「ウィリアム皇太子に王座を譲ることは考えたこともなかった」チャールズ国王の素顔とは?

Culture 2023.05.08

エリザベス2世の逝去から8ヶ月を経て、チャールズ3世の戴冠式が執り行われた。ツイードのスーツや壮麗な軍服の下にはどんな素顔が隠されているのだろう? 国王の伝記作家フィリップ・カイルが鑑定する。

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カミラ王妃とチャールズ3世。(ウィンザー、2023年4月9日)photography: Getty Images

2023年5月6日は歴史的な日付となった。チャールズ3世はカンタベリー大司教から塗油を受け、大司教から2本の王笏と宝珠、マントを受け取り、続いて妻のカミラが見守る中、頭上に王冠を授かった。しかし、チャールズ3世とは一体どんな人物なのだろう? タブロイド紙やテレビやラジオの報道を通して、私たちは新英国王についてあらゆることを知っている。国王はこれまでも「~の息子」、次いで「~の夫」、「~の愛人」、そして「~の父」として、長い間注目を浴びてきた。フランスとイギリスの国籍を持つフィリップ・カイルは、チャールズ3世が皇太子時代に設立した皇太子信託基金にPR担当として勤務後、BBCのコミュニケーション部門に入社。その後国際的なニュース専門放送局ユーロニュースのディレクターを務めた人物だ。こうした経歴を活かし、彼は昨年に国王の伝記『チャールズ3世』(ペラン出版)を出版した。

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人柄、打ち込んでいること

ーーチャールズ3世の人柄の主な特徴はどのようなものですか? 一般の人々にあまり知られていない側面はありますか? 振る舞いに関しては、幼少期は王様気取りのところが目立ち、成人後は靴の紐までアイロンをかけるよう指示するといった、現実離れした面が注目されてきましたが......。こうした見方は間違っていますか?

フィリップ・カイル 「チャールズ国王が現実や世間の人々から切り離されている」というイメージは、誤解があると思います。私はチャールズ国王が皇太子時代に設立した「皇太子信託基金」で3年近く勤務しました。彼に直接雇用されたわけではないので宮殿で仕事をしたことはありませんでしたが、国王について多くのことを知ることができました。この組織は若者の社会生活を支援する事業を行っています。私たちが主催していたイベントでは、当時はまだ皇太子だったチャールズ国王が、自分を前にして明らかにナーバスになっている、自分とは対極にある階層出身のこうした若者たちと打ち解け合う姿を見て感銘を受けました。チャールズ3世は実に共感力のある方で、出会った人たちとの交流から学んだことを活かして、自らの意見を形成し、行動の指針とされています。チャールズ国王が青少年や環境、ソーシャル・ミックスを擁護するために、さまざまな闘いに尽力してきた年月がそれを物語っています。

ーーチャールズ国王の人格形成には、しばしば「厳格な」と表現される、子どもの頃に受けた教育が影響を与えているのでしょうか? 家族と離れ、スコットランドの寄宿学校で学生生活を送った話は有名ですが......。

チャールズ国王が受けた教育を批判する人がよくいますが、1950年代という時代背景を考慮する必要があります。イギリスの貴族階級のどの家庭も、親は子どもの教育にいまほど積極的に関与していませんでした。ウィンザー家に限ったことではありません。エリザベス2世は、それでもチャールズ国王が幼い頃は、午前中に30分、夜に1時間30分、息子と過ごす時間を設けていました。父親のフィリップ殿下は海軍の軍務でマルタに駐在していたため、幼少期に父親と接する機会はあまりありませんでした。しかし、エリザベス2世が女王になったとき、女王は子どもたちの教育を夫に委ねることになりました。そのようなわけで、エディンバラ公爵は「息子を鍛える」ために、10代そこそこのチャールズをスコットランドの寄宿学校に入れることにしたのです。チャールズ自身は自分の息子たちにこうしたスタイルの教育を受けさせることは望みませんでした。

ーーチャールズと両親の間柄はそれほど親密ではなかったかもしれませんが、両親以外に強いつながりで結ばれた人物もいたようですが......

そうですね。とくに祖母のエリザベスとは、彼女が2002年に亡くなるまで、とても近しい間柄でした。彼女はチャールズにたっぷりと愛情を注ぎ、チャールズは祖母から知的好奇心と芸術に対する感受性を受け継ぎました。

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カミラ、妻、闘い

ーー国王は非常にユーモアのある方だと言われていますが、本当ですか?

その通りです。こんなエピソードがあります。私が皇太子信託基金に勤務していた頃、クラレンスハウスでチャールズ皇太子に御目に掛かる機会がありました。皇太子は私に「ここであなたはどんな仕事をしているのですか」とお尋ねになりました。私は「PRを担当しています」と答えました。すると皇太子は微笑を浮かべて「お気の毒様!」と声を上げられました。実にイギリスらしいユーモア、そして真面目な顔で冗談を言うところも、いかにもチャールズ皇太子らしいお返事でした。

ーー国王就任以後、評価は上がっているとはいえ、長い間、国民の間でチャールズの人気はそれほど高くありませんでした......

残念ながら1980~1990年代には、いわゆる「ウェールズ戦争」があり、タブロイド紙がこれに飛びつきました。報道機関はチャールズのことを家庭を顧みない冷たい父親として描き出しました。これは濡れ衣です。問題は、彼の前にダイアナ妃がいたことです。彼女はより率直でした。ダイアナ妃はカメラの前で子どもたちにキスをすることにも抵抗がありませんでしたし、人前でもとても暖かい態度で振る舞える方でした。ダイアナ妃が亡くなった後、世間はチャールズに対して以前より寛大になりました。英国民はチャールズのことをふたりの息子を気遣う父親として見るようになりました。

ーーエリザベス2世は飼い犬のコーギーと狩猟に情熱を注いでいましたが、チャールズ国王が熱中しているものは何ですか?

知的好奇心が非常に旺盛な方です。国王は多くのものに関心を抱いています。若い頃は、演劇、文学、とくにシェークスピアに情熱を傾けていました。音楽もお好きですが、これは祖母であるエリザベス王母譲りです。音楽への造詣は相当深く、ウィリアム王子キャサリン妃、そしてハリー王子メーガン妃がそれぞれの結婚式の音楽を選ぶ時に助言もされています。ポロもお得意です。環境、田園生活、古典建築と、関心の対象は幅広いものです。

とはいえ好みという点では、チャールズはやはり伝統的な感性の持ち主です。トニー・ブレアは1997年に首相に就任した際、自分自身が体現しようとしていた「クール・ブリタニア」という思想を反映した、現代的なイメージをイギリスにもたらしたいと考えていました。そのために、現代的な感性を持つ建築家が考案した新しいプロジェクトでロンドンのスカイラインを作り変えることを目指しました。あまり実は結びませんでしたが、チャールズはこうしたプロジェクトに対する反対運動を起こしました。こうした建築は彼にとっては、都市とその調和を歪めるものなのです。

ーーカミラ王妃との結婚は、チャールズにとって力にもなり、重荷にもなったと言えますか?

カミラはずっとチャールズの力となってきました。ふたりの愛の軌跡は信じられないような美しい物語です。カミラがこき下ろされたときに、チャールズが多大な苦痛を味わったとはいえ、彼女がかつてチャールズにとって「重荷」であったことがあるとは私には思えません。数年後、チャールズは彼女との関係を正当化するためにあらゆる手を尽くしました。その最初のステップが結婚でした。世論の支持は極めて低かったものの、最終的には時が解決しました。カミラ自身、女性に対する暴力との闘いを始め、いくつかのテーマに誠実なやり方で取り組んできました。脚光を浴びたいと願う人ではありません。彼女は公爵夫人になりたかったわけでも、王妃になりたかったわけでもない。ただ自分の夫と一緒にいたかっただけなのです。英国民はそのことをよく理解し、最終的に彼女を受け入れました。それゆえエリザベス2世は2022年2月に、チャールズが国王に就任するときにはカミラに王妃の称号を授けるようにという意向を述べたあの公式声明を発表することができたのです。彼女が辿った道のりを振り返ると、ほとんどハリウッド映画のようです。

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環境保全活動

ーーチャールズ3世は何十年も前から環境保全活動に取り組んでいます。国王のエコロジカルな信念はどこに由来するのでしょうか?

ウィンザー家の人々はみな、田園生活や自然を愛しています。狩猟をするのも、環境保護に取り組むのも、こうした愛ゆえです。矛盾していると見えるかもしれませんが。フィリップ王配が世界自然保護基金を通して行ったすべての活動はその一例といえます(フィリップ王配はWWFの主要な財政援助者のひとりであると同時に、組織設立当初からのリーダーのひとりとして、スポークスマン、庇護者として組織を支えた)。チャールズはまた、彼のメンターである作家でドキュメンタリー製作者のローレンス・ヴァン・デル・ポストの教えにも感化されています。カール・ユングの元で学んだローレンスはとりわけ人間と自然の関係に関心を寄せており、チャールズが精神的なものごとに目覚めていく過程で、決定的な役割を果たしました。

ーーチャールズは母親に比べると、とても政治的です。今後、イギリスの政治界でチャールズの意見は重要な意味を持つようになりますか?

 

そうですね。ただ、政治的とみなされるテーマについて、彼はこれまで何度も自分の考えを述べてきましたが、特定の党派を支持するような態度は一度も見せたことがないということは指摘しておく必要があります。国王となったいま、イギリス政府を困難な状況に陥らせるような政治的な発言をすることはないでしょう。とはいえ、いまや国家元首としてこれまで以上に影響力を持っており、公式訪問や宮殿での催しを通して、メッセージを発することができます。リズ・トラスが首相だったときに、チャールズ国王にCOP27に出席しないように進言したことがありましたが、チャールズはその代わり、COP開会式の前日にバッキンガム宮殿で、政治・経済界のリーダーたちとNGO代表者たちが出会い、環境をテーマに話し合う機会を設けました。つまり、チャールズが考える英国王の役割とは、そのオーラを活かして、とりわけ地球の未来というテーマに関して決定権を握る人たちを集められる人ということのようです。それに君主という自分に託された新しい役割において、彼はイギリス首相と毎週、一対一で面会するという特権を持っているわけですから......。諺によれば、君主は「事情に通じ、励まし、警告する」権利を持つといいます。エリザベス2世はこの週に1度の面会を通して、最初のふたつの権利は行使しましたが、警告するという権利はあまり利用しなかったと私は想像します。逆にチャールズ3世はこの権利を積極的に行使するはずです。

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チャールズ国王の治世

ーーチャールズは本当に国王になることを夢見ていたのでしょうか? 本当に王位に就くのを一生待ち続けていたのでしょうか?

自分の親が亡くなった時に国家元首となる新しい君主にとっては、即位する瞬間には個人的にとても辛い経験が伴うと言えるかもしれません。ただ、国王になりたいというチャールズの気持ちに疑念を持つ人がいるのは理解ができません。世間で言われているように「チャールズがウィリアムに国王の地位を譲る」ことを考えたことは一度もありません。チャールズのこれまでの活動からも、行動を起こし、生涯をかけた闘いを具体化したいという彼の意志は明らかです。チャールズは長い時間をかけて国王になる準備を整えてきたのです。

ーー73歳で国王になると、ものごとを変える時間は限られています。もう遅すぎるのではないでしょうか?

チャールズが73歳で国王になることに私はむしろ興味深さを覚えます。長さはともかく、チャールズ国王の統治期間がつまらないものになるとは考え難い。チャールズはこれまでシンプルな人生を送ってきたわけではありません。国民の支持率もいい時もあれば悪い時もありました......。しかしいまでは、ある種の賢さ、穏やかさ、そして経験を身につけています。そういう意味では、いいタイミングで王位に就いたのかもしれません。彼自身にとっても、イギリスにとっても。

ーー国王としてのデビューは成功したということでしょうか?

そう断言するのはやや時期尚早ですが、私が言っておきたいのは、チャールズ国王が英国民から支持、承認されたということです。1990年代の不人気ぶりを記憶している者にとっては、驚くべきことです。その上、カミラも王室に迎えられた。そしてこれから王妃となる。素晴らしい瞬間となるでしょう。これは勝利です。世間からこき下ろされながらも、耐え抜いた女性がいま、夫と並んで王妃となるわけです。

ーーそのカミラ王妃の役割とはどのようなものになりますか?

王妃という公的な役割とは別に、プライベートでも夫を支える重要な役目を担うことになります。チャールズはやや怒りっぽいところがありますが、カミラはそんなチャールズを正しい方向に導く術を心得ています。彼女ならなだめ役に回ることもできるでしょう。長年うまくいっている夫婦ですから。

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ーーエプスタイン事件に巻き込まれているアンドルー王子、ハリー王子とメーガン妃の告発、ハリー王子による暴露本『スペア』......。国王チャールズ3世の生活は穏やかな大河というわけではありません。いまのところ国王はこの状況をどうやって切り抜けているのでしょうか?

英国民は国王が火に油を注がない点を評価しています。チャールズ国王は実にイギリス人らしい平静さを発揮し、試練に遭遇しても、威厳を保つよう努めています。特に戴冠式後には、王室改革を加速化させると決意しています。改革は英王室の存続のために不可欠です。宮殿の内部機構を見直し、より簡素で節約型の組織を実現することが課題です。チャールズ国王はまた、英王室の規模をウェールズ公爵家を始めとする数人のメンバーに縮小する案を検討しています。しかし一方で、ハリー王子とメーガン妃の王室離脱で、妹のアン王女、弟のエドワードと義妹のソフィーに頼らざるを得ない状況でもあります。3人とも人気は高いです。

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家族揃ってクリスマスのミサに向かうウィンザー家。(サンドリンガム、2022年12月25日)photography: Getty Images

ーー今後どのような試練に直面することになりますか?

治世の初期には統一という試練が待っているでしょう。まずは英国民の統一です。ここ数ヶ月間、イギリスでは大規模なストが続いています。社会、経済、政治のレベルで非常に緊張した雰囲気が漂っています。国王が統一と安定を体現し、国王としての役割を十全に果たすことができるのはこうした時です。ふたつ目の試練は、イギリスの国家としてのまとまりを維持することです。特にスコットランドでは、独立を求める声が今後、よりはっきりとした形を取ることもあり得ます。同時に、チャールズ国王はイギリス連邦王国の結束にも配慮する必要があるでしょう。英国王を君主に据える国々のなかから、2021年に君主制を廃止したバルバドスのように、共和制に移行する国もきっと出てくるでしょう。国王はそうした国々を支援し、移行が確実に行われるよう見守り、とりわけカリブ海のこうした国々で植民地支配の過去というデリケートな問題に対処していかなければなりません。最後に、国王にはハリー王子とメーガン妃の離脱、そしてエリザベス2世の逝去以後、不安定になっているウィンザー家の結束を守るという課題もあります。王国の統一を保証するためには、自分自身の家族の団結を保証できなければなりません。英国民はその点にとても注目しています。

text: Ségolène Forgar (madame.lefigaro.fr)

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