ワインテイスティングダイアリー by フィガロワインクラブ副部長 2025年ボジョレー・ヌーヴォー解禁! 「ジューシーな余韻」を引き立てる、最高のペアリングは?
Gourmet 2025.11.21
今日のワイン選びがちょっと楽しくなる連載「ワインテイスティングダイアリー」。フィガロワインクラブ副部長・カナイが日々、ワインを求めて畑へ、ワイナリーへ、地下倉庫へ、レストランへ、セミナーへ......。美しいワインがどのように育まれるかの物語を、読者の皆さまにお届けします。
今回は11月20日に解禁になったボジョレー・ヌーヴォー、2025年のヴィンテージに合う料理は? そしてボジョレーという産地の"いま"について。
ボジョレー・ヌーヴォーが日本で大流行したワケ。
「ボジョレー・ヌーヴォー解禁です!」と朝のニュースでもてはやされ、毎年更新されるキャッチコピーが話題に。2025年も11月20日、11月の第三木曜日に解禁となり、スーパーマーケットやワインショップの棚を賑わせている。
ボジョレーは、高級ワインの代名詞であるブルゴーニュの南に位置する南北80キロほどの地域を指す。この地域で採れるガメイという品種は冷涼地でも育ちやすく、早く熟すという特徴もあり、その年に収穫できたブドウを使って仕込んだ新酒として楽しまれるようになったのが「ボジョレー・ヌーヴォー」というワイン。醸造後に熟成させるのが一般的なほかのワインと違って、収穫を祝う祝祭感のあふれる飲み物なのだ。
グローバルに輸出されるようになると、品質の低下を避け、また輸送がストップしないように、と全世界での販売解禁日を11月の第三木曜日の0時、と定めたのが1985年のこと。奇しくも日本への空輸が本格化されたのと同じ頃だった。極東である日本はワイン消費圏の中でいちばん早く11月の第三木曜日の0時を迎える。
バブル全盛期、飛行機で届けられるワインはインパクトが大きく、年々その入荷数は増えていった。バブル崩壊で一時下火になるも、96年に「ポリフェノールが動脈硬化に有効」という研究結果による赤ワインブームに乗り再浮上。2000年代前半はボジョレー・ヌーヴォーの出荷数の半分が日本に届いていたというのだから、そのブームは計り知れない。
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2025年のボジョレー・ヌーヴォーの味わいと、ペアリングしたい食事は?
2025年11月20日、ボジョレー・ヌーヴォーの解禁に合わせてボジョレーワイン委員会の副会長セバスチャン・カルギュルと、マネージングディレクターのオリヴィエ・バドゥローが来日。2025年のボジョレー・ヌーヴォーについて、バドゥローはこう語る。
「『5』の着く年は偉大なヴィンテージと呼ばれる、という定説がボジョレーにはあり、2025年も天候に恵まれ、ブドウ栽培には理想的な年となりました。温かい春、雨の多い6月、南部では雹害もありましたが7月には気温が上がりブドウはしっかりと成熟。結果、ブドウの生産量自体は前年よりも20%少なくなったのですが、フレッシュで滑らかな質感を持つにいたったのです」
テイスティングコメントを担当したのはソムリエ/ワインテイスターの大越基裕。国際ワイン品評会IWCでもジャッジを務め、飛行機のワインリストやレストラン、ワインショップのコンサルティングも手がける第一人者だ。
「24年は比較的冷涼な年だったので『フレッシュ&フルーティ』という評価でしたが、今年は暑さの影響が顕著。ただ、暑さも年によって性質が異なります。真夏日が続く夏、乾燥した8月を超えつつ、ブドウは小粒で酸が高い状態で収穫ができた。ラズベリーのようなニュアンス、チャーミングでキレイな味わいがガメイの特徴ですが、今年はより果実感と酸、ジューシーな余韻が全般的に見られます。柔らかく、しなやかで、ほろ苦い余韻があるタイプも」
口に含めば、ラズベリーからブラックベリーといった、軽やかながらも酸味のしっかりとした赤い果実を思わせる味わいが広がる。従来、ボジョレー・ヌーヴォーに顕著だったバナナのような特異な香りも、醸造方法によってはかなり抑えられるようになってきている。
では、家庭で味わうときのペアリングはどのようなメニューが良いのだろうか? 一般的に軽やかなボジョレー・ヌーヴォーにはあまり脂分のあるものは合わない、というのが鉄則だが、今年の暑さを感じるジューシーさには「シャルキュトリーとの相性が抜群」と大越は言う。
「軽快だけど存在感を感じるタンニンのニュアンスには、テリーヌなんかも合うと思います。鶏肉とガメイは鉄板のペアリングですが、重すぎず、軽すぎない豚肉の油脂分と今年のボジョレー・ヌーヴォーは良い相性です」
また、赤ワインに意外と合うのが「醤油っぽい風味」だと大越。
「味を濃くしすぎない豚肉の生姜焼き、また醤油風味で豚肉を加えた焼きそばがいいでしょう。 そしてガメイには黒胡椒のようなスパイシーなアクセントもあり、料理の最後にピンクペッパーや胡椒を振りかけるのもペアリングには最高です」
ほかにも合うのがカツオ。「軽やかですが存在感のあるタンニンに、赤身の持つ鉄分の香りがよく合います。表面を軽く炙ったカツオのたたきに胡椒を振って」と大越は言う。
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ボジョレーでシャルドネの栽培が盛んに!? 生産者たちの本音。
新酒がどうしても話題となるボジョレー。実際に日本へ輸出されるボジョレーワインの87%がボジョレー・ヌーヴォーだというのだから、なかなかほかのワインの魅力には気付きにくいのかもしれない。だが、自身も生産者としてふたつのドメーヌを所持し、また買いブドウでもワインを手がけているボジョレーワイン委員会副会長のセバスチャン・カルギュルは、「消費者のニーズにあった成長を」と語り始めた。

「ボジョレーには300種類の地質が広がり、複雑で多様性にあふれています。ガメイという品種ひとつでも、村や畑によってかなり違う印象を受けるはず。そして全体の4%の生産量ですが、シャルドネの評判がイギリス、アメリカを中心に上がってきており、日本のソムリエたちからもいい評価をいただいています」
シャトー・デ・ジャックが手がけたシャルドネ100%のボジョレー・ブラン2023を試飲してみる。爽やかな白い花のような香りの奥に、青リンゴのニュアンス。飲んでみると、旨味をはっきりと感じる。
「ステンレスタンクの中での澱との接触で、ワインに複雑味が生まれています」と大越。「セイボリーのような塩味のようなニュアンスも。2年間の熟成で飲み頃の初期段階になっていると思います。少し冷やし目ですが、ここから温度を上げると複雑なフレーバー、旨味、酸味のバランスがさらによくわかると思います」
「目指すワインは複雑、繊細。でも、必ず手に届くものを造っていたいのです」とカルギュル副会長。
「代替わりしたドメーヌもあれば、新たに畑を購入してワイン造りを始めた生産者もいます。新たな世代の生産者とともに、多様性がボジョレーに広がっていくのはとてもいいことです。そして、ボジョレーのワインが本来的に持っているカジュアルな部分、喜びを分かち合うということは変えずにいること。それが私たちのテーマなのです」

フィガロJPカルチャー/グルメ担当、フィガロワインクラブ担当編集者。大学時代、元週刊プレイボーイ編集長で現在はエッセイスト&バーマンの島地勝彦氏の「書生」としてカバン持ちを経験、文化とグルメの洗礼を浴びる。ホテルの配膳のバイト→和牛を扱う飲食店に就職した後、いろいろあって編集部バイトから編集者に。2023年、J.S.A.認定ワインエキスパートを取得。
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