マリー・アントワネットが愛したシャンパーニュとは? 『ベルサイユのばら』試写会の様子をお届け!
Culture 2025.01.20
50年以上にわたり、ファンを魅了してやまない不朽の名作『ベルサイユのばら』。フランス革命という激動の時代に翻弄された主人公たちの愛の物語が、完全新作でのアニメとして1月31日から全国ロードショー! フィガロワインクラブでは公開のひと足先にTOHOシネマズ日本橋にて、100名の読者を招待し、主人公のひとり、マリー・アントワネットゆかりのシャンパーニュ「レア」とともに作品を堪能できる試写会を開催。世代を超えてベルばらファンが集った、熱気あふれる試写会の様子を、トークショーでは語り尽くせなかった追加解説とともに振り返る。
将軍家の跡取りで、"息子"として育てられた男装の麗人オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ。隣国オーストリアから嫁いできた気高く優美な王妃マリー・アントワネット。オスカルの従者で幼なじみの平民アンドレ・グランディエ。容姿端麗で知性的なスウェーデンの伯爵ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン。彼らは栄華を誇る18世紀後半のフランス・ベルサイユで出会い、時代に翻弄されながらも、それぞれの運命を美しく生きる......。
この日、来場者に提供したのは、泡立ちも美しいシャンパーニュ「レア」。王妃マリー・アントワネットへのために誕生した由緒のあるブランドだ。
シャンパーニュ「パイパー・エドシック」の創設者フローレンス=ルイ・エドシックが1785年5月6日に王妃に謁見した際、同社の最高キュヴェ「フローレンス・ルイ」を献上したところ、王妃はこれを大変気にいったという故事がある。この史実から200年後、王妃へのオマージュとして誕生したのが「レア」。
シャンパーニュのボトルの金属製のラベルは、王妃のティアラをイメージしたもの。また、レアの風味にはマリー・アントワネットに捧げる秘密も隠されている。注がれたレアを鼻腔に近づけると、熟れたパイナップルのような香りがする。実はマリー・アントワネットは、私室の壁紙にパイナップルをあしらうほど大好物だったのだという。このトロピカルフルーツの香りを、歴代醸造家と現在の醸造責任者の腕により、ブドウの選別と熟成で引き出しているのだ。
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上映前には、ワイン&フードジャーナリストの安齋喜美子が登壇。彼女はシャンパーニュの普及に貢献するフランス発祥の親睦団体「シャンパーニュ騎士団」のシュヴァリエに叙任されている、ワイナリー取材や醸造家インタビューも多いプロフェッショナル。フィガロジャポンのワイン特集「ワインがあれば、人生は楽しい。」では6ページにわたってスパークリングワインの魅力を解説、また自他ともに認める大の『ベルばら』ファンだ。
「私も『ベルサイユのばら』が大好きで、夢中になって漫画を読んでいたひとりなので、本日は"『ベルばら』仲間"の皆様と映画を観られることを大変うれしく思っています」と安齋。本作の舞台となったフランス革命前後のシャンパーニュについて、こう解説する。
「『ベルサイユのばら』の時代は、史実としてフランス宮廷においてワイン文化が花開いた時代でした。これには、泡が立つワインであるシャンパーニュの誕生も大きく関係していたのではないかと私自身は思っています。フランス国王の戴冠式は、初代クロヴィスの時代からシャンパーニュ地方の主都ランスにあるノートルダム大聖堂で執り行われてきました。歴代国王たちはシャンパーニュ地方のお酒で乾杯していたのです。このシャンパーニュ地方のワインの評価は高く、かつては『ヴィユ・ド・ペルドリ(ウズラの目の色)』と呼ばれていました。灰色がかったピンクですね。まだこの頃のシャンパーニュは、泡の立つワインではありませんでした」
「シャンパーニュ地方はフランスにおけるブドウ栽培北限の地なので、冬の寒い時期、瓶詰めしたワインの発酵は一度止まります。春先に暖かくなると、またワインは発酵を始めるのですが、これが後に"泡が立つワイン"であるシャンパーニュになりました。ちなみに、この泡をどうボトルに詰めるか、苦心していたのがオーヴィレール大修道院のドン・ピエール・ペリニヨン修道士を始めとするシャンパーニュの人々でした。ペリニヨン修道士はシャンパーニュのブレンディングを最初に始めた人物で、ワイン造りの名手と評判でした。ちなみに、ドン・ピエール・ペリニヨン修道士のワインは、フランス宮廷に献上されていました。そのリアルな『ドン ペリニヨン』を飲んでいたのがルイ14世です」
劇場版アニメ『ベルサイユのばら』は、マリー・アントワネットがオーストリアから嫁いでくるシーンから始まる。
「今回の映画の中にもルイ16世の戴冠式のシーンがありますが、この戴冠式が行われたのもランスの大聖堂でした。当然、この時は泡の立つシャンパーニュが使用されたと思います。また、映画の冒頭のパーティーのシーンでもシャンパーニュが登場しています。それほど、シャンパーニュは宮廷で愛されていました」
劇場アニメ『ベルサイユのばら』のグラス使いはとてもリアルかつ現代風、と安齋。最近ではクープグラスの人気が再燃、またヨーロッパの上流階級は、現在でも金の縁取りがあるグラスでボルドーやブルゴーニュのワインを飲むことが多いのだとか。
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当日、会場には、熱烈な原作・テレビ放送版の『ベルサイユのばら』ファンであるレアのブランドディレクターであるモード・ラバンより、なんとフランスからビデオメッセージが届いた。彼女は原作に描かれた主人公オスカル、そしてアントワネットの姿に非常に感銘を受けたのだという。
※キャラクターに対する発言はあくまで個人のご見解となります。
昨年末にラバンへのインタビューを行っていた安齋。「私、オスカルが大好きなの」という彼女の発言をきっかけに、インタビューはかなり脱線して、女子トークのようになる場面もあったというほど。パイナップルの香りの話は、インタビューの中で彼女から聞いた逸話だという。
ところで、『ベルサイユのばら』にも登場する歴史上の登場人物たちはどのようなワインを愛していたのだろうか? 安齋によれば、これらのワインは現在でも連綿と受け継がれ、入手することが可能だという。
「まず、マリー・アントワネットの母で、オーストリア女大公のマリア・テレジア。彼女はハンガリー女王でもあり、世界三大甘口ワインのひとつでハンガリーの『トカイ』を好んで飲んでいました。とてもきれいな黄金色が特徴で、マリア・テレジアは、『このワインには金が入っているのではないか』とウィーン大学に調べさせたという文献が残っています。錬金術師が存在していた時代のことですから、歴史として興味深いですね」
「また、ルイ15世の愛妾デュ・バリー夫人が愛飲していたのはボルドーの『シャトー・マルゴー』でした。この頃のボルドーワインは『若返りの薬』とも言われていました。ルイ15世の関心を繋ぎ留めておくためには大切なワインだったのでしょう」
「ちなみに原作で1シーンのみ登場した、後の皇帝ナポレオン・ボナパルトは『モエ・エ・シャンドン』の当主ジャン・レミ・モエと兄弟のように親しかったことから、モエ・エ・シャンドンを愛飲していました。また、シャンパーニュ『ポメリー』の2代前の醸造責任者は、なんとポリニャック夫人の一族の子孫の方でした。フランス革命の後、ポメリー家の令嬢が、ポリニャック夫人の子孫に嫁いでいます」
「レアに話を戻しますと、これは個人的な思いですが、レアのルーツである『フローレンス・ルイ』を、マリー・アントワネットがフェルゼンと、ルイ16世とともに、それぞれ飲んでいてくれたら......などと思ってしまいます」
ちなみにフローレンス=ルイ・エドシックがマリー・アントワネットに謁見した1785年と言えば、原作ファンにはおなじみの「首飾り事件」が起きた年。また、映画では、オスカルが近衛連隊から衛兵隊への異動をマリー・アントワネットに願い出た、絢爛な宮廷全盛時代に暗雲が差し掛かり始めた頃だ。
また、革命前にはルイナール(1729年)、ランソン、ドゥラモット(60年)、ヴーヴ・クリコ(72年、当時は「クリコ」)、ルイ・ロデレール(76年)などが創業しており、これらのシャンパーニュの中にも宮廷で楽しまれていたものがあるだろう、と安齋は推測する。現在でもシャンパーニュの名手として、世界中のファンを魅了してやまないメゾンの数々だ。
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「私は、ワインの記事を書く時、酸味を表現するのに、もっとも美しい酸には『凛とした酸味』という言葉を使います。実は、ワインの表現にはこんな言葉は通常使いません。『しっかりした酸味』とか、『優しい酸味』などですね。『凛とした』という表現は、おそらく『ベルサイユのばら』を読まなければ、使ってはいなかったように思います」と安齋。
「本日いらしている皆さん、華やかで、おきれいで、私には"バラのさだめ"を生きているかのように見えます。『ベルサイユのばら』が皆さんの心の友であるように、本日飲まれたレアは皆さんにとって『私のシャンパーニュ』になったのではと思います。 『ベルサイユのばら』のすごさは、決して色褪せないところにあると思うのですが、それは人はどう生きるのか、信念とは、誇りとは何か......と問いかけてくる物語だからではないかと思っています。私にとっては人生の教科書のような作品です。 生きていれば悲しいことや大変なことはあります。でも『ベルサイユのばら』とレアがあれば大丈夫。きっと、前を向く勇気を与えてくれます」
こうしてトークショーを終え、上映が開始。114分の本編を終えエンドロールが流れると、会場中で涙を流す観客が続出していた。ぜひ劇場で、心震わす物語に身を委ねてみてはいかがだろう?
劇場アニメ『ベルサイユのばら』
●原作/池田理代子
●監督/吉村 愛
●声の出演/沢城みゆき(オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ)、平野 綾(マリー・アントワネット)、 豊永利⾏(アンドレ・グランディエ)、加藤和樹(ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン)ほか
●ナレーション/黒木 瞳
●2025年、日本映画
●114分
●製作/劇場アニメベルサイユのばら製作委員会
●配給/TOHO NEXT、エイベックス・ピクチャーズ
■後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ
●2025年1月31日(金)より全国で公開
©︎池田理代子プロダクション/ベルサイユのばら製作委員会
公式サイト:https://verbara-movie.jp/
公式X:@verbara_movie
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*「フィガロジャポン」2025年2月号より抜粋
photography: Mirei Sakaki