シャネルと女優。
Culture 2025.01.24
アンバサダーの俳優たちはメゾンと映画を結ぶ美しいメディエーター。そのスタイルを通して変わらないシャネルのエレガンスを演じている。
Tilda Swinton
ティルダ・スウィントン
映画とファッションを偏愛する現代のオーランドー。
「かけがえのない存在であるには、人と違っていなければならない」。ティルダ・スウィントンはそういう人だ。180cmの長身にクールな美貌、気品と知性にあふれる佇まいと圧倒的な演技力で唯一無二の存在感を放つ。彼女は誰とも違っている、そのスタイルも生き方も。2013年からアンバサダーとしてシャネルを着こなしてきた彼女が今年のヴェネツィア国際映画祭のレッドカーペットに選んだのは、シフォンのコートとシースルーパンツの軽やかなモダンスタイル。ドレスがお約束のレッドカーペットで彼女はあえて違う選択をした。出演作選びも彼女ならでは。デレク・ジャーマン、ルカ・グァダニーノ、ポン・ジュノなど鬼才監督の名前が並ぶ映画通ならではのラインナップだ。
魔女にもなれば天使にもなる。16世紀の貴公子からディストピアの支配者まで、演じる役に制約はなし。クィアであることを公言し、慣習に囚われない生き方を貫いてきた。そのすべてが彼女のパーソナリティ。スクリーンの中でも外でも超然と美しい。
1960年11月5日、イギリス・ロンドン生まれ。ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーで演劇を学び、86年デレク・ジャーマンの『カラヴァッジオ』で映画デビュー。同監督の『エドワードⅡ』でヴェネツィア国際映画祭女優賞、2007年『フィクサー』でアカデミー賞助演女優賞を受賞。20 年からは英国映画協会とシャネルが共同創設したフィルムメーカー賞の審査委員長を務める。
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Kristen Stewart
クリステン・スチュワート
反逆者のスピリットで、自分らしくシャネルらしく。
「私は自分で引いた道をまっすぐに進む」。型破りといわれるクリステン・スチュワートも自分の道を進んでいるだけ。カンヌ国際映画祭のレッドカーペットでハイヒールを脱いで裸足で階段を駆け上がった彼女。ドレスアップはお手のものだけれど規則としてのエレガンスには従わない。アイコンバッグ「11.12」やアイウエアなど数多くのキャンペーンに登場するメゾンのミューズは、反逆者のアティチュードでシャネルを着る。優雅なタフタのスカートはTシャツでロックテイストをプラス、クラシックなツイードのスーツやドレスは肌見せのエッジを効かせる。突き抜けた着こなしはシャネルを信頼していると語る彼女だからできること。
カール・ラガーフェルド監修のショートフィルムにガブリエル・シャネル役として登場したクリステン。ふたりのスピリットはどこかで繋がっているはずだ。強い意志と自分を貫く勇気。そのスピリットでクリステンはいま、初めての長編映画の製作に挑戦している。
1990年4月9日、アメリカ・ロサンゼルス生まれ。父はプロデューサー、母は脚本家という映画一家に育つ。2002年『パニック・ルーム』で子役としてデビュー、「トワイライト」シリーズのベラ・スワン役で大ブレイクする。『アクトレス~女たちの舞台~』や『スペンサー ダイアナの決意』で、その演技力を高く評価される。バイセクシャルであることを17年に公表。
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Margot Robbie
マーゴット・ロビー
大胆不敵なアリュールの体現者。
「もし翼を持たずに生まれてきたとしたら、その翼が育つのを妨げてはならない」という言葉がマーゴット・ロビーには似合う。故郷を離れてメルボルンへ、そして17歳でアメリカへ、俳優になるという決意をもって、その翼を育ててきた。それは彼女と映画との関係も見てもよくわかる。マーティン・スコセッシやクエンティン・タランティーノ、グレタ・ガーウィグなど大物監督の話題作に出演するだけでなく、トム・アッカリー、ジョージー・マクナマラとともに製作会社を運営し、プロデューサーとして作品を手がけてきた。自分の翼を手に、彼女は大胆にパワフルに行動する。だからボーホーシックなデニムスタイルもクラシックな赤のツイードスーツも彼女が着こなすシャネルは魅惑的。アンバサダーに加えてN°5の新しい顔にもなった彼女は、この香水の女性像をこう語っている。「欲望を持つという概念を称えて、それによってなりたい自分になるべき」。それはきっと彼女自身のこと。
1990年7月2日、オーストラリア生まれ。17歳でアメリカに渡り本格的に女優活動をスタート、2013年『ウルフ・オブ・ウォールストリート』でレオナルド・ディカプリオの相手役を演じてブレイク。映画製作会社ラッキーチャップにて、主演も務めた『アイ・トーニャ 史上最大のスキャンダル』や『バービー』をはじめ、『プロミシング・ヤング・ウーマン』、『Saltburn』など多くの話題作をプロデュースする。
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Penélope Cruz
ペネロペ・クルス
映画と生きる人生が成熟と自立を表現する。
「自然が与えてくれる顔になるのが20歳。人生経験が現れるのが30歳。自分の顔に責任を持つのが50歳」。今年50歳を迎えたペネロペ・クルスはこの言葉そのもの。俳優としてのキャリア、いくつもの恋、幸せな結婚と出産――これまでの人生が刻まれた顔は最高に輝いている。時間が授けてくれる成熟の美しさだ。シャネルと彼女の関係もそのなかに生まれたもの。アンバサダーに就任したのは2018年だが、さらに20年前、カール・ラガーフェルドとの出会いから始まった。彼が亡くなるまで続いたふたりの絆。ラガーフェルドが愛したペネロペはシャネルのフェミニニティの象徴。それはいまも変わらない。メゾンに継承されるクラシックなスーツやドレスを彼女はそのポジティブな女らしさで着こなす。情熱の赤、洗練の黒、無垢な白、どんな色も自分のなかに持っている。あどけなく官能的でエレガントだ。24-25秋冬コレクションで上映された『男と女』にオマージュを捧げたショートフィルムの中の彼女のように。
1974年4月28日、スペイン・マドリード生まれ。92年『ハモンハモン』で映画デビュー、98年ペドロ・アルモドバル監督の『オール・アバウト・マイ・マザー』で注目され、その後も同監督の作品の常連に。ハリウッド進出も果たし、2008年ウディ・アレン監督の『それでも恋するバルセロナ』でアカデミー賞助演女優賞を受賞。俳優のハビエル・バルデムと結婚、ふたりの子どもがいる。
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Marion Cotillard
マリオン・コティヤール
フランス映画界のミューズは、美しき信念のひと。
「美しさは、あなたがあなたらしくいると決めた時に始まる」。マリオン・コティヤールも同じようにインタビューで答えていたことがある。『エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』でアカデミー賞主演女優賞を獲得、クリストファー・ノーランからグザヴィエ・ドラン、レオス・カラックスまで気鋭の監督たちの作品に次々と出演、世界的ミューズとなった現在も、彼女の信念は「自分らしく」だ。俳優として挑戦を続け、これまで以上に環境問題に積極的に取り組み、私生活ではふたりの子どもの母親という自分を大切にしている。そんな彼女が着るシャネルは、生粋のパリジェンヌが子どもの頃から憧れていたという正統派のフレンチシック。ツイード、モノトーン、カメリアなどメゾンのコードをさりげなく肩の力を抜いて着こなす。ドレススタイルも気取らない。メゾンのアンバサダーになってもありのままの自分で。彼女の信念が、ただ美しいだけではないインディペンデントな存在感を漂わせている。
1975年9月30日、フランス・パリ生まれ。16歳で映画デビュー、2003年ティム・バートン監督の『ビッグ・フィッシュ』でハリウッド進出を果たす。『エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』の演技でアカデミー賞主演女優賞ほか、数々の賞を受賞。インディペンデント系からハリウッドの大作まで出演作品は多彩。パートナーである俳優兼映画監督のギョーム・カネとの間にふたりの子どもがいる。
参考文献:『シャネル 20世紀のスタイル』(秦早穂子著 文化出版局刊)、『シャネル その言葉と仕事の秘密』(山田登世子著 ちくま文庫)、『ココ・シャネルの言葉』(山口路子著 だいわ文庫)
*「フィガロジャポン」2025年1月号より抜粋
text: Kaori Tsukamoto