立田敦子のカンヌ映画祭2023 #06 リリー＝ローズ・デップ主演『THE IDOL』が酷評!?

良質のドラマを排出しているHBOと気鋭の映画会社として知られるA24がコラボしたTVシリーズ『THE IDOL/ジ・アイドル』の1話と2話（全5話）がワールドプレミアされた。

レッドカーペットに登場した『THE IDOL/ジ・アイドル』の出演陣。Courtesy of HBO / Photographed by David John

HBOの人気シリーズの『ユーフォリア／EUPHORIA』のサム・レヴィンソンをクリエイターに迎えた本作は、リリー＝ローズ・デップが主演、ミュージシャンのザ・ウィークエンドがエイベル・“ザ・ウィークエンド”・テスファイの名で、企画、制作総指揮、脚本、そして出演もしている。さらにBLACKPINKのジェニーやトロイ・シルヴァンなどの人気ミュージシャンも出演している超話題作だ。

主演のリリー＝ローズ・デップ。Courtesy of HBO / Photographed by David John

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さらなる成功を求める若手ポップスターのジョスリン（リリー＝ローズ・デップ）を通して描かれる音楽業界の舞台裏。予告編で暗示されていたように、第一話の冒頭から、刺激的なシーンの連続だ。

バックダンサー役で登場するBLACKPINKのジェニー。Courtesy of HBO / Photographed by David John

自宅兼スタジオで、新しいアルバムの準備のためヴィジュアルの撮影をしているジョスリンは、半裸でカメラに向かって挑発的なポーズをとる。露出やヌーディティに対して物申すインティマシーコーディネーターはトイレに閉じ込められ、撮影は過激さを増していく。ミュージックビデオのためのダンスの練習シーンでは、最小限の衣服しか身に着けていないジョスリンがエロティックで挑発的なダンスを踊る（バックダンサーのダイアン役で登場するBLACKPINKのジェニーの最大の見せ場だ）。

アフターパーティを盛り上げたミュージシャンのザ・ウィークエンド。Courtesy of HBO / Photographed by David John

その様子を見守るのは、プロデューサーやエージェントだが、ジョスリンはそうした彼女を取り巻く大人たちによって搾取されているわけでもなさそう。彼女は、自らの野心のために“自分の武器”を使って闘っているのだ。より成功するために、あるいは名声を維持するためにストレスを抱えたジョスリンは、ダイアンとクラブに繰り出し、クラブのオーナーのテドロス（エイベル・“ザ・ウィークエンド”・テスファイ）と出会い、恋に落ちる……。

あまりにも過激でスキャンダラスなアイドルのバックストーリーに、“スター誕生”的な成功物語を期待した人は面食らってしまうかもしれない。これはハリウッドの真実なのか、カリカチュアした世界なのか。

カンヌでは上映後にさっそく拒否反応も。

BREAKING: The Idol’s Rotten Tomatoes score just fell from the Cannes Film Festival red carpet steps pic.twitter.com/WkUc4p6Qik

— Rafa Sales Ross (@rafiews) May 23, 2023

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ここまで振り切った描き方は通常のスタジオや監督ではできず、ザ・ウィークエンドやリリー＝ローズ・デップといったエンタメ界の“ニュー貴族”だからこその“自由”なクリエイションだと捉えていて、個人的にはとても興味深く感じた。カンヌの評論家からは「お墨付き」を得られなかったが、実際の視聴者はどう受け止めるのか、配信後の動向も見守りたい。

レッドカーペットにもエンタメ界の“ニュー貴族”が集結。Courtesy of HBO / Photographed by David John

配信の台頭により、質も高まり、需要も増しているTVシリーズを映画界は以前にも増して無視できなくなっている。ヴェネツィア国際映画祭では、数年前から「シリーズ」という部門を設けて、HBOやNetflixといったTVシリーズの優れた作品を積極的に上映している。

カンヌも昨年のHBOのオリジナルシリーズ『イルマ・ヴェップ』に続き、今年もHBOの新シリーズ『THE IDOL/ジ・アイドル』の1話と2話（全5話）をワールドプレミアしたという経緯。『イルマ・ヴェップ』はフランスを代表する監督のひとりで、カンヌの常連でもあるオリヴィエ・アサイヤスが手がけたもの。つまり、映画作家の作品というエクスキューズがあったし、これまでも映画監督が撮ったドラマシリーズが上映されることはあったが、『THE IDOL/ジ・アイドル』のようなタイプのTVシリーズを上映するのは新たなる展開である。敷居の高さで有名なカンヌだが、SNS世代の取り込みも視野に入れてのセレクションなのだろう。

リリーやジェニーもアフターパーティに登場。Courtesy of HBO / Photographed by David John

ちなみに、カンヌは今年はTiktokともコラボレーションをしている。

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