フランス人のホントのところ ~パリの片隅日記~ チーズ大国なのに、チーズケーキが見つからないフランス。

Paris 2021.07.16

シロ

210701_fgrfig01.jpg

つねづね砂糖断ちの効果を賛美している私だが、どうしてもあらがえない、チートデーには目をギラギラと光らせて探しまわってしまうパティスリーがある。岩のごとくガチガチに硬いプリンと、チーズケーキだ。

このうち岩のごとくガチガチに硬いプリンならフランス中で手に入る。とろふわ型プリンに玉座を譲り渡してしまった日本よりもずっと手に入りやすいくらいだ。

しかしチーズケーキとなるとそうはいかない。渡仏してしばらく経ったある日、小学生のとき隣の席の安田くんに「いちばん好きなケーキって何?」と聞かれたことを思い出し、あれは難題だったな……たしかチーズケーキと答えて我々は意気投合したはず……と再び悩んでいる時に、私はそのことに思い当たった。

フランスには、なぜチーズケーキがないのか? こんなにチーズ推しの国なのに? チーズケーキも発展させればよかったじゃない?

なぜって、答えは結構簡単で、フランス料理店で食事をするとデザートはタルトタタン、ババオラム、フルーツサラダなどのほかに、チーズが選べるようになっていることも多い。甘党でないチーズ派のあなたはこちらを選んでねということだ。チーズはあの強い香りや風味そのままの存在で、あらゆるパティスリーとタメを張れるものであって、甘いケーキとしてほんのりと楽しむような軟弱なものではないのだろう。チーズケーキがデザートに選べるレストランはあまりないし、たまに見つけても満足いく味であったことはまだ(個人的には)ない。

---fadeinpager---

しかし、「ない」と言われると俄然食べたくなるのが人情というものだ。どこかに私の求めているチーズケーキはないのだろうか? 意識しながらよく探してみると、スーパー「モノプリ」の中にあるチーズ屋に、まさに「スフレチーズケーキ」といった風情のものがあるのを発見した。日本のケーキ屋には必ず置いてある定番のアレである。口に入れるとじゅわっとはじけるように溶けてゆき、甘いチーズの香りとレモンの酸味が最高の相性だと思う。私は日本で食べてきた味を思い返しながらそのスフレチーズケーキを買った。ホールではなく1ピースがサランラップに厳重に包まれているというブツだったのだが、日本のケーキ屋の倍ほどの値段だったように記憶している。

帰宅して何らかの禁断症状のようにがさがさと包みを開き口に入れると……おかしい、食べたはずなのに味がしない。もうひと口、もうひと口、食えども食えども無味の泡のようなものが口のなかで消えていく。目に映るすべては幻という気持ちになり、私はこの偽スフレチーズケーキを買ったときの店員の顔を思い出した。え、あんたそれ買うの? 別にいいけど、といった、ナイーブな日本人を不思議そうに見つめる瞳……。

後日、私がこの「チーズケーキが幻だった」事件について友人に話すと、彼女はあっさり「マレにある」と教えてくれた。そう、マレ地区には「She's Cake」という有名なチーズケーキ専門店があるのだ。ここのチーズケーキはアメリカ風チーズケーキなのだと聞く。アメリカといえばNYチーズケーキを生み出した、チーズケーキとは大変親和性の高い国だ。アメリカといい日本といい、ガチのチーズにそうそうお目にかかれない、チーズにこれといって思い入れのなさそうな国のほうがむしろ、チーズケーキを発展させやすいのかもしれない。

結論からいうと、She's Cakeと私の間にはチーズケーキという形而上学的な存在への解釈に致命的な相違があったと言わざるを得ない。ただ改めて私がいうまでもないのだけど、She's Cakeのケーキはすべてが美しく、日本でも見かける抹茶やキャラメル、フランスらしいバラやスミレを使ったものなど、豪奢で多彩なチーズケーキを食べることができるし、おいしいことは間違いない。ただ、チーズケーキという概念に対しては、方向性の違いにより残念ながら別々の道を歩みそれぞれの音楽性を追求することに決めたのだった。

---fadeinpager---

こうなるとあとはもう、多くのチーズケーキを求める外国人がそうしているように自作しかない。私は自分好みにレモン汁をまるまる1個分ぶち込んだチーズケーキ作りに挑んだ。そうするとびっくりするほどあっさり満足いく仕上がりになってしまったので、それを日本人ホームパーティーに持っていくことにした。

まったく予想外だったのだが、それはいままで私がホームパーティーに持ち寄ったどの料理よりも好評を博した。「おいしい」「本当においしい」などとこんなに手作りの料理を褒められたのは生まれて初めてといっていいくらいだった。

ある人がふいに、
「スタバのチーズケーキくらいおいしい」
といった。

するとそこから押し寄せる波のように「スタバ!」「そうだスタバだ!」「スタバくらいおいしいよ!」「まるでスタバのチーズケーキを食べているようだ!」と怒涛のスタバコールが始まったのであった。

そんなにスタバのチーズケーキがおいしいなどということを私はまるで知らなかった。そうかスタバに行けば解決したのか……。

パリでチーズケーキが食べたくなったなら、ぜひスターバックスという飲食店を訪れてみてほしい。

CITY

CITY

パリの片隅で中華料理を食べながら美肌を追求し、いろんな記事やコラムを書いたり書かなかったりしています。どこでもできる美容方法を探りつつ備忘録として「ミラクル美女とフランスの夜ワンダー」というブログを立ち上げました。

一応フランス在住なのでよくフランスっぽいことを書いています。しかし人生何が起こるか分からないので明日アイスランドに引っ越しアイスランドっぽいことを書き始める可能性も捨てきれません。

Share:

Recommended

フィガロワインクラブ
Business with Attitude
キーワード別、2024年春夏ストリートスナップまとめ。
連載-パリジェンヌファイル

BRAND SPECIAL

Ranking

Find More Stories