河瀨直美×深田晃司対談 映画祭の未来に向けて。[前編]

Culture 2020.09.19

今年の5月12日〜23日に開催予定だった第73回カンヌ国際映画祭は、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行を受けて、事実上中止となった。長い歴史の中でカンヌがキャンセルされたのは、戦争によって中止となった1939年のみ。ジャン=リュック・ゴダールらの占拠によって中止に追い込まれた68年を除いて、常にアート映画の殿堂として映画界を牽引してきたため、苦渋の決断だったといえる。世界の映画祭の最高峰としての自負から、カンヌは6月3日に記者会見を開き、上映されるはずだったオフィシャルセレクション56本を発表した。選出された作品は「Cannes2020」レーベルとして、公開時のプロモーションにロゴを使用することが可能だ。 
56本中、これまでカンヌ国際映画祭で上映されたことのある監督のカテゴリー「The Faithful」に日本から選出されたのは、『朝が来る』の河瀨直美監督と『本気のしるし』の深田晃司監督。幻となったカンヌ国際映画祭と、今後の映画界や映画祭の未来について、ふたりに話を聞いた。

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●河瀨直美 NAOMI KAWASE 奈良を拠点に映画を創る。「なら国際映画祭」エグゼクティブディレクター。代表作は『萌の朱雀』(1997年)、『殯の森』(2007年)、『あん』(15年)など。東京オリンピック公式映画監督、2025年大阪・関西万博プロデューサーも務める。photo:LESLIE KEE 

カンヌ映画祭、リアルで開かれぬ2020年。

――通常カンヌは、4月下旬にラインナップを発表しますが、「Cannes2020」に選出されるまでにはどういった経緯があったのですか?

河瀨直美(以下、河 今回は新作の『朝が来る』が完成していたので、2月頃から映画祭側とやり取りしていたのですが、その時は開催されるものと思っていて。春になって危ぶまれ始めた時から、「Cannes2020」レーベルの話が出ました。世界の監督の中には、ヴェネツィアなど秋以降の映画祭にシフトする人もいたと思いますが、私はやはりカンヌに残したいな、と思っていました。

深田晃司(以下、深田) 作家性の強い作品やアート作品を後押しするというカンヌの姿勢が、今回の56本のセレクション発表に繋がったのだと思います。私の作品『本気のしるし』についていえば、選ばれたことで公開に向けて大きな力をもらっています。

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『朝が来る』
特別養子縁組によって男の子を迎え入れた清和と佐都子の夫婦。6年後、子ども朝斗の生みの母親を名乗る女性から「子どもを返してほしい」という電話がかかってくる……。辻村深月のヒューマンミステリーの映画化。●監督・脚本・撮影/河瀨直美 ●出演/永作博美、井浦新ほか ●2020年、日本映画 ●139分 ●配給/キノフィルムズ、木下グループ ●10月23日より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国にて公開 ©2020「朝が来る」Film Partners

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――『本気のしるし』は、ドラマを1本の映画に編集したのですよね。

深田 もともと名古屋テレビで放映された、1話30分、全10話の深夜ドラマでした。ただ、私としてはいつもの映画と変わらない作り方をしたし、完成したら評判がよかったので映画にしようという流れになりました。だから当初は、映画祭に出品するプランはなくて。(「ある視点」部門に選出された)『淵に立つ』(16年)の時は、フランスと合作だったのでワールドセールスを通じてエントリーしたんです。今回はエンターテインメント性が高いジャンル映画のような作品だし、カンヌ公式ではなく、併設部門「監督週間」にエントリーしました。よい感触だったのですが、「監督週間」は3月に中止を発表された。でもせっかく英語字幕を入れたので、カンヌ公式にも見せたのです。選出の連絡が来たのは、会見で発表される1週間ほど前でしたね。

河瀨 尺はどれくらいですか?

深田 232分です。

河瀨 かなり長いですね。

深田 映画祭では長いものは不利だと言われますよね。

河瀨 カンヌでの公式セレクションというお墨付きをもらうと、観てもらえる機会は増える。深田くんの作品の経緯や尺を聞くと、カンヌは可能性をさらに広げたように思いましたね。このコロナ禍にあって、作品の居場所みたいなものを意識的に作ろうとしている。

深田 カンヌはNetflix作品を上映しないと揉めたこともあり、頭が固いというか、劇場原理主義的に思われたりもしますが、セレクションを見ていると柔軟なんだなと、いつも思います。おそらく、Netflix問題も劇場を守るという意味で対抗していただけで、劇場上映を守ることができるのであれば、ドラマ作品も受け入れる度量があるんだと思いますよ。

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『本気のしるし 劇場版』
小さな商社に務める辻は、踏切で立ち往生していた車を運転していた女性を助けたことで、次々にトラブルに巻き込まれていく。「ビッグコミックスペリオール」誌に連載された同名コミックを20年の構想の末に映像化。●監督・共同脚本/深田晃司 ●出演/森崎ウィン、土村芳ほか ●2020年、日本映画 ●232分 ●配給/ラビットハウス ●10月9日より、全国にて公開

河瀨 配信問題に関しては過渡期ですよね。日本の場合は、劇場より先に配信された作品は映画とは見なさないと言われていますが、行定勲監督の『劇場』(20年)も、コロナ禍でAmazonPrime 配信と劇場公開が同時になった。製作費を回収しなければならない現実がある中で、その選択は、新しいというより時代に即した判断だったと思います。カンヌも世界最高峰の映画祭として、大きなスクリーンで映画を観てもらうことをいちばんに考えていると思うけど、そのあたりは軽やかに対応していくんじゃないかな。レッドカーペットなど華やかな部分ばかり報道されがちですが、学生映画や短編、「ある視点」部門、「監督週間」などコンペ以外にいくつものセクションがあり、多様な作品が上映されている。しかもそこに一度名前を刻まれたら、ずっと大事にしてくれる。

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――おふたりの作品が選出された「The Faithful」には、カンヌでこれまで上映されたことのある監督の名前が並んでいます。自ら発掘し、育てた監督に誇りを持っているというのがカンヌらしいですね。

深田 私は一度選出されただけなので、常連ではありませんけどね。

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●深田晃司 KOJI FUKADA 1980年、東京都生まれ。平田オリザ主宰の劇団に演出部として入団。『ほとりの朔子』(2013年)でナント三大陸映画祭グランプリ金の気球賞と若い審査員賞受賞。photo : YUKO CHIBA 

――「ある視点」部門での審査員賞受賞は、立派なカンヌキャリアです。

深田 カンヌの歴史を見ていくと、興味深いですよね。20世紀半ばにヴェネツィアやカンヌの映画祭が生まれるまでは、アート映画を評価する場がなかった。ハリウッド的なグローバリズムや商業性の高いエンターテインメント作品の中で、埋もれてしまいかねない作家性の強い作品を評価して後押しし、守っていく。カンヌは権威主義とも言われますが、ハリウッドグローバリズムに対抗するための権威でもある。

河瀨 13年にコンペの審査員としても参加したのですが、スティーヴン・スピルバーグ審査員長を含む9人の映画人とパレ(メイン会場)で10日間も映画を観続けるという、すごい体験でした。印象的だったのは、スピルバーグが「カンヌはアカデミーじゃない」と言っていたこと。ロビー活動が始まるから、パーティは禁止。アカデミーはそういうロビー活動の連続なのでしょう。3日に1度くらい審査員が集まって感想を話し合いながら、1作品ずつ丁寧に観ていった。9人いれば9通りの考え方があり、争うことなくディベートする。みんながコミュニケーションを取りながら、自分が純粋にいいと思った作品を推せるようにスピルバーグが導いてくれたし、そのリーダーシップが素晴らしかった。映画人として何を評価するか問われるというか、私自身を試されました。

深田 私は初めてだったこともあり、お上りさんのように浮かれている間に、あっという間に終わったカンヌ体験でした(笑)。映画祭期間中のカンヌには関係者しかいない。タクシーの運転手も「あの映画観た?」って話していたくらい。

映画祭は開催地域との連動が重要。

河瀨 カンヌは映画祭終了後、受賞作を地元映画館で上映するんです。市が一丸となって映画祭を支えているという自負と芸術に対するリスペクトがある。市民を巻き込むところ、フランスは上手だなと思います。私は10年前から「なら国際映画祭」を運営していますが、映画祭は町と連動することが重要。訪れた人は、その土地のものを食べて、人と出会って喜びが倍増する。

深田 記憶に残ったのは、ロカルノや釜山など大都市ではない映画祭が圧倒的に多い。町ぐるみの雰囲気を感じられるんです。

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――映画祭は地域興しの一環で始められることが多く、カンヌの運営資金も、半分が国と市、半分はスポンサーの協賛金で成り立っていますよね。

河瀨 なら国際映画祭もカンヌを参考にしました。国、地方自治体、スポンサーの3本柱で成り立つことが、長く続けられる秘訣だと思って。

――多くの映画祭が中止になりましたが、今後どうなっていくと思いますか?

深田 トライベッカ映画祭が主導し、22映画祭が参加したWe Are OneというYouTubeのオンライン映画祭に5月に参加しました。過去作が権利問題でオンライン上映できなかったので、リモートで作品を作って上映した。世界中から、コメントがいろんな言語でリアルタイムに送られてくる。体験したことがないおもしろさがあった。映画という文化はしぶとくて、状況に応じていろんな形態で楽しみを提供できると実感しました。

河瀨 なら国際映画祭も、今年はリアルとオンラインのハイブリッドで開催します。これまで来てくれた世界の映画人をオンラインで繋ぐ企画も実施予定で、すでに80人ほど集まっている。オンラインでも人と人が繋がることで、この開催は宝物になっていくと思います。

コロナ禍を乗り越えて、映画界はどう変わる?

――映画は作っただけでなく、きちんと公開され、資金を回収していかなければ次の作品は撮れない。カンヌで2度のパルムドールを受賞しているマイク・リー監督は、「カンヌに出したことによって、ハリウッドのように大きな宣伝費をかけずに、世界に認知してもらう。世界中の配給会社に買ってもらい、公開してもらう。そういう機会になる。だから、映画祭は大事なんだ」とおっしゃっていました。カンヌ国際映画祭総代表のティエリー・フレモーは、カンヌセレクションに選ばた作品は、今年の後半の映画祭で上映されていくことになると言っていましたが、計画はありますか?

深田 レッドカーペットのような華やかな部分は映画祭の一部で、カンヌのマーケットは、フィッシュマーケットで魚屋さんが新鮮な魚を売り買いしていくのと同じように、映画が売り買いされる。ハリウッド映画のように宣伝費をかけなくても、映画祭で注目されれば映画も独り立ちできるようになる。今回、カンヌセレクションに選ばれたことによって、いくつかの映画祭から声がかかり、いくつか決まりました。たぶん、河瀨さんも決まっていますよね。

河瀨 はい、トロント映画祭とサン・セバスティアン映画祭はすでに発表されています。それ以外にもいくつか声がかかっています。

以下、後編に続く 

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texte : ATSUKO TATSUTA

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