マダムKaoriの2023-24AWパリコレ日記 パリコレ最終日はシャネルとミュウミュウのショーへ。

Fashion 2023.04.24

「フィガロジャポン」をはじめ、数々のモード誌で編集長を歴任されたファッションジャーナリストのマダムKaoriこと塚本香さんが、2023-24秋冬ファッションウィークに参戦するため今季もパリへ。最終日、光の速さですぎた5日間を振り返る。

INDEX
>>小松菜奈さんが大活躍、シャネルの23-24秋冬。
>>ディテールに感激、ルイ・ヴィトンのRe-see。
>>期待を上回る、ミュウ ミュウのランウェイ。
>>パリコレの締めくくりは、ガリエラ・モード美術館へ。

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3月7日 もっとパリにいたい。

いよいよパリコレ最終日。いつもだったらさすがに里心がついて明日は日本に帰れると思うと嬉しくなるのですが、今回はもっとパリにいたい気分。たった5日のコレクション取材はやっぱり物足りなかった、と東京で遅れ遅れの日記を書いているいまもそう思います。ショーは感動・感激の連続だったけれど、寒すぎてせっかくの左岸を散策する時間がなかったのも名残惜しい理由のひとつ。少しでも街の空気を吸おうと、ホテル近くのメゾンミュロまで朝ごはんを買いに出たのですが。気のせいか、いつもより通りを行き交う人が少ないような。そういえば、今日は大々的なストライキが予定されている日。道が激混みと聞いていたけれど、予想と違って街は逆に閑散としています。

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車もあるし移動は心配なさそう。カフェクレームとクロワッサン、パン・オ・レザンの朝食を終えて、そして小腹が空いたときの定番おやつも発見したのでそれを抱えて、いよいよラストデーに出発です。ちなみにおやつに買ったのはパリのブーランジェリーでしばしば目にするシューケット。シュー生地をひと口大に焼き上げて、その上にパールシュガーをちりばめただけのシンプルな焼き菓子です。クリームなしのほんのり甘いシュークリームの皮だけと思ってもらえれば。ちょっとお腹が空いたとき、少しだけ糖分を補充したいときにぴったりの味。おすすめです。

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ホテルの朝食を食べない日はこれが定番。クロワッサンとパン・オ・レザン。

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シューケットはグラムでも個数でも買えます。見た目より甘くない。

小松菜奈さんが大活躍、シャネルのランウェイショー。

さて、まずはシャネルから。会場は先シーズンと同じ、左岸のGrand Palais Éphémère(グラン・パレ・エフェメール)。ストライキの影響もなく、ショー開始の45分前には到着してしまいました。でも、あたりは既にすごい人だかり。セレブ目当てのファンの数も半端ない。ストリートスナップ隊も多すぎて歩けない。エッフェル塔を右に見ながら、ともかく会場の中へ。

一歩足を踏み入れると、目の前は一面、巨大なスクリーン。そこにメリーゴーランドの木馬に乗って海から小松菜奈さんが現れます。アパルトマンのソファで足を投げ出す菜奈さんもいれば、顔のアップ、目や鼻のクローズアップというシュールなシーンも差し込まれて。ショー前のティザー動画ですが、前回のクリステン・スチュワートに代わって、この秋冬は小松菜奈さんが主役。すべてセットを組んで撮影したというモノクロの映像は、ティザーというより一編のショートムービーのよう。イネス&ヴィノードによるこのフィルムはウィリアム・クラインの映画『ポリー・マグー お前は誰だ』をインスピレーション源に製作されたとか。菜奈さんが演じるのは彼らいわく「パリに住む、軽快で自由な精神を持った日本人女性」。それはアーティスティック ディレクター、ヴィルジニー・ヴィアールが考える今シーズンの女性像でもあるのでしょう。なにより、自由な精神はガブリエル・シャネルから引き継がれるメゾンの規範ともいうべきもの。それを体現している菜奈さんはまさに今シーズンのミューズですね。

この動画でスポットをあてているもうひとつのコードがカメリア。生涯、自分の好きな花を明かすことがなかったと言われているガブリエル・シャネルですが、1924年に初めて彼女がシフォンドレスにこの花をあしらってから、カメリアはシャネルを象徴するコードのひとつになりました。菜奈さんが動画のなかで着ている秋冬コレクションの代表的ルックにもさまざまな手法でカメリアが描かれています。

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手前の人と比較してもその大きさがわかります。ワイドスクリーンの迫力。

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モノクロームのシュールの映像。60年代風のヘアメイクもとても似合っています。

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そう、今回のテーマはカメリア。ランウェイとなるホールに移動すると、そこにも巨大なカメリアのオブジェ、シートには本物のカメリアの花、そしてフロントローには小松菜奈さんとイネスの姿が。夫の菅田将暉さんも隣に座ってます。会場が暗転すると、ランウェイ中央のカメリアにまたもや小松菜奈さんの姿が映し出され、いよいよショーの開幕です。

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コレクションのイメージビジュアルとともに本物のカメリアの花が全員のシートに。

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さっきまで真っ白だったランウェイのカメリアに小松菜奈さんの映像が現れて、ショー開始。

ファーストルックは、カメリアを織り込んだツイードのモノトーンのロングコート。続く黒のレザーのトレンチコートはカメリアのエンブロイダリーで襟を埋めつくし、黒のツイードスーツには大小の白のカメリアを全面にちらして、とあらゆるルックにカメリアが咲き誇ります。プリントもあればニットの編み柄もある、ツイードのスーツの裏地やボタンも。白と黒の2色で登場するレースタイツもカメリア柄とさまざまに展開されます。共通点があるとしたら、どのルックのカメリアも優しく力強く、フレッシュということ。ヴィルジニー・ヴィアールはメゾンの永遠のコードを再解釈、現代的リアリティを加えてそのアリュールを刷新している。ジャケットに合わせた軽快なバミューダショーツ、アシンメトリーなシルエットのツイードジャケット、ニットに重ねたプリントのコンビネゾンやロングドレスなど、彼女らしいボヘミアンテイストがこのコードをモダンに変換。シンプルすぎるくらいシンプルなテーマをヴィアールは幅広く奥深く表現していったのです。30年以上に渡り亡きカール・ラガーフェルドとともにメゾンを支え、シャネルの遺産をしっかりと継承してきた彼女だからこそできること。彼女の手腕でより自由にロマンティックになったカメリアは、時代を超えて進化していくシャネルのヴィジョン。誰の心にも咲く、永遠のファッションの花なのです。

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カメリアを織り込んだツイードのコートというシャネルらしさ満点のルックでショーの幕開け。 photo:Imaxtree

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エナメルのセットアップは60年代テイスト。イメージフィルムの世界とも通じる。 photo:Imaxtree

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カメリアで飾られたツイードスーツは、バミューダパンツが新鮮。 photo:Imaxtree

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モノトーンに彩られたコレクションの差し色として登場したフレッシュなピンク。 photo:Imaxtree

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アシンメトリーなヘムが軽快に揺れる。ジャケットの裏地もカメリア柄です。 photo:Imaxtree

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どこにカメリアが? と思ったらジャケットのボタン。インのTシャツにもカメリアをプリント。 photo:Imaxtree

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ニットのセットアップにプリントドレスを重ねたボヘミアン・シック。 photo:Imaxtree

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モデルたちのウォーキングの間ずっと小松菜奈さんが映し出されていたカメリアのオブジェ。その白い花がピンクから赤、オレンジと艶やかに染められてショーはフィナーレを迎えます。「赤、それは命の色、血の色」というガブリエル・シャネルの言葉を思い出しますね。ハイライトはランウェイを歩いてきたヴィアールがフロントローに座るイネスと小松菜奈さんの元に歩み寄り、ハグをしたこと。長年ショーを取材してきましたが、こんな光景は滅多にない! それだけあのフィルムが彼女にとってもエモーショナルなものだったのでしょう。なんだかこちらまで誇らしい気分に。ショー後もたくさんの称賛の声をかけられていた菜奈さん、彼女だけでなくその隣の菅田さんも本当に幸せそうでした。

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映像もルックも黒と白のエレガンス。このコレクションの世界観を語る。

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一転、フィナーレを祝福するようにカメリアが赤やピンクに染まって。photo:©︎Chanel

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ヴィルジニー・ヴィアールがフィルムを撮影したイネス、そして小松菜奈さんにハグ。

>>シャネル、コレクション全ルックへ

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ディテールに感激、ルイ・ヴィトンのRe-see。

最終日ラストのミュウミュウの前に、オルセー美術館を再訪、ルイ•ヴィトンのRe-seeを今度は携帯電話とともに取材。昨日撮影できなかった分を取り戻さなくちゃ。昨日のランウェイのセットを残したままの「Le Restaurant d’Orsay」に発表されたばかりのルックや小物が展示されています。間近で見ると、石畳やマンホールが精巧に再現されていることがよくわかる。ランウェイではシルエットに目を奪われていたルックはどれもアーティスティック・ディレクター ニコラ・ジェスキエールらしい最新のファブリックが使われ、ディテールにはアトリエの細かい手仕事が施されている。ウールのように見えたコートが実はレザーだったり、ストライプはプリントではなくステッチだったり、という驚きの連続です。アンバサダーのチョン・ホヨンがフィナーレに着たドレスの花はすべて刺繍とのこと。ジェスキエールのフレンチスタイルを完成させるのは、そうしたメゾンの職人技ということを実感します。小物はどれもユーモラスでシックで、パリ好きにはたまらないものばかり。黒のパンプスに白のロゴ入りソックスを合わせたトロンプルイユのブーツはショートとロングの2タイプ、石畳を思わせる菱形模様のキルティングバッグ、そしてそして、なんといってもパリの通り名を表示するプレートを模したバッグやスモールレザーグッズ。緑のトリミングに紺、文字は白という組み合わせもそのまま。これ、絶対に欲しい! です。完全に個人目線でのレポートですが、ルイ・ヴィトンらしいプレイフルなフレンチ・スタイル、伝わってますよね。ランウェイで目立っていたホルンやクラリネットの管楽器モチーフのブローチもディテールまで細密に表現されてました。ペンダントやリングもあります。

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上左:パリの石畳の通りという昨日のランウェイに、発表されたばかりのルックが置かれて。 上右:パリの石畳を思わせる菱形模様キルティングのチェーンバッグ。ランウェイにはトリコロールカラーが登場。 左:緑の縁に紺、文字は白。パリの街角にある通り名を表示するプレートがバッグになりました。 右:誇張されたフォルムがモダンな印象を漂わせるドレス。左の花モチーフがフィナーレに登場した1着。

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上左:黒のパンプスに白ソックスというフレンチな足元をなんとブーツに。生足の肌色もバリエあり。 上右:通り名プレートはカードケースやネームタグなどのスモールレザーグッズにもアレンジ。 左:さらにエッフェル塔のチャームも加わってキーチェーンに。パリのスーベニア風ですが、でも可愛い。 右:マフラーをブローチで留めてという懐かしいコーディネート。秋冬小物ではクラシックなブローチに注目しています。

>>ルイ・ヴィトン、コレクション全ルックへ

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期待を上回る、ミュウミュウのランウェイ。

さあ、いよいよ23年秋冬のフィナーレを飾るミュウミュウです。会場はいつものイエナ宮。午前中の曇り空も晴れて、心地いい太陽の光が感じられる。それでも気温の低い、まだ冬のパリ。でも、次々に到着するセレブリティもインフルエンサーもみんなミュウ ミュウの春夏のお腹見せ、肌見せルックに身を包んで。包んでではなく、出して、ですが。コートなんて誰ひとり着ていません。先シーズンのショーノートで「ファッションは感情に影響を与え、気分を高揚させるもの」と語っていたミウッチャ・プラダ。目の前のミュウミュウ・ガールたちはそのファッションの高揚感を纏っています。これから始まるショーもさらにその先に連れていってくれるはず。

会場のなかにはいくつものスクリーンが設置され、韓国人アーティスト、ジョン・グムヒョンによる映像作品が流れています。人の手がジャケットやシャツに触れる動作をスローモーションで繰り返す動画は自分の身体と服の関係を考察するものとか。服の感触が生で伝わってくるような画面に思わず見入ってしまいます。この作品に象徴されるように、人の注意を惹きつけ、意識して見ることを促す「WAYS OF LOOKING」が今シーズンのテーマ。ランウェイが一段高くなっているのも服を観察しやすいようにという意図。ショーノートに書かれている「見るということは、思考の窓のようなもの」というフレーズがなにより今回のキーとなるのでしょう。

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ランウェイの両サイドのスクリーンに韓国人アーティスト、ジョン・グムヒョンの映像作品が写し出されて。

いよいよショーが始まると、ファーストルックから見るという行為に没入します、いやせざるをえない、もう目が離せない。オープニングに登場したのは俳優のミア・ゴス。グレーのコンパクトなツインニットにモノトーンの水玉のタイトスカートというどちらもベーシックな色、ベーシックなデザインのアイテム。ニットのインに白のTシャツを合わせているのも普通だし、足元はキトゥンヒールのスリングバックシューズ、ボストンバッグを肘にかけてとクラシカルといっていいコーディネート。でも、スカートからは黒のパンティストッキングのウエストあたりがまる見え、そしてニットはそのパンストにイン。本来なら隠すものをわざと見せる、それもパンストは、お腹よりショーツよりさらにインパクトがある。後ろでまとめた品のいいヘアも髪の毛が部分的に逆立って、メッシーに乱れている。ちょっとありえないスタイルなのにありえないほど可愛い! 期待どおりの先シーズンの先をいく高揚感です。

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ツインニットというベーシックアイテムの最先端コーディネート。ニットもスカートもバッグもロゴ入り。 photo:Imaxtree

「より綿密な観察を必要とし探究心や好奇心を呼び起こす」とミウッチャがいうルックはその後も続きます。アイテムもカラートーンも徹底してオーセンティック、でも素材を変え、ボリュームを変え、そしてインとアウトのルールを変えて提案されるミュウミュウ流のチャーミングなレイヤードばかりです。 基本はクラシックながら、重ね方、はずし方が新しい。コーデュロイやボンディングのフーディはさらにピーコートを重ねて、でもボトムはショーツ見せのニットブルマーという斬新なスタイリング。Tシャツ×ニット×フーディ×コートというさらなる重ね技もあれば、微妙な色のトーンのレザージャケットをダブルで着るレイヤリングもあり。ボトムは透けるスカート、レギンス、そしてなによりもショーツ見せブルマーがパンストと並ぶ今シーズンの主役といえそう。ときおり登場するべっこう風メガネもギークなムードを醸し出している。立体的な花のアップリケを施した透けるツインニットとショーツにウィングチップシューズ、メガネをかけたルックはこれぞミュウミュウ・ガール!です。

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スカートもパンツもいらない。コーデュロイのブルマーとフーディーのセットアップ。ブルマーから透けるショーツを見せて。 photo:Imaxtree

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リアルに着るなら、このコーディネート。フーディーとレギンスのスポーツテイストをアップデート。 photo:Imaxtree

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クラシックなアンサンブルをローゲージのメランジニットでアップデート。張りのあるフォルムが新鮮。 photo:Imaxtree

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2枚重ねたレザージャケットのインは? とじっと見ると、透けるツインニットに透けるスカート、その下はショーツ付きブルマーのようですが。 photo:Imaxtree

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スリングバッグからメンズライクなウィングチップまで足元も正統派シューズのオンパレード。 photo:Imaxtree

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ツインニットとツイードスカートでちょっとセクレタリー風。でも、やっぱりパンストを見せて。 photo:Imaxtree

ラストはドラマ『ザ・クラウン』でダイアナ元妃を演じたエマ・コリンが着るタートルネックとスパンコールのショーツのルック。生足ではなくストッキングをはいて、ピープトゥのパンプスを合わせているところがポイント。最後まで観察しっぱなしのショー。バックステージでミウッチャ・プラダはこう語ったそうです。「ファッションを意味のない場所にはしておけない。興奮と色気は必要だけれど、なにより考えるための服でなければ。私たちは新しくスタートするために服を着るのです」。見ること考えることを促す服を、同時に着ることを促す服にしてしまうのが、彼女の感性。どれも欲しくなるものばかり。今回のスタイルもまた巷に増殖していくに違いありません。次のコレクションにはパンスト見せやスカートなしのブルマー姿のミュウミュウ・ガールが大挙して現れるはずです。

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エマ・コリンのラストルックは今シーズンを象徴するエッセンスだけを纏って。バッグの肘掛けも懐かしくて新しい。 photo:Imaxtree

>>ミュウミュウ、コレクション全ルックへ

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パリコレの締めくくりは、ガリエラ・モード美術館へ。

これで5日間のショー取材はすべて終わりました〜。遅れ遅れの日記でしたが、パリの空気感、ファッションの高揚感が少しでも伝わっていますように。
さて、今回のパリコレの締めくくりは、時間をさらに逆回転、ファッションのタイムトリップへ。ガリエラ・モード美術館で始まったばかりの「1997 Fashion Big Bang」展についてのショートレポートをお届けします。

この展覧会は、そのタイトルどおり、1997年がファッション史におけるビッグバン、21世紀へと向かう出発点と定義づけ、その年に起こったファッションムーブメントを追体験させてくれるもの。時代を変えるパワーとなったショーのルックやイメージビジュアル、その後の先駆けとなったファッションイベントの記録などが、時系列で展示されています。

ポスターにもなっているコム デ ギャルソンの「Body Meets Dress, Dress Meets Body」コレクション、マルタン・マルジェラの「ストックマン」コレクション、ファッションの美学を覆す2つの97春夏コレクションは1日違いで発表されたそうです。ジョン・ガリアーノによるディオールの初オートクチュール、アレキサンダー・マックイーンによるジバンシィの初オートクチュール、そしてジャン=ポール・ゴルチエのオートクチュール参加も97年1月、この年はオートクチュール新時代の到来と言われています。パリのコンセプトショップ、コレットのオープン。7月にジャンニ・ヴェルサーチが8月にダイアナ元妃がこの世を去るという痛ましい事件がともに起こった年でもあります。ステラ・マッカートニーはクロエの、ニコラ・ジェスキーエルはバレンシアガの、エディ・スリマンはイヴ・サンローラン・オムのクリエイティブ・ディレクターにそれぞれ就任したのもこの97年。

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1996年10月に発表されたコムデギャルソンの97春夏コレクションは「Body Meets Dress, Dress Meets Body」がテーマ。通称”こぶドレス”。

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マルタン・マルジェラの「Stockman」コレクションより。Stockmanはパリにある有名なトルソーメーカーの名前。

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前年にディオールのクリエイティブディレクターに就任したジョン・ガリアーノの初のオートクチュールコレクション。

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アレキサンダー・マックイーンがガリアーノの後継者としてジバンシィに。97年にオートクチュールでデビューを飾る。

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エディ・スリマンによるサンローラン リヴ・ゴーシュ オムの98年春夏のキャンペーンビジュアル。彼の初ショーも97年だった。

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95年に自らのメンズブランドを設立したラフ・シモンズは97年に初めてパリでショーを開催。

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ニコラ・ジェスキエールは97年10月バレンシアガのクリエイティブ・ディレクターとして初コレクションを発表。

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川久保玲さんがデザインしたマース・カニングハム舞踊団のダンス「Scenario」の衣装。初演は97年10月だった。

これは展示内容のほんの一部ですが、それだけでこの年がいかにファッション史において特別な年だったのかがわかります。いくつものモーメントが連鎖して、そこから爆発するようなファッションのエネルギーが生まれたことをこの展覧会は教えてくれます。それもただの回顧展ではありません。その時代に生まれたクリエイションがいまのファッションにもしっかりと引き継がれていることを示唆しています。服と身体の関係性しかり、解体と再構築しかり、そしてその頃生まれた才能が変わらず活躍しているということも。1997年のファッションが過去のものではなく、いまの始まりだったことに気づかせてくれる。見応えのある展覧会なので、もしパリに行く機会があればぜひ見てください。

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ポスターにはこの年を象徴するようなコムデギャルソンの”こぶドレス”のビジュアルが。

東京で書き続けたパリコレ日記もようやく終了。でも、レポートは終わってもここからが新しい始まりでもあります。多くのデザイナーがそれぞれの服作りの原点に戻り、ファッションの本質を追求した23-24秋冬コレクション。たくさんの美しい服に出合いました。既成概念を破壊しつつ、なおエレガンスを漂わせるスタイル、厳格なコードの先をいく多様性の表現など、その服は前へ前へと私たちを導いてくれるもの。自分のスターティングポイントからあらためて前へ進まなくては、と思わせてくれます。その気持ちを皆さまとも共有できることを願って。Merci mille fois et J’espère à bientôt.

2023-24FWコレクション

Kaori Tsukamoto
ファッションジャーナリスト/エディトリアルディレクター。
1991年より「フィガロジャポン」の編集に携わる。「ヴォーグ ジャパン」のファッションディレクターを経て、2003年「フィガロジャポン」編集長に就任。その後、「エル・ジャポン」編集長、「ハーパーズ バザー」編集長とインターナショナルなファッション誌の編集長を経験し、2022年からフリーランスとして活動をスタート。コロナ禍までは毎シーズン、パリ、ミラノ、ニューヨークの海外コレクションに参加、コレクション取材歴は25年以上になる。
Instagram:@kaorinokarami

 

text & photography: Kaori Tsukamoto

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