルバレスコもピエモンテのワイン。ブドウの絞りかすを使ってグラッパを造ることは「無駄をなくし資源を大切にする」という文化でもあるのだ。

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老舗メーカー・マツェッティが手がけるのはグラッパだけでなく、アマーロやリキュールも......! ディジェスティーヴォの文化は奥が深い。

写真にも写っている「Mazzetti d'Altavilla(マツェッティ・ダルタヴィッラ)」は僕が子どもの頃からなじみのある、ピエモンテでも特に有名なグラッパメーカー。昔ながらの製法を守りつつ、新しい試みも積極的に取り入れている。グラッパのボトルを飾るラベルもすごくおしゃれで、僕の故郷の豊かな文化を感じさせてくれる。このように、グラッパはそのボトルの形からラベルのデザイン、製法、歴史まで楽しめる。まるでアートのようでその地域と歴史を感じられるし、家にも飾りたくなることもある。

日本でグラッパを飲む機会は少ないけど、もしイタリアンレストランで見かけたら、ぜひ一度試してみてほしい。最初は香りが強いと感じるだろうけど、その奥深い味わい、食後の満足感がじわじわと身体に染み渡るのがわかるはずだ。きっと、あなたにとって新しい食後の楽しみが見つかるだろう。

僕の故郷ピエモンテのグラッパ文化、少しでも興味を持ってもらえたらうれしい。次にイタリアへ旅行する機会があれば、食後のグラッパ体験をぜひ計画してみてね。

1983年、イタリア・ピエモンテ生まれ。トリノ大学大学院文学部日本語学科修士課程修了。2007年に日本へ渡り、日本在住17年。現在は石川県金沢市に暮らす。著書に『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(2022年、KADOKAWA 刊)
X:@massi3112
Instagram:@massimiliano_fashion

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