中国沿岸部の厦門で知る、世界のおもしろさ。

写真家の在本彌生が世界中を旅して、そこで出会った人々の暮らしや営み、町の風景を写真とエッセイで綴る連載。今回は中国・廈門の旅。

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多肉植物の展示が圧巻の廈門園林植物園。お互いの撮影に没頭する「映え」狙いの女の子たちの間では80年代のアイドルのような衣装が流行している模様。彼女たちを脇目に大汗をかきながら歩いた。1日ではすべて見切れないほど広大。

あまやかな風に包まれた港町。

vol.31 @ 中国・廈門

中国の沿岸部を歩いていて、初めて訪れたところなのに、あら、この雰囲気はどこかで感じたことがあるな、とたびたび思った。沖縄、台湾、香港などの東アジアの南国で触れる人々のおおらかさや、湿度に覆われた光景の気怠さと色気。その源流はこちら、大陸側から受け継がれたもののようだ。廈門は魅力的な街。そもそも「アモイ」という音がなんとも耳に心地いい、それだけで旅心をくすぐられるものだ。

アジア諸国の民芸品を扱うみんげいおくむらの店主奥村忍さんと作った一冊『中国手仕事紀行 増補版』の続編の取材撮影のために広東省、福建省を巡った。港町情緒あふれる廈門で、麗しいうつわや心のゆとりをもたらす中国茶、美と健康の源である食にまつわる営みに触れ、味わった。粋な店主のセンスを店内の隅々にまで感じる「原色」で魅惑の茶の世界に導かれた後、奥村さんに連れられ、夜の迷路のような横丁を散策した。雨に濡れひかりをはねかえす路地では、菓子型を彫る職人が狭い工房でひとり仕事に没頭し、角の屋台ではポニーテイルの女将が総菜を売っていた。こんな横丁が大きな街の中で健在なのもいい。威勢のいい男たちが働く漁港横の魚市場で、魚を選び、すぐ上の食堂で料理してもらう。宴には『中国の死神』の著者、Xで"無常くん"として知られる大谷亨さんが加わり、彼から中国の民間信仰について聞き、その奇妙さに惹きつけられた。さっきまで泳いでいた魚の蒸し物を味わいつつ、世界はやはりおもしろい、知らないことだらけと唸った。

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街角の商店では必ずと言っていいほどきちんと茶盤と茶器を使って、働く人々がお茶を楽しんでいる。小さな骨董屋の店先で。
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おりしもライチのハイシーズン。市場では枝付きのまま計り売りされる。鮮度抜群のライチはこのうえなくジューシー。

『中国手仕事紀行 増補版』
奥村忍著 在本彌生写真
青幻舎刊 ¥2,970

『中国の死神』
大谷亨著
青弓社刊 ¥2,860

*「フィガロジャポン」2025年9月号より抜粋

photography & text: Yayoi Arimoto

Yayoi Arimoto
東京生まれ、写真家。アリタリア航空で乗務員として勤務する中で写真と出会う。2006年よりフリーランスの写真家として本格的に活動を開始。

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