マダムkaoriの23SSパリコレ日記 パリコレ日記、美しく語りかけてくるファッションとは?
Fashion 2022.10.16
元「フィガロジャポン」の編集長でもあり現在ファッションジャーナリストとして活躍中のマダムKaoriこと塚本香さん。
2年半ぶりにパリコレ参戦中6日目は、日本ブランドの刺激的なランウェイと、パリコレランチ事情のお話です。
10月1日 ギャルソン・ファミリーデー!
今の世界を 憂い 嘆く
そしてそれに寄り添いたい 気持ち
今回のコレクション
突然ですが、6日目のパリコレ日記は、今日いちばん心に響いた言葉から始めます。コム デ ギャルソンの川久保玲さんが記した2023年春夏コレクションのテーマです。世界中が待ち望んでいたパリコレへの復活。2年半ぶりのランウェイショーで発表されたのは18ルックのみでしたが、そのどれもが力強く、優しく、美しく語りかけてくるよう。
体を包み込むコクーンやバルーンシルエットのドレスやスカート、顔まですっぽりと覆い隠す繭のようなケープ、ラッカー加工のレースや花のカットアウトを配したモノトーンでスタートし、黒地にピンクや赤が艶やかな花柄でフィナーレを迎える。
印象的だったヘッドピースは、セットデザイナーでアーティストのGary Card(ゲイリー・カード)とファッションデザイナーのValeriane Venance (ヴァレリアンヌ・ヴナンス)が手がけたもの。でも、こんな説明すらいらないかもしれません。コム デ ギャルソンの服に解説は不要、ただ見て感じればいい。川久保玲さんのクリエイションに心が反応したら、それがなにを訴えかけようとしているのか、自分なりに探すだけです。そういうファッションとの向き合い方もあります。川久保さんの「気持ち」を受け止めて、つないでいける自分でありたい、そんなことを思わせてくれるコレクションでした。
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いきなりコム デ ギャルソンからスタートしてしまいましたが、今日はそもそもギャルソンだけでなくジュンヤ ワタナベ、ノワール ケイ ニノミヤのショーもあるギャルソン・ファミリーデー。スタッフは3つのブランド掛け持ちで大変だと思うのですが、取材する私たちにとっては刺激的な一日。スケジュールでは朝イチがジュンヤ、お昼にノワール、ラストがコム デ ギャルソンですが、時間を逆回りにして続けます。
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17世紀に建てられたオラトワール・デュ・ルーヴル教会が会場のノワール ケイ ニノミヤは、プラスチックのピースをつなぎ合わせた大きなハート型のドレスでスタート。その後もオーガンジーのループを集めたケープ、メタルボールをあしらったワイヤーで成形したドレス、小さなフリルが密集したようなボレロ、そしてラストは真っ白なフェザーが揺れるワイヤードレスと、二宮啓さんらしい縫製しないで作るドラマティックなフォルムのアイテムが次々に登場。グレンチェックやハウンドトゥースのジャケットやスタンダードな白シャツとのコーディネートがどことなく英国の香りを漂わせています。どのルックも頭には王冠のようなヘッドピースをつけ、足元はハンターのブーツ。ヘッドピースはすべて陶芸家の桑田卓郎さんの作品とのこと。今季のテーマは”Mystic Force”(不思議な力)。バックステージで二宮さんはこの言葉に込めた思いを「奇妙なもの、不思議なものを見たときの高揚感を表現したかった」と語ってくれました。子どもの頃のような自由な感覚で作ったという今回のコレクション。風変わりでいい、型破りでいい。そこにあるフォースを感じて、この暗闇から出ていこうというメッセージのように思えます。確かにハンターのブーツならどんな道でも前へ前へと歩いて行けそうです。
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続いて、ジュンヤ ワタナベです。「80年代ロンドンのニューロマンティックの若者が現代にきて、ジュンヤ ワタナベの服を着たら」というテーマどおり、ランウェイに登場したのは当時を彷彿とさせる派手なヘアメイクのモデルたち。ふたり加わっていた男性モデルはまさしくあの頃のミュージシャンそのものでした。デュランデュランなどニューロマンティックの代表曲に合わせてランウェイを闊歩する姿は男性も女性もただただクールでかっこいい。
彼らが着るのは、スクエアに張り出したワイドショルダーから布が流れるようなケープドレス、はたまたパールやプリーツをあしらったロングシャツ、ボトムスはスパンコールかネオンカラーのスパッツを合わせて。日本のモーターサイクルギアブランド、KOMINEとコラボレーション、ジュンヤ流に再構築したというグラフィックなブルゾンやコートドレスも存在感を放って。
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パワフルだった3つのランウェイから本日のもうひとつのハイライト、エルメスに入る前に余談タイム。パリコレ期間中のランチについて聞かれることが多いので、それについてちょっとお話しします。といっても、こと私に関してはおしゃれなランチを食べているわけではないので、あまり期待しないでくださいね。
さて、ランチをいつどこで食べるかはその日のスケジュール次第。ファッションウィークの正式スケジュールでは1時間ごとに、たまに1時間半の間をあけてショーの予定が組まれています。全部のショーに出席するわけではないので、その日のスケジュールを見て、このショーの後にランチと想定はしておきます。しかし、あくまで希望的観測なので、結局、ショーのスタートが遅れて時間がなくなっちゃったなんてことはしょっちゅう。移動の途中でどこかに立ち寄ってというのも時間が読めないので、次のショー会場に移動してその近くのカフェかブラッスリーでランチという連日。この行動パターンはパリコレを取材中の多くの人に当てはまるので、お昼どきのショー会場近くのカフェはどこも大混雑、オーダー取りにこない、頼んだ料理が出てこない、お会計頼んだのにまだ~? とイライラしながらのランチとなってしまうことも。どんなメニューを食べてるかというと決してヘルシーとはいえないものばかり。せめてサラダにすればいいのはわかっているのですが、やっぱり温かいものが食べたくなってしまうので。今回の期間中のランチメニューをあらためて振り返ると、ホント、身体に悪そうですね。
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こうした会場近くのカフェでなく、途中でさっと立ち寄ってランチというのでしばしば行っていたのはサントノーレ通りのチャイニーズレストラン「福禄寿酒家/Auberge des Toris Bonheurs」だったのですが、数年前に閉店。どんなに混んでいても料理がさっと出てくるのが魅力でした。そしてもうひとつがマレ地区にある市場「Marche des Enfants Rouges/マルシェ・デ・ザンファン・ルージュ」の和食の屋台「TAEKO」。できたばかりの頃、「フィガロジャポン」の本誌でも紹介したことがあります。当時デザイナーのオリヴィエ・ティスケンスが毎日のように通っているという評判でした。イートインもできるのですが、時間がないときはテイクアウトして移動の車の中で食べるとことも。メインのおかずに副菜が3つ付いて、白いご飯という普通のお弁当ですが、注文を受けてから作るので、ちょっと待っても大丈夫なスケジュールならできたてのホカホカを食べられるのが忙しいパリコレ中はなにより嬉しい。お弁当はさておいて、ここは400年以上の歴史を持つパリで最古のマルシェなのでもし行ったことがなければぜひ。さまざまな国の料理が味わえる屋台に、八百屋、チーズ屋、ワイン屋などが並んでいて楽しいです。
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では、お腹もいっぱいになったところで閑話休題、本日最後のメインイベント、エルメスのランウェイショーに戻りましょう。
大きな砂丘がセットされたエルメスのショー会場。23年春夏のテーマ「砂漠でのレイブ」に合わせて、ファッショングランピングが始まります。朝から昼にかけては、オークル、ブリック、エボニーなど砂と同化するようなカラートーンでアクティブに。レザーのシャツやショートパンツ、タンクドレス、シルクジャージのジャンプスーツなどシンプルシックなアイテムに、リングやロープといったアドアウトドアの機能的ディテールがアクセントになっている。さすがエルメスと思わせる遠目にもそのしなやかさがわかるフード付きケープは超薄手のカーフスキンに撥水加工を施したものとか。メゾンの真髄を感じさせる1枚です。朝焼け、夕焼けの時間はロマンティックなローズオレンジが主役。砂漠の風に揺れるジャージードレスのバリエーションが続きます。そして、夜の帳が下りるといよいよレイブパーティもクライマックス。”La Rêve de Julia”と名付けられたアーカイブのスカーフの柄を再解釈したグラフィックなプリントや黒のパンチングレザーのドレスで砂漠のナイトアウト。月の光の下で、思いっきり盛り上がりましょう。アーティスティックディレクター、ナデージュ・ヴァンへ=シビュルスキーが案内してくれたのはこんなファッションの魔法にかけられて過ごす砂漠での1日。マジカルだったのはウエアだけでなく、バッグも同じくらいマジカルだったのですが、今日はもうテントでひと休みしたい気分なので、ここで終了。明日も続くパリコレはエルメスのRe-seeから始まるので、そこでレポートします。
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Vol1.ファッションジャーナリスト塚本香の23SSパリコレ日記スタート!
Vol2.Blackpinkのジスに遭遇! 感激のパリコレ2日目へ。
Vol3.ドリス ヴァン ノッテンに胸を熱くしたパリコレ3日目。
Vol4.4日目はクロエのショーからスキャパレリの展覧会まで。
Vol5.折り返しの5日目は待望のロエベ、おいしいディナーも。
ファッションジャーナリスト/エディトリアルディレクター。
1991年より「フィガロジャポン」の編集に携わる。「ヴォーグ ジャパン」のファッションディレクターを経て、2003年「フィガロジャポン」編集長に就任。その後、「エル・ジャポン」編集長、「ハーパーズ バザー」編集長とインターナショナルなファッション誌の編集長を経験し、今年からフリーランスとして活動をスタート。このコロナ禍までは毎シーズン、パリ、ミラノ、ニューヨークの海外コレクションに参加、コレクション取材歴は25年以上になる。
Instagram:@kaorinokarami
text & photography: Kaori Tsukamoto