伝説的な女性醸造家キアラ・ボスキスのバローロがグラスで楽しめる! ブルガリホテル 東京のワインリストに熱視線。

Gourmet 2025.12.11

YOSUKE KANAI

今日のワイン選びがちょっと楽しくなる連載「ワインテイスティングダイアリー」。フィガロワインクラブ副部長・カナイが日々、ワインを求めて畑へ、ワイナリーへ、地下倉庫へ、レストランへ、セミナーへ......。美しいワインがどのように育まれるかの物語を、読者の皆さまにお届けします。

今回はブルガリ ホテル 東京にオンリストされたバローロの偉大な女性醸造家、キアラ・ボスキスとテーブルを囲んだ思い出について。レストラン「イル・リストランテ ニコ・ロミート」では現在、キアラの自然への愛が生んだ「バローロ・ヴィア・ヌオーヴァ 2018」をバイザグラスで提供中。ボトルが無くなり次第終了となるので、記事を読んだらすぐにホテルへ出かけて!


「キアラ・ボスキスが来日するにあたり、ご本人を囲んでディナーを開催します」というご招待があり、大好きなブルガリ ホテル 東京のエントランスをウキウキしながら進んでいた。まだまだ男性の影響力が強いワイン業界において、ブルガリ ホテルがイタリア各地の女性醸造家にフォーカスを当てた今回の企画。オーガニックなワイン醸造を手がける8人の女性醸造家がワインリストに登場する中、そのひとりであるキアラ・ボスキスが来日することになったのだ。

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ディナー会場でのキアラ・ボスキス。

ディナーには少し早めに着いて、テラス席へと案内される。アペリティーヴォに注がれたのは、バローロと同じくピエモンテ州で造られる瓶内二次発酵のスパークリングワイン、「コントラット キュヴェ・ノヴェチェント・パ・ドゼ 2012」。ノンドザージュ(補糖なし)のキリリとしたワインを味わいながら、東京駅方面の夜景を眺めていたら、「おいしいでしょ、それ。大切な友人が造ってるのよ」と背後から声をかけられる。振り返ったらキアラ・ボスキス本人で、かなりびっくりしてしまった。

緑のドレスに身を包んだキアラとコントラットで乾杯しながら「SNSで友人のソムリエたちがみんな『昨日のキアラさんのセミナーに感動した』と投稿していました」と伝えると、とてもうれしそうに目を細める。そしてキアラからも質問が止まない。

「フィガロワインクラブってどんな活動をしているの?」「その取り組みを始めたのはいつ? なぜ?」「あなたはどうしてワインジャーナリズムを志したの?」テラス席の夜の涼しさも忘れて話し込む彼女の姿は、まさに好奇心の塊だった。前日、そして当日のランチでも多くのソムリエや酒販店スタッフ、ジャーナリストとのやりとりがあったというのに、それを感じさせない情熱に、この時点で心打たれてしまった。

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華麗にして余韻が長い、美しいバローロ。

「まずは、この女性醸造家に光を当てるプロジェクトに感謝をお伝えしたいです。実は女性の社会進出が進めば進むほど女性は農家にはならず、都会に出ていってしまいます。体力的にも重労働なのでどうしても男性が中心になりがちで、泥だらけのジーンズが私の制服みたいなもの。なので、今日はドレスを着て素敵な会場で皆さんとテーブルを囲めてとてもうれしいです(笑)」

9世紀にわたってバローロを造るワイナリー「ボルゴーニョ」のボスキス家に生まれたキアラは、子どもの頃から畑で過ごすのが大好きだったという。実家のワイナリーは兄や弟が継ぐことになっていたキアラは家族を説得。後継者がいなくなった、1800年代末からワイン造りが続くバローロの名門ピラー家のワイナリーを譲り受け、自分自身でワイン造りをすることに。1980年、バローロ村はおろか、イタリアを見回しても女性醸造家はほとんどいない時代だった。

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「ピラー キアラ・ボスキス バローロ・ヴィア・ヌオーヴォ 2018」。ブルガリ ホテル 東京 イル・リストランテ・ニコ・ロミートではバイザグラスで¥4,800(税・サービス料込)で限定販売中。

ピエモンテの郷土料理風味なローストビーフ、アンチョビ、ケッパーに合わせて提供されたのが、キアラが持つ7つの畑から採れたネッビオーロ(ブドウ品種)をブレンドしたバローロ・ヴィア・ヌオーヴァ。ステンレスタンクで発酵し、フレンチオークの樽で時24カ月熟成、瓶の中でさらに熟成を経て生み出される、クラシックなスタイルだ。

バローロ、と聞けばしっかりとした力強いタンニンに重厚な味わい、というイメージを持つかもしれないが、キアラが手がけるバローロにはそんな思い込みが全く崩されてしまうだろう。グラスからはスミレやバラ、そしてナツメグやシナモンの甘いスパイスが立ち上る。グラスを回せばその香りはさらに強くなり、奥から湿った土や、アーモンド、柔らかいバニラまでが広がる。口に含むととても滑らかで、ボディ感は非常に大きいものの、タンニンは微細でどこまでも優雅で軽やか。

飲み込んでからも口の中に長い間余韻が残り、その華麗な感覚が愛おしくて、しばらくフォークとナイフを持ち上げられなかった。

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「『スローフード』の第一世代であることに誇りがある」

「長期熟成しなければ飲みにくかったバローロの造り方を見直し、短期間の醸しや小樽での熟成を施して早くから楽しめるスタイルにしていく『バローロ・ボーイズ』のムーブメントに、女性として唯一参画していたのは私の誇りです。そして何より『スローフード』の第一世代として成長できたことに心から感謝しています」

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ディナー中も質問に熱心に回答してくれたキアラ。

実はバローロのあるピエモンテ州は、スローフード運動発祥の地。「おいしい、きれい、正しい」を標語に、食を通じたサステナビリティを1980年代から提唱している。その中心でワイン造りを続けてきたのがキアラ・ボスキスなのだ。

「自然を相手にする農業は、どれだけ自分の思いがあっても『人間は所詮動物なんだ』と感じることが多い。ワインってビジネスでありながら、どこかそこにとどまらないものがあるんです。だからこそこうしたプロジェクトが広がり、オーガニックワインを造り続けられることが何より大事だと思っています」

その思いはキアラ自身のワイン造りにだけにとどまらない。もし自身の畑で完全にオーガニックなブドウ栽培を行ったとしても、隣の畑が農薬や除草剤を使えばその影響は周囲に及ぶ。現在、キアラが持っているバローロ最上級のカンヌビの区画は、40haに26ほどの生産者が畑を持っている状況。キアラやほかの生産者たちはお互いに協力し合い、できるだけ畑の自然環境に環境に手を加えない農法を行うようにしている。

「バクテリアも、木も、菌も、畑のものはすべて生きています。そのバランスをとるように、私はワイン造りがしたい」

キアラが語るその言葉に驚いた。私が昨年訪問し、今年フィガロワインクラブでテイスティングセミナーを行った北海道余市「ドメーヌ・タカヒコ」の曽我貴彦と同じ言葉が出てきたからだ。洋の東西は問わない、自然と調和するワイン生産者の姿が重なった。

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「ピラー キアラ・ボスキス バローロ・カンヌビ 2018」

そうして鴨のロースとパルミジャーノ・レッジャーノ、黒トリュフのフェットゥチーネに合わせたのがカンヌビ 2018。カンヌビはバローロを産出する区画の中でも、最も偉大と評される畑だ。その単一畑でとれたネッビオーロを、大樽ではなくバリック(小樽)で24カ月熟成、その後瓶内で熟成を重ねた逸品だ。

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薩摩鴨のロース、黒トリュフ、パルミジャーノ・レッジャーノのフェットゥチーネ。グラス液面の縁は明るく、中心に向かってルビーに。

ヴィア・ヌオーヴァも凄まじかったが、カンヌビをたとえるならばスピーカーのボリュームを右回しに大きくした感覚だろうか。スミレ、バラ、森の腐葉土やキノコといった香りの複雑さと、液体から感じるボディの力強さがさらに上がっている。と言って、それがうるさい、くどいのかというと、まったくそんなことはない。感覚的な話になるが、大きな水面にひとり、揺られているような、快い感覚。穏やかながら主張のある酸味が、その感覚を少し引き締める。口の中から立ち上る余韻はさらに長く、目を閉じればいつまでもそこにあるかのようだ。

「ワインファンたちはピエモンテの2019年を『最高のヴィンテージだ』って語るでしょう? それは間違いなくそうなんだけど、この2018年の落ち着き方を感じてみて。18年は雨に始まって湿気、病気と戦った難しい年。でも、食事と合わせた時、これほど穏やかな気持ちでテーブルを囲めるのって素晴らしいこと。昨日のソムリエたちとのセミナーでも、みんな2018年の思いがけないポテンシャルに驚いていた」とキアラは朗らかに語る。

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「恋も友情も、食卓から始まるのよ」

メインはバローロで煮込んだ牛の頬肉、とこちらもピエモンテを感じるメニュー。ここで出てきたのが、「バローロ・カンヌビ 2008」。先ほどのボトルよりさらに10年の熟成を経たワインだ。

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「ピラー キアラ・ボスキス バローロ・カンヌビ 2008」

17年熟成を経ているにしては、あまりにも若々しいその外観に惚れ惚れとしてしまう。「ネッビオーロが持つタンニンと酸味、カンヌビの畑が与えるミネラル感、そしてブドウに負担をかけない栽培......。ワインは驚くほど、若さを保っていられるの」とキアラは語る。

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バローロで煮込んだ牛頬肉、ポテトを添えて。ワインの液面、縁はガーネット、中央に従ってルビーへ。

全体的なトーンは穏やかに落ち着きながら、それが褪せている感覚はない。弦楽器をゆっくりと弾いているような、落ち着いた調和を感じる。その中にいて、酸味はどこかにフレッシュさを添える。フラワリーで、華やか、どこかに苦味も感じる、複雑みのある味わい。長く、長く、旨味を伴う静かな余韻。自然と口が綻ぶ。落ち着いているのに、どこまでも開いているワイン。きっとこの先歳を重ねても、秘めた部分はそのままでいてくれる気配のある、そんな素敵な姿。その佇まいは、まさしく目の前のキアラ・ボスキスそのものに感じた。

「飲んでくれる人たちがワインの熱狂的なファンであることはうれしいけれど、ワインだけだとつまらないじゃない?」とキアラは語る。「手作業で丁寧にブドウを育て、もちろんできる限りの技術で醸造する。でも最後にワインが花開くのは、ボトルだけを見つめて飲んでいる瞬間ではない。今日みたいに楽しくおいしい食卓の上だと思うの」

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「サルーテ(乾杯)!」

「イタリア人はね、恋も、友情も、何もかもが食卓で始まるの。そしてそれが長い食事とともに、終わらない(笑)。おいしい食事、楽しい会話、それを長い時間繋いでくれるのがいいワイン。皆さんの素敵な時間に、このバローロが花開いてくれることを心から祈っています」

特別ワインリスト「Le Donne Eroiche del Vino Biologico(レ・ドンネ・エロイケ・デル・ヴィーノ・ビオロジコ)」を発表!
ブルガリ ホテル 東京でイタリアを代表する8人の女性オーガニック醸造家にフィーチャーするワインリストを発表。
キアラ・ボスキスを筆頭にイタリアワイン界を牽引する醸造家のワインが楽しめる。

【問い合わせ】
イル・リストランテ ニコ・ロミート
03 6262 6624
https://www.bulgarihotels.com/ja_JP/tokyo

フィガロJPカルチャー/グルメ担当、フィガロワインクラブ担当編集者。大学時代、元週刊プレイボーイ編集長で現在はエッセイスト&バーマンの島地勝彦氏の「書生」としてカバン持ちを経験、文化とグルメの洗礼を浴びる。ホテルの配膳のバイト→和牛を扱う飲食店に就職した後、いろいろあって編集部バイトから編集者に。2023年、J.S.A.認定ワインエキスパートを取得。

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