オーストラリア・ワイナリー紀行 #02 土地の魅力が凝縮した、ワインと料理を味わえる場所。
Travel 2017.01.06
ワインに魅了された元教師が造る、デリケートな味わいのピノノワール。
モーニントン半島のなかほどに位置するレッドヒルは、その名の通り赤みを帯びた土地が丘の連なりとなって広がるところ。以前はりんごの生産で知られていた。ギップスランド(メルボルンの東方に広がる地区)の酪農家の家に生まれ、中学校の教師をしていたリンズィー・マッコールが突然ワインに目覚め、自らの手でワイン造りをすることを夢見て、この“赤い丘”の打ち捨てられたりんご園を買ったのは32年前のこと。最初の10年間は教師の仕事を続けながら土地を整え、ブドウ樹を植えていったという。
パリンガ・エステートのセラードアからブドウ畑を眺める。
リンズィー・マッコール氏は教師からワイナリーオーナーに転身。
代々ブドウ畑や銘柄を受け継ぐ造り手の多いヨーロッパと違って、オーストラリアではまったくの異業種からワイン造りに転じ、一代にして傑出したワインを生み出す造り手と出会うことが多く、それがオーストラリアワインを飲む大きな楽しみになっている。リンズィーが営むパリンガ・エステートもそんなワイナリーのひとつ。
ワイナリードッグのエディが門衛を務めるエントランス。
イケメン、エディは醸造スタッフの愛犬。
いまでは冷涼地の特徴がよく出た美しい酸をもつ、デリケートな味わいのワインを造り、高い評価を得ているリンズィーだが、彼が以前はいかにワインと無縁の生活をしていたかを語るエピソードがある。リンズィーが教育実習生だった頃のある日のこと。指導役の教師が二日酔いで学校に現れ、「きのうは赤を飲み過ぎちまって……」と言った。それに対し、リンズィーは「え? 赤って、何の赤ですか?」と訊ねて失笑を買ったという話。
熟成を経たピノノワール。絹の織物を思わせるなめらかさがある。
スコッチ・ウイスキーを思わせる香味のあるシャルドネやワイルドベリーが香るピノノワールとともにパリンガ・エステートの魅力に寄与しているのがワイナリーに併設されたレストランだ。シェフのジュリアン・ヒルズは「修業したレストランよりも僕に影響を与えているのはモーニントン半島の風土です」と言う。毎朝のように自宅近くの海辺を歩き、野生のハーブやエディブルフラワーを自ら採取する。禅の精神でも学んだのかと思わせるほど贅肉を削いだ彼の料理は、味に透明感があり、ここのワインと高いレベルで照らし合う。「オーストラリアでおいしい料理に出合いたければワイナリーに行け」という観光的惹句はパリンガ・エステートにおいて正しい。
キングフィッシュ(ブリに似た魚)にエルサレムアーティチョーク、リンゴ、カシスを添えた一皿。
コンソメを注いでいただくニョッキには海辺で摘んだ野草が。
バス海峡に浮かぶフリンダース島の乳飲み子羊のロースト。ソースはカラメライズしたヨーグルト。
週末のランチに訪れるメルボルンっ子も多い。
シェフのジュリアン・ヒルズ。モーニントン半島の風土からヒントを得ることが多いと言う。
>>全室ヴィンヤード・ビューのワイナリー・リゾート。
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全室ヴィンヤード・ビューのワイナリー・リゾート。
レッドヒルサウスにあるポート・フィリップ・エステートは、ハイエンドなワイナリー・リゾート。国際的な建築の賞も獲得したモダンアート然とした建物の中はブドウ畑を見晴らすレストランとスイート6室のみの贅沢でスタイリッシュな客室(全室ヴィンヤード・ビュー)。すべては「ワインな時間」を演出するための仕掛けだ。
曲線を多用した優美なデザインはメルボルンに本拠を置くウッド/マーシュ・アーキテクチャーの仕事。
ワイナリーの2階にあるダイニングからの眺望。
ドライトマトの風味を持つロゼ。
イラクサのリゾットにアーモンドとバッファローのヨーグルトを載せて。
シェフのスチュアート・デラーはイギリスのカリスマシェフ、マルコ・ピエール・ホワイトの薫陶を受けた料理人。ビクトリア州南部の食材の豊かさを彩りに溢れる皿で表現するスチュアートの料理が端正な造りのワインとともに旅人の高揚感に拍車をかける。
タスマニアのケープグリム・ビーフのタルタルと牛タンのピクルス漬け。スモークしたアイオリ・ソースを添えて。
セラードアに立ち寄り、テイスティングだけを楽しむこともできる。
洋梨の香りにエキゾティックなトーンが混じるクーヨン・ブーロット・ピノグリ。
スイートルーム内観。この写真の背後はガラス張りで、その向こうは芝生からブドウ畑へとつながっている。
次回は、ギプスランドで伝説のワイナリーを訪ねます。
※ワインの問い合わせ先
パリンガ・エステート:ヴァイ・アンド・カンパニー Tel. 06-6841-7221
クーヨン(ポート・フィリップ・ワイナリー):ジェロボームTel. 03-5786-3280
取材協力:オーストラリア政府観光局、ビクトリア州政府観光局
#01「オーストラリア・ビクトリア州へ、ワインと美食の旅。」はこちら。
#03「極上のピノノワールを求めて、伝説のワイナリーへ。」はこちら。
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photos : HIROMICHI KATAOKA, texte : YASUYUKI UKITA