ニッポンの小さな旅へーー大分県 大分県のものづくりから学ぶ、心地よくて美しい暮らし。
Travel 2020.12.24
【つくり手】
この地に息づく自然と多彩な風土、歴史が育んできた独自のクリエイティビティ。注目のつくり手による、ものづくりの精神を体感。
農業の傍ら紡ぎ出された、美しき音色。
baobab
中世ルネサンス期の古楽器の復元・研究・製作を行うカテリーナ古楽器研究所。
バオバブは古楽器製作家である松本未來と、その妹で音楽制作をしながら古い民謡と古楽の研究に取り組むマイカによるアコースティックユニット。“カテリーナの森”と名付けた自然豊かな地で田畑を耕し、楽器を制作しながら音楽を発信している。「都心で音楽活動を行うべきか、迷ったこともある」と言うが、2017年に全土を回ったニュージーランドツアーで自分たちが理想とする音楽との関わり方に出合い、土に根差した生活から得られるひらめきこそ、自分たちのものづくりのコアであるという気づきを得た。以来、自然と人、音楽とアートを融合させた音楽祭を主催するなど、独自のスタンスで活動を行っている。春に予定していたツアーはコロナ禍でキャンセルとなり、従来のようなライブも行えないが、「新しいライフスタイルを考える契機になる」とあくまでもポジティブ。この自省のひとときから、また新たな音を紡いでいく。
アンサンブルを意識して作られていることが多いという古楽器。「現代の楽器よりも遊びが多く、そこがおもしろい」(マイカ)。
1500年代のギターンという楽器のサウンドホールにあしらう透かし彫り。
1972年、ふたりの父である松本公博が創立したカテリーナ古楽器研究所。現在、未來が製作に取り組む。
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紙のコラージュアートで暮らしを豊かに。
岡崎真悟
制作活動を行うストゥーディオタイプの自宅兼アトリエは、アートの飾り方も参考になる。
大分市郊外の自宅兼アトリエで制作活動を行う岡崎真悟は、紙のコラージュアーティスト。フリーランスのグラフィックデザイナーとして活躍していたが、紙好きが高じてコラージュ作品を手がけるようになった。「紙の魅力は世界のどこでも手に入るところ」と言い、制作のために訪れたモロッコでは、日本から持ち込んだ紙をすべて捨てられるというアクシデントに見舞われたが、地元の子どもが飛ばしていた紙飛行機やカフェでもらったナプキンやチラシを回収して制作を続けるなど、アイデアマンの一面も。昨年暮れには、どの作品も月に¥2,000でレンタルでき、気軽に交換できるアートのサブスクリプションをスタートした。身近にアートのある暮らしをもっと気軽に楽しんでもらいたい、そんな思いで企画された次世代の試みで、大分からアートシーンを盛り上げていく。
制作過程。ベースとなるキャンバスを白くペイントするところからスタート。
グラフィックデザイナーとしても活躍する小野の作品は、民俗的なモチーフを使いながらもどこかモダン。
自宅は「絵を飾れる家」をテーマにリノベしてもらった。大型の作品も自由に飾れるよう、窓より壁面を重視した造りに。
紙を使った立体の作品。平面、立体と自在に形を変えられるのも紙の魅力。
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国東半島で花開いた、型染めと陶芸のコラボレーション。
すずめ草 |国東|
岡の代表的な作品である土鍋を可憐な椿のモチーフで。¥30,000〜
国東を拠点に制作活動を行うのは、型染と筒描の作家兼デザイナーで「よつめ染布舎」を主宰する小野豊一と、妻で陶芸家の岡美希。下絵から仕上げまでを手作業で行う伝統の型染めは、国東という土地柄を感じさせるどこか民俗的なモチーフが特徴。いっぽう、オーストラリアのアリススプリングスでアーティスト・イン・レジデンスに参加した経験のある岡の陶芸は、どこかアボリジナルアートを思わせるプリミティブな作風だ。ふたりの工房兼ギャラリーショップ「すずめ草」では、型染めと陶芸のユニークなコラボレーションを堪能できる。ともに広島出身のふたりは国東半島の豊かな自然と四季の移ろいの鮮やかさに惹かれ、5年前に移り住んだ。タッチはそれぞれ異なるけれど、国東が内包するダイナミズムをそれぞれの視点で表現しており興味深い。
夫婦の競演。岡の湯呑み(参考商品)と小野のコースター¥880。色味のマッチングが絶妙。
型染めの制作風景。繊細な模様を彫り抜いた型紙ともち米から作った防染糊、染料や顔料を使って文様を染め出す伝統的な染色技法だ。
Suzumegusa
大分県国東市国見町伊美2525-1
tel:090-7500-0182
営)予約制
https://suzumegusa.stores.jp
●大分駅から車で約90分。
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テーブルに咲くハスの花! 現代に蘇った“幻の焼き物”
ギャラリー皿山 |臼杵|
開き始めのハスの生花にロンジン茶を注ぎ、花の香りを茶にうつしとる。美しい所作でお茶を淹れてくれるのは、料理家で宇佐美の妻の友香。
江戸時代後期の臼杵藩で、たった十数年だけ生産されていた“幻の焼き物”、末広焼。陶芸家の宇佐美裕之がさまざまな資料をあたり、かつての末広焼を蘇らせたものが臼杵焼だ。輪花という花びらの形を象ったロマンティックな白磁は、現代の食卓にマッチするうえ、料理の盛り付けも決まりやすい、と宇佐美。現在は臼杵の食文化と合わせたプレゼンテーションを積極的に発信している。毎夏、ハスの花の咲く時季に開催する「蓮料理の宴」(参加費は時価)は、自家栽培したハスと臼杵産有機野菜をふんだんに使ったメニューと、この日のために特別にあつらえた新作うつわを披露する食イベント。韓国の宮廷スタイルで供されるハイライトのハスの花茶では、うつわの上で咲き誇るハスの花と、有機的で可憐な輪花のフォルムのマッチングに、思わず目を奪われる。
水蓮根やセロリなど、臼杵産の季節の有機野菜で仕立てた八寸。肉、乳製品、砂糖を使わず仕上げた。
軽く焼いたナスは米味噌のソースを添えて。季節のフルーツ、ブドウとイチジクの甘味がアクセントに。シソの花を散らして彩りよく。
ギャラリー皿山では月に一度イベントを開催する。
Gallery Sarayama
大分県臼杵市深田785
tel:0972-65-3333
営)イベントにより異なる
不定休
www.usukiyaki.com
●大分駅から車で約45分。
●掲載店の営業時間、定休日、価格などは、取材時から変更になる可能性があります。
●宿泊料金、滞在プランは、客室タイプ、時季、サービス内容で異なるため、予約時に宿泊施設にご確認ください。
*『フィガロジャポン』2020年11月号より抜粋
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photos : YASUO YAMAGUCHI, réalisation : RYOKO KURAISHI, collaboration : KENTARO KOUNO (snld.jp), SHINSAKU MUTO