
大地のくぼみをかたどった、渡辺隆之さんのボウル。
これは渡辺隆之さんのボウル、その名も「くぼみ」。大地にできたくぼみに粘土を流して、その形を写し取るような作り方で生まれるうつわだから、そう名付けられている。このようにコロンとしたかたちの陶器のボウルは世の中にいくつもあるけれど、そのなかでこのうつわが特別な理由は、焼物が大地の一部だということを可視化していることにある。
渡辺さんは以前インタビューしたときにこう言っていた。「焼物は重力や大気の状態など作られる時の周囲の環境の影響を受け、厚みが出たり、薄く仕上がったり、あるいは内側に縁が入り込んだり、一回一回すべて出来栄えが異なる。それは生命が生まれるのと同じくらい『一度きり』の出来事であり、絶対的なものはないと感じられる」と。薄くはかないうつわだから、割れてしまうこともあるだろう。だけどそれもまた自然の摂理なのだ。なんとロマンチックなことか。
個展会場にずらりとならぶボウルの中に、好きなかたちが3つあって、なんとなく重ねてみたら上手に入れ子になった。だからそのままぜんぶいただいた。いつかひとりになったら、この三つ組碗だけを使って生きていくかもしれない、禅寺で僧侶が使う応量器みたいに。あらゆる一期一会を大事にしながら。
【ある日のうつわ】
底を見ると、大地のくぼみを実感できる。
禅僧が修行に使う漆の入れ子椀(応量器)は、適切な量の適切な食事を正しく行うことで、自然の中にある様々な縁や繋がりを感じながら食すためのものだそう。このボウルはそんな気持ちで使っていきたいと思う(この献立が適切かどうかはさておき)。
食材とうつわにおける白のグラデーションを楽しみたい時にもとてもいい。
作り手:渡辺隆之
年代:2020年頃
購入場所:トライギャラリー おちゃのみず
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