イタリア人の心も身体も温めるホットワイン、ヴィンブリュレとは? ピエモンテ流レシピをマッシが伝授!

Gourmet 2025.01.07

マッシ

日々の生活を彩るワインを自分らしく楽しむフィガロワインクラブ。 イタリア人ライター/エッセイストのマッシが、イタリア人とワインや食事の切っても切り離せない関係性について教えてくれる連載「マッシのアモーレ♡イタリアワイン」。今回はイタリア人が春の到来を占う「ツグミの日」の伝説と、心と身体を温める「ヴィンブリュレ」(フランス語ではヴァンショー、ドイツ語ではグリューワイン)について語ります。

>>前回:ランチは3時間越え!?イタリア人が1年でいちばん大切にする、家族愛にあふれた「クリスマス」の風習とは?


1年でいちばん寒い「ツグミの日」誕生秘話!

イタリアは1月が最も寒い時期。その中で1月29日、30日、31日の3日間を「ツグミの日(I giorni della merla)」と呼ぶ言い伝えがある。この期間にまつわる興味深い伝説を紹介しながら、イタリア北部と故郷のピエモンテ州でよく飲まれる「ヴィンブリュレ」の話もしようと思う。

ツグミの日とは、これを知らないイタリア人はいないほど昔から伝わる伝説だ。特に寒い地域では、現在もとても大事な話になっている。ピエモンテで生まれ育った僕は子どもの頃から耳にしていた物語だ。ただの鳥の話だと思われがちだけど、春が来るのが遅くなるか、それともまもなく訪れるかが分かると言われている、寒い地域に欠かせない伝説だ。

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こちらがイタリアのツグミ(merla)。日本で見られるものよりも黒々とした外観だ。

ツグミの黒い羽の由来は非常におもしろくて興味深い。昔々、ツグミの羽は真っ白だったと言われている。ある勇敢な雌ツグミは、1年で最も厳しいとされる1月の寒さに立ち向かおうとした。彼女は、1月中巣ごもりできるようにと、1カ月分の食料をあらかじめ蓄えておいたのだ。当時の1月は28日間だった。1月の最終日、巣から出た雌ツグミは、1月の神に向かって高らかに歌い、「1月の寒さなんて大したことなかったわ!」と嘲笑った。これに激怒した1月の神は、2月の神に3日間だけ力を貸してくれるように頼み込んだ。そして1月はまだ終わっていないとばかりに、激しい猛吹雪を3日間にわたって巻き起こした。

すでに巣から出ていた雌ツグミは、雛たちと一緒に近くの煙突の中に避難し、この容赦ない3日間を耐え忍んだ。ようやく吹雪が終わり、煙突から出てきたツグミを見てみると、なんと身体は煙突の煤で真っ黒になってしまっていたのだ。それ以来、ツグミの羽は黒くなったと言い伝えられている。それからこのツグミの日の気候は、春の天候を占うとも言われている。1月29日、30日、31日の「ツグミの日」が寒ければその後の春は天気の良い日が続き、ツグミの日が暖かければ、春の訪れは遅くなると信じられている。

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身体を温めてくれる、ヴィンブリュレの歴史とは?

僕も子どもの頃、冬にツグミをよく探していた記憶がある。寒い日に出掛けた後、ホットティーのように熱々の飲み物をよく飲んでいた。同時にいい香りで、同じ部屋にいるだけで心まで温まったヴィンブリュレの思い出もある。

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スパイスを入れ、ビスコッティとともにいただくヴィンブリュレ。

冬の気温がマイナスになるのが当たり前のピエモンテでは、グラッパやアルコール分が高いお酒をよく飲む。その中で最も飲まれるのがヴィンブリュレだ。ヴィンブリュレは誰でも好みの味を自分で作れる。身体が温まるだけではなく、精神的にもリラックス効果があるという。

ヴィンブリュレは日本でも少しずつ普及していて、飲める機会も増えている。ところでヴィンブリュレはいつから始まったのか、なぜワインを温めて飲もうという発想があったのだろうか。まずヴィンブリュレといえば、ドイツやオーストリアをイメージする人が多いと思う。しかし実は、その歴史はローマ人が厳しく寒い冬に打ち勝つためにワインを蜂蜜、サフランと一緒に温めたのが始まりと言われている。

中世に入ると、ヴィンブリュレはさらに人々に愛される飲み物になった。当時、ヴィンブリュレに似た温かいスパイス入りワインが広く親しまれていて、病気の予防や治療に効果があると信じられていた。特に「イッポクラッソ(Ippocrasso)」と呼ばれる飲み物は、ワインにシナモンやクローブ、ナツメグなどのスパイスを加えて造られていて、その薬効が重宝されていた。イッポクラッソは、現代のヴィンブリュレの原型とも言える存在だ。

ヨーロッパでは、時代とともにヴィンブリュレの人気が一時的に弱まった。スウェーデンやドイツといった一部の北欧地域を除いて、広く親しまれていたヴィンブリュレを日常的に飲む習慣は薄れていった。ところが1890年代に入ると状況は一変する。クリスマスの時期になると、多くの商人がこぞって自慢のヴィンブリュレのレシピを売り出すようになった。各店が工夫を凝らした独自のレシピは話題を呼んで、ヴィンブリュレは再び脚光を浴びるようになった。

これをきっかけに、ヴィンブリュレは「クリスマスシーズンには欠かせない特別な飲み物」というイメージが定着したと言われている。イタリアでは3月頃まで飲み続けることもあり、寒い日だけではなくお祝いの時もよく飲む。

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ピエモンテ流! ヴィンブリュレのレシピを大公開。

ピエモンテ地方のヴィンブリュレのレシピは、スーパーでも購入できる材料しか必要なく、とても簡単。

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ヴィンブリュレの材料となるスパイス。砂糖と一緒に鍋に入れて火を入れていく。

〈材料〉4人分

コクのある赤ワイン 1リットル:コクのある赤ワインとは、タンニンが多く、しっかりとした味わいのワインを指す。たとえば、バルベーラ、ネッビオーロ、ドルチェットなど、ピエモンテ州の地元のブドウ品種から作られたワインを使うと、より本格的な味になる。

砂糖 100g:好みに応じて量を調整する。甘めが好きな方は少し多めに、そうでない方は少なめに。
無農薬レモンの皮 1個分:皮だけを使い、白い部分(苦味成分が含まれる)はできるだけ取り除く。無農薬のレモンを使うことで、農薬の心配なく皮を使用できる。
無農薬オレンジの皮 1個分:レモンと同様、皮の白い部分は取り除く。白い部分を丁寧に取り除くことで、仕上がりの味が良くなる。
シナモンスティック 2本:シナモンスティックは、粉末のシナモンよりも香りが長持ち。
クローブ 8個:香りが強いので入れすぎ注意!
ジュニパーベリー 5個:ジンの香り付けにも使われるスパイスで、独特の清涼感を与える。
スターアニス 1個:甘くスパイシーな香りが特徴。
ナツメグ 適量:お好みで擦りおろして加える。

〈作り方〉

1 レモンとオレンジの皮を薄く切り、白い部分を取り除く。
2 あまり縁の高くないステンレス鍋に、砂糖、シナモンスティック、ジュニパーベリー、クローブ、スターアニス、ナツメグを入れる。
[ポイント]ステンレス鍋を使うと焦げ付きにくく、風味の変化も少ない。
3 レモンとオレンジの皮を加え、最後にコクのある赤ワインを注ぐ。
4 弱火でゆっくりと沸騰させる。そのまま弱火で5分間煮込み、砂糖が完全に溶けるまで混ぜる。
[ポイント]強火で沸騰させると、アルコールが飛びすぎて風味が損なわれる可能性がある。焦げ付かないように時々混ぜる。
5 ワインの表面に火を近づけてフランベする(たとえば、バーナーなど)。ワインに含まれるアルコールに火が付く。完全に火が消えるまで燃やし続ける。
[ポイント]この工程はアルコールの一部を飛ばし、風味をまろやかにする効果がある。換気をしっかり行い、周囲に燃えやすいものがないことを確認してから行う。自信がない場合は、この工程を省略しても構わない。
6 火が消えたら、目の細かい濾し器でヴィンブリュレを濾す。
[ポイント]濾すことで、スパイスなどの固形物を取り除き、口当たりが良くなる。
7 グラスにシナモンスティックやベリーなどを飾り、熱いうちに飲む!
[ポイント]温かい状態で飲むことで、スパイスの香りがより一層引き立つ。

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フランベすれば気分も盛り上がる! 火元に注意しつつ、ヴィンブリュレを楽しんで。

これで厳しい寒さを耐えながらより楽しく冬を過ごせるはず。ヴィンブリュレを飲みながら空に目を上げてツグミを探せば、立派なピエモンテ人になりかけている証拠だ。みなさん、今年の冬はヴィンブリュレで過ごしてみてはいかが?

1983年、イタリア・ピエモンテ生まれ。トリノ大学大学院文学部日本語学科修士課程修了。2007年に日本へ渡り、日本在住17年。現在は石川県金沢市に暮らす。著書に『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(2022年、KADOKAWA 刊)
X:@massi3112
Instagram:@massimiliano_fashion

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