Editor's Blog

生中継の代わりに楽しむ、スポーツドキュメンタリー。

こんにちは、編集NSです。「事実は小説よりも奇なり」の通りだったり、新たな視点を与えてくれるドキュメンタリー作品。春、特に劇場公開予定が多かったこのジャンルを紹介する記事を連続公開しています。残念ながら昨今の情勢下で公開休止や延期になっていたり、それに合わせて記事公開をストップしているものがありますが、どれも見どころの多い作品ばかり。映画館の営業が再開したら鑑賞に訪れていただきたいと思います。

公開済みの記事のなかでは新作と併せて観たい旧作も紹介しています。一部は配信でも観られますので、ご興味あればぜひ。

#01『ビッグ・リトル・ファーム』で考える、人間と大地の関係。
#02『21世紀の資本』が教えてくれる、格差社会を生き抜く術。
#03 三島由紀夫と学生の激論を観て、自由な表現の場に思いを馳せる。
#04 音楽と政治の関係に心奪われる、ドキュメンタリー3選。

私が最近、心動かされたドキュメンタリーは『42 to 1』。スポーツ専門のDAZN(ダゾーン)で観ることができます。愛して止まないスポーツがいまはほぼ開催されていませんので、ダゾーンも生中継はありません。そんな時に見つけたのがスポーツドキュメンタリー作品の数々。本作はアメリカのスポーツ専門チャンネル「ESPN」が製作したもので、「世紀の番狂わせ」と言われたボクシングのタイトルマッチの舞台裏に迫ったものです。

作品が焦点を当てるのはジェームス“バスター”ダグラス。誰もが知る対戦相手、マイク・タイソンではありません。1990年2月11日、東京ドームで行われたその統一世界ヘビー級タイトルマッチ。タイソンは当時37戦無敗の最強王者で、ダグラスは世界ランカーではあるものの、噛ませ犬と見られていました。作品のタイトルはオッズにまつわるもので、つまりほとんどの人がタイソン勝利を確信していたのです。

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photo : © ESPN Films

ところが。ダグラスが10ラウンドにタイソンからダウンを奪い、ノックアウト勝ち。当時、子どもだった私の心に強烈な印象を残した出来事のひとつです。バレンタインデーが近づきそわそわしていた学校の男子たちは、そんなことをすっかり忘れてこの番狂わせの話でもちきりでした。

『42 to 1』は、なぜタイソンが負けたのかではなく、なぜダグラスが勝ったのかに迫る作品です。ミドル級の世界ランカーだった偉大な父のこと。厳しさと大きな愛情でダグラスを支えた母のこと。天に与えられた素材だけでは勝てなくなるという壁。弱いと指摘されたメンタリティ。さまざまなことがタイソン戦に繋がっていきます。

巨体だけど締りのなかったフィットネスは、タイソン戦で見違えるほどに。まぐれとか、疑惑のロングカウントといった話題も出る試合ですが、ダグラスの勝利は必然だったのだと思わせてくれます。

チャンピオンになった直後、リング上でアナウンサーに応えたダグラスの言葉を聞いて、あふれる涙を止めることができませんでした。

42to1-jpg

photo : © ESPN Films

映像で臨場感たっぷりに再体験できるのもスポーツのいいところ。でもでも、やっぱりスポーツが観たい……。アスリートの方々こそそんな思いを最も強く持っていると思います。一刻も早く日常が戻って、スポーツを楽しめることを願って。

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