草彅剛、「最高の代表作になる」とコメント!主演舞台『シッダールタ』で体現する求道者とは。

インタビュー 2025.11.12

舞台俳優としての草彅剛の表現に、ますます深みが加わる。2018年に上演されたエンダ・ウォルシュ作『バリーターク』、また20年、21年のベルトルト・ブレヒト作『アルトゥロ・ウイの興隆』でタッグを組み、草彅の魅力を引き出した演出家・白井晃との新たな舞台は、ヘルマン・ヘッセ原作による『シッダールタ』。演じるのは、かのブッダと同じ名を持ち、真理を求めて旅に出る古代インドの青年だ。その壮大な物語、また舞台への取り組みについて聞いた。

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ひとりの男(草彅剛)が、世界の混沌の中で自身を見失い佇んでいる。思索の森に足を踏み入れ、やがて彼はシッダールタになる。古代インドに生まれたシッダールタ(草彅剛)は裕福な生活に疑問を抱き、家を飛び出す。 修行の意味に疑問を抱き俗世に下野したシッダールタは、さまざまな出会いと別れを繰り返し、悟りの境地にたどり着く......。

──稽古突入直前のいま、この物語を、またシッダールタという人物をどのように捉え、準備をされていますか。

全てが謎です。掴みようがなくて、浮遊感があって、すごくおもしろい。すべてが古代の話ではなく、現代なのかいつの時代なのかわからないけれど、彼がキャメラマンとして──カメラマンではなくキャメラマンと言いますが(笑)──シャッターを切っている、という描写がとても好きです。シッダールタは途方もない旅をして、結局はもとに戻ってくる。でも人間ってそういうところがあるんじゃないかな。本当は旅に出る時点ですべて持っているのに、外に見出そうとするから迷う。いまの時代にぴったりの物語です。

──演出の白井さんは草彅さんにとってどのような存在ですか。

もう、信頼しかありません。僕は物事をあまり難しく捉えないほう。遊び──演劇を通して遊んでいるような感覚、そういうところが好きなのですが、白井さんは、それこそブッダのようにわかりやすい言葉で説明してくださる。僕の本質的なところを見抜いている方なのかもしれない。でなければこういう作品を僕に持ってきません。『アルトゥロ・ウィの興隆』を経たからこそこれもできるんじゃないか、ともおっしゃっていました。

──アルトゥロ・ウイはギャング団のボスで独裁者。それが求道者シッダールタへと繋がったというのは興味深いですね。

真反対ですよね。ウイは富も名声も手に入れているけれど、散々周りの人々を巻き込み、たくさん殺めて、悪夢にうなされる。どこかに後ろめたさがある。そんなところはシッダールタも一緒。ふたりは決して、すごく離れているわけではなく、ネガとポジのような関係ともいえます。白井さんはウイを演じた僕の、その逆の部分をシッダールタに重ねて見てくださった。そんな気がしています。

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──さまざまな演出家との出会いの中で、いろんなものを引き出されてこられたのではないでしょうか。

やはり、つかこうへいさんですね。『蒲田行進曲』ではいろいろ引き出していただきました。ヤスという役の銀ちゃんに対する愛情、自分の中で開花した芝居に対する感情......。役の中で自由に生きることも教えていただきました。 "遊び"というのは、実はつかさんがよくおっしゃっていたことで「ステージに立ったら思う存分遊んでこい」と。その気持ちはずっと持ち続けるようにしています。

──物事を究極まで突き詰める求道者シッダールタに、共感するところもあるのではないでしょうか。

あ......確かに! 人生のかなりの時間をジーンズに費やし、全国を駆け回り、サンフランシスコにも行きましたから。だからシッダールタは僕の当たり役になる! と、自分で言ってしまう(笑)。でもどんな作品も、これが自分の代表作になると思って取り組むんです。そう、集大成。必ずいいものになる。白井さんの作品はいつも挑戦ですし、人生のターニングポイントになった。悟りという言葉に敏感になってきた年頃でもある。20代、30代でこの役はできないし、40代でも少し違うものになるでしょう。いまが一番だと感じるし、これは僕の最高の代表作になると思います。

──ところで、舞台に取り組む期間は日常生活でも役柄のことを考えるのですか。

稽古場や舞台以外では、役のことは考えません。そうやってまた煙に巻いて、本当はすごく考えているんでしょ、と言われますが(笑)、それはない。役柄は稽古と本番で作っていきます。あらかじめ完璧に固めてしまったら、自分がつまらなくなってしまう。それより大事なのは、健康管理。夜遅くに資料を引っ張り出したり文献を読んだりするより、早く寝る。そうしないと目の輝きが失われてしまいます。

──年に一度のペースで舞台に取り組まれていますね。

必要なことだと思っています。いちばん鍛えられますから。舞台はごまかしがきかないし、撮り直せない。始まったらゴールまで止められなくて、ドキドキ、ヒリヒリもする。いつか役者さんにお芝居をつけてみたいという気持ちもあります。

──この2025年に『シッダールタ』を上演する意味については、どのようにお考えですか。

とても深い、深い意味があると思います。こんなにも時代の流れが速くなって混沌としている中で、自分の心と向き合おうとするのは素晴らしいことです。人間の本質的なことだし、自分の時間を取り戻せる。「僕らはもともと持っている。内側に求めようぜ!」ということでしょう。僕も自分の内側に入って、いま自分が持っている古着と向き合え、ということですね(笑)。

舞台『シッダールタ』
2025年11月15日(土) 〜12月27日(土)
会場:世田谷パブリックシアター
料金:S席 12,000円 ほか
問い合わせ:世田谷パブリックシアターチケットセンター
03-5432-1515(10:00~19:00)
https://setagaya-pt.jp/stage/25224/

text: Tomoko Kato

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