ウイルスと闘う世界のいま。#03 未曾有の状況下で、心を明るく照らしてくれるもの。
Travel 2020.03.26
文・坂本みゆき(在イギリスライター)
この数週間のイギリスでの目まぐるしさをどうお伝えすればいいのか、正直戸惑っています。ニュースなどで日本でも報道されているとは思いますが、短い間に暮らしは大きく変わりました。
新型コロナウイルスの拡散を少しでも防ぐために、3月半ばに博物館などの大型屋内施設が閉じ、その後はパブ、カフェ、レストランが閉店を余儀なくされ、23日にはとうとう国中のロックダウンが告げられました。
私が住む地域で3月に予定されていたジャンブルセール(がらくた市)は10月に延期に。その頃にはこの騒ぎが収まっていることを切に願っています。
現在は他のヨーロッパの国々と同様に、食料品や医薬品、ガソリンなど、生活に不可欠な品やサービスを扱う店以外はすべて閉まっています。それらのお店で働く人、医療の現場に就く人など、いまどうしても人々の暮らしに欠かすことができない仕事の人以外は(交通機関もこれらの人たちだけの利用に制限されています)、日に一度の基本的な買い物と健康を維持するためのジョギングやウォーキングなどの軽いエクササイズを除いて外出が禁止となりました。
いつもは子どもたちがサッカーをして賑わっている公園も、すっかりがらんとしてしまっています。
これまでに体験したことのない未曾有の日々ですが、そんななかで気持ちをアップしてくれることがいくつかあります。
それはまず、この厳しい状況下でお互いに助け合う気持ちがより高まっていること。高齢者や病気の症状が出て自主隔離をしている人たちにお買い物をしたり薬を届けるなどの、代行サービスをする地域ごとのボランティアグループがあちこちで結成されています。先週初めの段階ですでに全国で約720あるとか。
そして食品や日用品の売り切れが続くスーパーマーケットは、比較的品物がある朝いちばんの時間帯をお年寄りや医療の現場で働く人専用としているところも。先週末、大手スーパー「テスコ」は激務が続く医療関係者がお店に買い物に来た際に可愛らしい春色のブーケをプレゼント。その映像を見た時は、胸が熱くなりました。
また、ホリデイインなどのホテルを持つIGHグループは、健康状態が心配されるロンドンのホームレスに300室を特別料金で提供。その全額はロンドン市が負担しました。ホームレスたちの送迎はロンドンのブラックキャブのドライバーたちが引き受けると名乗りを上げたそうです。
家で過ごす時間が長くなった私が日々楽しみにしているのは、大好きな博物館や美術館がSNSから発信するメッセージの数々です。最初は「本物ではなく映像で見るのはなあ」と、正直あまり興味を持っていなかったのですが、歴史的な文化遺産や世界的に知られた名画の映像や写真が流れてくるたびに、すっかり引き寄せられてしまっています。
「今日はどう過ごしている? 夢心地? お気に入りの本を物色中? それとも自然の中で過ごしている?」――ヴィクトリア&アルバート博物館は、ロセッティの絵とともにロックダウン中の人々に向けてこんなウィットに飛んだコメントで語りかけてくれる。
3月24日には、この日が誕生日のウイリアム・モリスを紹介するビデオが登場。
大英博物館のインスタグラムに古代エジプトのラムゼイ2世の胸像が登場したのは3月21日の世界詩歌記念日。この像にインスパイアされて書かれた19世紀の詩人シェリーの詩も紹介。
これまではそれらを見たい時にいつでも自由に行けたなんて、なんと贅沢だったことか。またいつか訪問できる時がきたら、私はそのありがたさをあらためて噛み締めることでしょう。それまでは抜かりなく予防をしながら、できるだけ心穏やかに暮らしていきたいと思います。
旅行が制限されているため飛行機の本数がぐっと減り、いつもよりも澄み渡っている空は切ないくらいに澄んだ水色でした。
texte : MIYUKI SAKAMOTO, title photo : alamy/amanaimages