ドイツの首都ベルリンで、ナチュラルワインを作るコレクティブ「ネイチャーズ・コーリング」がスタートして話題を呼んでいる。
ネイチャーズ・コーリングは、アーティストのアトリエや工房がある旧蒸留工場の一角にあるアーバン・ワイナリー。
サハリンと同じくらい北部に位置するベルリン。冷涼で日照時間も少ないこの街では、これまでワイン作りの歴史は存在しなかった。ネイチャーズ・コーリングでも、ブドウの栽培自体は国内の別の場所で行い、製造や熟成をベルリンで行う。なぜ、わざわざこのような形態でワイン作りを始めようと思ったのだろうか。
ファウンダーの3人。右から、ルイーザ、スヴェン、ニコラス。
プファルツの自然派ワインの作り手、ハネス・ベルクドール(右写真、右から2人目)がベルリンでのワイン作りをサポート。
ファウンダーのひとり、ルイーザ・ミュラーは「ワインが飲まれる場所で、ワインを作りたかった」という。ミュラーとともにこのワイナリーを率いるのはスヴェン・グローリクとニコラス・ヴェンツで、3人とも、それぞれドイツの有名なワイン産地の出身。
「私たちにとってはワイン作りは身近なもの。でもベルリンに来たら、知らない人が多いことに気がついたんです。ブドウの実からどうやってワインが作られ、この味になるのか。プレス機やワイン樽が並ぶこの場所で、作り手である私たちがワインを提供し、飲んでもらえば、見えてくるものがあるでしょう?」
醸造所時代の雰囲気が残る、広大な空間。ディナーや試飲会、パーティなども不定期で企画。
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実はネイチャーズ・コーリングは、2021年、ドイツの若手ワイナリーのナチュラルワインをフェアな価格でオンライン販売するために創立された。
ワインって難しそう、価格設定も飲み方もよくわからない......と、特に若い世代にはハードルが高い印象があるワインを「おいしければなんでもあり!イージーに楽しもうよ!」と提案している。エチケットもポップなデザインにして、シュワっと微発泡のフルーティーなペット・ナットに絞って販売をスタートし、好評を博した。いまもこの白ワインのペット・ナットは一番人気の商品だ。
白、ロゼは15ユーロ、ペット・ナットが18ユーロ。色々試せるミックスボックスもあり!
作り手の人柄や、ブドウが育まれる土壌などがストレートに味や香りに反映されるナチュラルワイン。作っている様子を実際に目にすれば、大量生産のワインとの違いもリアルに実感できる。この魅力を伝えるなら製造工程を見てもらうのが早いと考えた3人は、ベルリンでナチュラルワインの"ワイナリー"を立ち上げることにしたのだった。
ネイチャーズ・コーリングのモットーは「何も加えない、何も取りのぞかない」。ブドウはドイツ南西部のワイン産地、プファルツ地方でバイオダイナミック農法によって育てられたもの。手作業で収穫した後、即日ベルリンに運び、水圧を利用した圧搾器でゆっくりとしぼる。酵母などの添加物は加えずにそのまま自然に発酵を促し、樽で熟成。無濾過なので、ブドウの酸味や香りが力強い。
ベルリンでハイドロプレス(圧搾器)を使い、優しくゆっくりとブドウを絞っていく。
しかしドイツというとビールのイメージが強いが、ビールを醸造しようとは思わなかったのだろうか。
「ドイツ中でビールが醸造されていますが、実は自然派のものはほとんど作られていないんですよ」とルイーザは言う。「ドイツ人、特に南ドイツの人にとってはビールは生活になくてはならない"基礎食品"で、嗜好品ではないという意識が強い。だから手間をかけたり、少し高価なものを作ろうとは思わないのかもしれません」と笑う。自然派のアルコール飲料を作ろう......と考えた時、選択肢はナチュラルワイン一択だったのだ。
実はZ世代やミレニアル世代では、ワインとビールの消費にほかの世代ほど大きな違いはないという。ネイチャーズ・コーリングの顧客層も、20〜30代。ドイツ語圏、ヨーロッパを中心に年間4万本ほどのオリジナルワインが売り切れる。アルコールフリーの注目度が高まる中、マルメロを使ったアルコールフリーのペット・ナットも新開発し、こちらも売れ行き好調だという。
ワイナリーの前は、毎週土曜日の試飲日やイベント時にはオープンテラスに。友人たちを誘って訪れたい。
ワイナリーは毎週土曜日にオープン、試飲も可能だ。レストランやミュージシャンとのコラボレーションイベントやパーティも不定期で開催。これからどんなワインがベルリンで生まれていくのだろうか。今後が楽しみだ!
Nature's Calling
Provinzstrasse 40 - 44, 13409 Berlin, GERMANY
試飲は14:00〜21:00(土)のみ
https://www.naturescalling.de/

河内秀子
ライター。2000年からベルリン在住。ベルリン芸術大学在学中に、雑誌ペンなど日本のメディアでライター活動を始める。好物はフォークが刺さったケーキ、旧東ドイツ、マンガ、猫。ドイツでも日本でも「そとのひと」。 twitter:@berlinbau