フランス国内、さらに米国へ。ユーゴ・マルシャンのオペラ座外の活動が目覚ましい。
パリとバレエとオペラ座と 2025.09.02
パリ・オペラ座では3月にマチュー・ガニオ、4月にリュドミラ・パリエロがアデュー公演を行った。現在エトワールは16名(女性9名、男性7名)である。今年の7〜8月、引退したエトワールも含め、大勢のエトワールたちがアジア諸国でのガラ公演に参加した。長く休んでいるマチアスは別として、アジアに旅立たなかった男性エトワールがいる。ユーゴ・マルシャンだ。
彼は8月1日と2日、アヴィニョンの教皇庁の中庭で開催された公演『Midnight Souls』のステージに立っていた。教皇庁といえば、その宮殿内でルイ・ヴィトンが2026年のクルーズコレクションを行った話題は記憶に新しいことだろう。ユーゴが踊った『Midnight Souls』のステージに特設されたのは、アーティストのJean-Michel Othoniel(ジャン=ミッシェル・オトニエル)によるインスタレーション。ちなみに6月末から1月4日にかけてアヴィニヨン市内では、『Othoniel Cosmos ou Les Fantôme de l'Amour』というタイトルで市内10カ所でオトニエル展が行われている。作品を振り付けたのはキャロリーヌ・カールソン。ユーゴとステージを共にしたのは、その直前に東京で『Play』を踊ったキャロリーヌ・オスモンとカールソンのカンパニーのJuha Marsaloで、音楽にはルネ・オブリィとフィリップ・グラスの作品が用いられた。
©Sigrid Colomyès
©Sigrid Colomyès
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1万個を超えるガラスのブロックを用いた特設インスタレーションは、幽霊のような3つの巨大な彫刻による風景を描き、見慣れた中庭の建築を変貌させるものだった。カールソンはこの作品をもとに『Midnight Souls』を創作。これはアヴィニヨン市からこのプロジェクトを託されたオトニエルがカールソンとユーゴを選んだことで生まれた公演である。ユーゴがこの夏アジアまで出かけなかったのも、理解に容易いだろう。ダンスとコンテンポラリーアートの共生だ。異なる芸術の間に対話が生まれ、観客に未知の感情と感覚を揺さぶる体験を!という彼らの共通の願いを反映するプロジェクトだった。なお、何年か前にヴェルサイユ宮殿の噴水にジャン=ミシェル・オトニエルが設けたインスタレーションを背景にキャロリーヌ・カールソンが振り付けた作品をユーゴ・マルシャンが踊る、というイベントが予定されたことがある。あいにくこれは雨天のため中止となってしまったので、『Midnight Souls』の2公演の実現は彼にとって大きな喜びだったことだろう。
©Sigrid Colomyès
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さて、ユーゴはオペラ座が夏休みに入ってすぐの7月15日と16日にはロワール渓谷のシャンボール城で踊っている。これはフランスのシャトーを背景に13ユーロでダンスの公演を見せる、という彼が立ち上げた「Hugo Marchand pour la danse」のステージだ。9月6日と7日にはモン・サン・ミッシェルで公演が開催される。
こうしたフランス国内での活躍に加え、彼は9月16日から27日まで開催されるニューヨーク・シティ・センターでの「Fall for Dance Festival」の出演ダンサーとしてオニール八菜とともに名を連ねている。10月にパリ・オペラ座バレエ団がツアーでホフェッシュ・シェクターの『Red Carpet』を踊るのもこの劇場においてなのだが、来シーズンのプログラムを見てみると実に多彩な内容だ。来年7月23日〜26日には「Hugo Marchand」と題した4公演が予定されている。彼はベジャール・バレエ団のダンサーに囲まれ『ボレロ』を、ドロテ・ジルベールと『ル・パルク』のパ・ド・ドゥを踊るらしい。シティ・センターが開催する「Artists at the Center」というプログラムの5回目にあたるこの公演において、キュレーター&パフォーマーに指名されたのだ。単なるガラ公演に参加することに留まらず、自身の将来、ダンスの未来を見据えてパリ・オペラ座を背負う年長エトワールとして外部での活動に邁進するユーゴ。海外での活躍を若い時から視野に入れていた彼の今後は、注目に値するものだろう。
editing: Mariko Omura