詩人で映像作家ジョナス・メカスの故郷、リトアニアのビルジャイへ。
在本彌生の、眼に翼。 2025.08.30
写真家の在本彌生が世界中を旅して、そこで出会った人々の暮らしや営み、町の風景を写真とエッセイで綴る連載。今回はリトアニア・ビルジャイの旅。

メカスの故郷は遠かった。
vol.29 @ リトアニア・ビルジャイ
明後日には帰国しなければならないが、行かないと後悔する......午前中の撮影を終えてすぐ、思いたって首都のビリニュスから長距離バスに飛び乗った。詩人で映像作家のジョナス・メカスの故郷セメニシュケイを見ておきたかったのだ。そこには日のあるうちに辿り着ければよかったが、その手前にある長距離バスが停まるビルジャイまで3本のバスを乗り継がなければならない。それもよし、車内と車窓を眺める時間はたっぷりある、そう腹を括った。移動の間、人々が待合所で過ごす様子や、車窓を楽しく眺めた。夕刻、やっとビルジャイに着いたが、その先20キロメートルのセメニシュケイまで、さてどうやって行こうか。情報収集すべく入ったティーショップの店番をしていた青年に行き方を尋ねると「それなら僕が連れていくよ、僕も行ってみたいし。妻にも声をかけるからちょっと待って」と言う。いま会ったばかりの人にそこまでしてもらっていいの?と思いつつ、この規模の街ですぐにタクシーなど捕まえられそうにないので、ありがたくオファーに乗った。親切で気さくな若夫婦のおかげで念願のセメニシュケイに辿り着き、彼らと一緒に小さな探検隊を組んで、メカスがナチスから逃れてこの街を去るまで住んだ家の跡や、彼の墓を参った。あたりには誰もいなくて黄金の麦畑が広がっていた。メカスが住んでいた頃とほぼ変わらないであろう、平穏な田舎そのものだ。こんなところにまでナチスは来たのか......そう思うと空恐ろしく、怒りが込み上げ胸が苦しくなった。


ジョナス・メカス著 村田郁夫訳
書肆山田刊
¥2,136
*「フィガロジャポン」2025年7月号より抜粋
photography & text: Yayoi Arimoto