アール・ドゥ・ヴィーヴルを探して。#2 眠っている「自分の本心」を目覚めさせる方法は?

Culture 2024.06.13

フィガロジャポンは、フランスの「アール・ドゥ・ヴィーヴル(Art de Vivre)」という考え方を大切にしています。自分の感性をもとに知恵と工夫を凝らして何気ない日常を楽しくするーー「暮らしの美学」とも訳されるこの考え方は、国を超えて、すべての人の中にあり、その人の生き方を豊かにするものです。

そんなアール・ドゥ・ヴィーヴルについて考える新連載「アール・ドゥ・ヴィーヴルを探す旅。」(全4回)。プロフェッショナルコーチの畑中景子さんと一緒に、人生を豊かにしてくれる、あなただけのアール・ドゥ・ヴィーヴルを探してみませんか?

▶︎#1. あなただけのアール・ドゥ・ヴィーヴルの見つけ方。


自分に素直になる、ということ。

文/畑中景子

前回の記事では、アール・ドゥ・ヴィーヴルに正解や間違いはなく人それぞれのもの、自分で見つけて創り続けていくもの、というお話を書きました。また、頭と身体を緩める宿題もお渡ししてみましたが、やってみていただけたでしょうか?

今回から、自分のアール・ドゥ・ヴィーヴルを見つけていくことを始めてみたいと思います。

ここから一緒にやってほしいことを案内していきますが、その前に大事なお願いがあります。それは、「自分に素直になって」やってみてほしいということです。別の言葉で言うなら、「自分に嘘をつかないで」。

不思議なもので、私たちは、本当はあまり心が動かされていないのに好きだと言ってみたり、実は感動で心が震えているのに「そうでもない」という風に振る舞ったりすることがあります。

ここから先のことは誰かに見せたりする必要はありません。ぜひ、自分自身のために、自分に誠実でいてください。

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好きなことや、心惹かれるものは?

アール・ドゥ・ヴィーヴルとは、自分は「どうありたいか」ということではないかと思います。たとえば、どんな雰囲気で、どんな気持ちで毎日を過ごしたいか。どんなものに囲まれて、どんなテンポで暮らしたいか、など。

けれども、これをそのまま問われて、答えがすらすらと出てくる人は少ないと思います。なので、まずは自分の感性と繋がるところから始めてみましょう。忙しい日々の中で感覚が眠ってしまっている方は、それを目覚めさせるところからですね。

まず、ペンと紙を用意して。「好きだと感じる」または「心惹かれる」もの・こと・人などを、なんの制限も設けずに、自由に思い浮かべてみてください。そのことを思うと、ワクワクしたり、楽しみになるものです。そしてそれらを、できるだけたくさん、縦方向に書き出してみてください。50個以上を目指してみましょう。

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ここでの目的は材料集めなので、質より量です。100%好きかどうか吟味せず、少しでも惹かれるものは書き留めてください。

幼少期〜学生時代〜社会人〜現在と、それぞれの時代を振り返ってみると始めやすいかもしれません。小さい頃の宝物、楽しかった体験、ハマっていたことなど、懐かしむように思い出してみてください。もう興味は薄れていても、一度は好きだったなら、とりあえずは書いておきましょう。

まだやったことがないこと、行ったことがない場所、会ったことがない人なども、憧れるものは書き足しましょう。あきらめてしまっていたことも。

どれも、あなたが惹かれるなら、あなたにとって大事なことです。どれが良くてどれがダメとか、そういうことはありません。

また、好きなものは好きでよく、そこに論理も正当化も必要ありません。心が躍るなら、理由はそれだけで十分です。

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思考の制限を外す。

始めてみると、すぐに手が止まってしまうこともあるかもしれません。

自分の中のこんな声が邪魔していないでしょうか。「これは、なんの役にも立たない」「こんなものにときめいているなんて、恥ずかしくて人に言えない」「好きだけど、そんな才能はない」など。

そういう声が聞こえてきたら、「とりあえず書いてみるだけだから」と言って、自由に発想を広げましょう。

どんな小さなものでも大丈夫です。すごいかどうかは問題ではありません。

逆に壮大なものも大歓迎です。いまの自分には到底手に入らなさそうな非現実的な妄想でも、浮かばせてみましょう。

私たちは無自覚のうちに、自分自身に枠や天井をつくってしまっています。「わきまえる」「分相応」など控え目であることを美徳とする考え方や、「野心家」など身の丈以上を望むことを卑下したような言葉に、特に女性は多く影響を受けているだろうと思います。

確かに、望んだことが実現するかどうかは誰も約束できません。けれど、どんなことであれ、欲してみること、夢を描くことは自由です。そして、何かを実現する出発点は夢見るところからです。

好きなことが一貫していなくても大丈夫です。たとえば、人と一緒に過ごすことが好きな一方で、ひとり静かな時間も欲しい、というのはまったく不思議ではありません。高級フレンチを楽しむ一方で、白米と味噌汁が好き、というのも何もおかしくありません。

私たちがその両方を大切にしたいと望むことは、何も間違っていません。表面的には相反しているように見えるものも、根底では共通項で繋がっていることもよくあることです。もちろん、繋がっていなくたって、それも問題ありません。

また、いまここで書き出してみることが、将来、嫌いになっても大丈夫です。これに未来永劫縛られるわけではありません。大切なものが移り変わっていくのも、これもまた人間として自然なことです。私たちの身体も感情も、そして世の中も、刻一刻と変わっています。考え方だって変わっても当然です。

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どんなところに惹かれている?

リストは膨らんでいるでしょうか? 今度はそれぞれのもの・ことの右側に、それぞれ「どんなところが好きなのか」を書いていってみましょう。

たとえば、「旅行」が好きだという方にその何が好きなのかを訊いてみると、「リラックスできる」「冒険」「新しい出会い」「計画して実行するおもしろさ」など、答えは人によって実にさまざまです。ここが大事なところです。「"自分"は何に惹かれているのか?」に意識を向けてみましょう。書き出していくと、共通するエッセンスのようなものが表れてくるかもしれません。

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私がファカルティを務めているコーチングスクールのCTIでは、目に見える行動「Doing」と同じくらい、その奥にあるその人の気持ちや価値観などの「Being」を大切にしています。このBeingにこそ、その人らしさがあります。

同じことを楽しんでいながらも、何に喜びを感じているかは、人それぞれ。職場でも、家庭でも。いろいろな価値観の人がいる中で、「私にはこれが喜びなんだ」「ここにおもしろ味を感じているんだ」というものを見つけた時、それが、その人のアール・ドゥ・ヴィーヴルになっていくと思うのです。このエッセンスに喜びを感じる。だからこれを大切にしていきたい、こんな風になっていきたい、こんなふうに毎日を過ごしたい、というように。

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アール・ドゥ・ヴィーヴルは育てるもの。

既製服やお惣菜など、いまの世の中は最初から完成した便利なものにあふれています。けれども、自分自身については自分で育てていくしかありません。アール・ドゥ・ヴィーヴルも育てていきましょう。

ここでまず始めてほしいことは、今回見つけた好きなものを実際に楽しむことです。

海が好きなら、行ってきてください。せめて波の音を聴くだけでも。どんな小さなことでもいいので、自分を満たしてあげてみてください。

周囲の人を喜ばせることに一生懸命な方ほど、自分自身を喜ばせることをおろそかにしがちです。それを続けていると、自分が何を欲しているのかわからなくなってきます。私たちがまず満たすべきは自分自身。飛行機の酸素マスクと同じです。自分が満たされていて初めて、人にも優しくなれます。

自分が欲するものをちゃんと聴いてあげると、感性は動き始め、より広く、より繊細に、情報をキャッチするようになります。次第に、いままでと同じ日常を過ごしていても、これまでは視界に入ってこなかったことが見えてくるようになったり、もっと心惹かれるものを見つけるかもしれません。そういう自分でいると、おのずと人やものがやってきてくれる、というようなことも起き始めます。そんな可能性にもぜひ胸を膨らませてみてください。


では、次回までの宿題です。
今回見つけた自分の好きなことをして、自分自身を喜ばせてあげてください。


「そんなことをして何になるの?」という声が聞こえてきたら、「いまはアール・ドゥ・ヴィーヴルを見つける旅の途中だから」と言って、続けましょう。

ではまた1週間後に!

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畑中景子/ Keiko Hatanaka
プロフェッショナルコーチ、CTIジャパン ファカルティ。プロフェッショナルコーチとして、経営者や起業家を中心にリーダーシップの意識の目覚めと可能性の開花を支援しているほか、世界最大の体験型コーチトレーニング及びリーダーシップ開発機関CTI(The Co-Active Training Institute)にて、ファカルティとしてトレーナーを務める。CTI認定CPCC。国際コーチング連盟認定PCC。INSEAD MBA。ポッドキャスト「独立後のリアル」パーソナリティ。神保町PASSAGE「ここみち書店」店主。
@keikotrottolina

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text: Keiko Hatanaka portrait: Maki Matsuda photography: shutterstock

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