富山・砺波市で、伝統家屋とアート、自然との共生を体感する滞在。

Travel 2024.09.11

フランスの生活に根付く"暮らしの美学"、アール・ドゥ・ヴィーヴルの精神は、日本でも見つけることができる。富山県砺波市で築120年の家屋を改修しオープンした宿、楽土庵を訪れれば、名作家具や民藝、アートを配した美しいインテリアだけでなく、自然の景観と一体になったその姿からも、心豊かなひとときを享受できる。

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宿泊者は無料の「散居村ウォーク」は、スタッフが宿の周辺を案内。流れる水の音を聞きながら水田の間を散策すると、辻々に立つ小さな祠と出合う。三方山に囲まれたこの地の文化を知る豊かな1時間。

伝統的家屋とアート、自然との共生を体感する。

富山と金沢の中間地点に広がる砺波平野。遠くには立山を筆頭に高い山々がそびえ、ふたつの川に挟まれた水田が扇状にどこまでも広がる。その間にぽつぽつと散らばって見えるのが、風雪から守るカイニョ(屋敷林)に囲まれた、大きな屋根が印象的なアズマダチと呼ばれる伝統家屋だ。

ここ楽土庵はその一軒、築約120年の民家を改修して2022年10月にオープンした宿。一歩足を踏み入れれば、太い木の梁が立派なラウンジ。納屋だった2階を吹き抜けにした広い空間には、ピエール・ジャンヌレの椅子にジャスパー・モリソンの照明などのヨーロッパの家具と、李朝の調度品、富山に縁のある民藝作家らの作品が置かれ、その奥には、内藤礼の作品が飾られた小さなライブラリーがある。

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人間国宝の染色家、芹沢銈介による型絵染の屏風がゲストを出迎える。
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別棟にあるショップ、水と匠では工芸品や富山産のプロダクトを販売。

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そして、入口左側にあるゲストルームは、羽多野渉の手漉きの和紙を壁と天井に使った「紙」、2頭の蚕がひとつの繭をつくる不均一な糸「しけ絹」を使った「絹」、敷地の土から制作した林友子の大きな作品を設えた土壁「土」の3部屋。イサム・ノグチとポール・へニングセンの照明を共通に、それぞれ異なる名作家具が置かれ、民藝・工芸・現代アート作品が飾られている。ひとつひとつにストーリーがあり、まるでギャラリーに泊まるよう。雪見障子を開ければ、各部屋にウッドデッキが併設されており、長閑な田園風景をいつでも眺めることができる。

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光が柔らかく反射する「絹」の部屋。オーレ・ヴァンシャーのコロニアルチェアとトライバルラグ、李朝の家具や棟方志功の掛け軸などが見事に調和する。家具や作品は購入も可能。
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「絹」の部屋の壁や天井に使われた「しけ絹」の工房、松井機業の見学も可能。1時間半1名¥6,000(2名~)
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夕日が美しい「土」の部屋のウッドデッキ。開閉できる小窓から鳥が舞う田園風景を眺めて。

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そう、ここで体験するのは美しいインテリアやアートだけではない。そもそも楽土庵の大きな目的は、自然の景観を形作る"散居村"の保全と地域の再生活動にある。宿泊代金の2%は保全活動の寄付に充てられているのだ。荷物を置いたら、まずはスタッフと周囲を散策してみよう。村を一望できる展望台に足を延ばすのもいい。風土に合わせて発展し、秩序の取れた景色を見ていると、自然と人との共生とは? 生物多様性とは? といった課題を難しく考えることなく理解することだろう。また、宿で使用するもの、提供されるものの工房や工場を見学したり、ワークショップに参加したり。地元の人との交流、文化に触れることが村の再生にも役立っていく。民藝運動の創設者、柳宗悦が"土徳"と表現した、この地の精神風土をさまざまな形で感じ取りたい。

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宿から車で20分ほどの場所にある展望広場から散居村を一望。ガイドの解説が付く1時間半のアクティビティは1名¥11,000(2名~)
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富山のシェーカー家具作家に注文したボックスに入っているアメニティは、ヒノキ、黒文字、立山杉の精油を用いたオリジナル。ルームウエアは麻素材。
Rakudo-An
楽土庵
富山県砺波市野村島645
0763-77-3315
全3室 全室バスタブ付き
1名¥35,500~(1室2名)
朝食込み
https://www.rakudoan.jp/
google map

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*「フィガロジャポン」2024年9月号より抜粋

photography: Akemi Kurosaka

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