齊藤工が託した、もうひとつの母性・根岸季衣。
「齊藤工 活動寫眞館」について 2023.08.16
映画好きであれば、演じ手になったり、よき鑑賞者になったり、そして作る側にまわったり。齊藤工はそのすべてをやっていて、そのうえで自身と関わるシネマティックな人々をモノクロポートレートで捉えていくプロジェクトも行っている。それを表現する場が、本連載「活動寫眞館」でもある。
9月1日公開の齊藤工が監督する映画『スイート・マイホーム』で、「もうひとつの家族」の母親を演じる根岸季衣。根岸の出演により、映画の持つ温度や湿度がまさに適切なものになり、そして観る者がのめり込む深度を増すきっかけともなる。ベテランの醸す存在感の強さに、ほれぼれする。
作品中ではたくさんの惑いや不安を抱えながら人生を過ごす母親役を演じる根岸季衣。眼差しの奥深さが印象的だ。
「根岸さんは現代日本映画の母性を体現する役柄を任される一方で、ドラマ『漂着者』等でのエキセントリックな快演もされる、最高峰にいらっしゃる憧れの大先輩です。光栄なことに『医師たちの恋愛事情』では私の母親役を務めてくださり、それ以来、個人的に根岸さんのブルースのライブにも行かせていただいたりしています」(齊藤)
根岸は齊藤が「演者やスタッフに対して敬意が基盤にしっかりある」とコメントしている。どういうところにそれを感じたのだろう。
「何気ない雑談でもきちんと正対して丁寧に聞いている佇まいが、とても落ち着いていて素敵でした。監督が差し入れした自然食のお弁当が、スタッフにはご飯の分量が少なかったんじゃないかと心配していたり、細やかな気遣いが自然にできる人なんだなぁと思いました」(根岸)
創作そのものに直接関わること以外に、現場でのスタッフ&キャストの過ごし方まで誠意を尽くす齊藤の姿を、根岸は見ていた。
根岸が演じる清沢美子は、主人公・賢二(窪田正孝)と聡(窪塚洋介)の母親だが、「ふたりの息子たち」は彼女の目にどう映ったのか。
「ホラー作品という気負いが全然なくて、自然体で役に入られるところがおふたりに共通していました。かなりディープな健康談義で大いに盛り上がっていて、本当に兄弟みたいでした」(根岸)
窪塚洋介のインタビュー記事でも齊藤含め、カラダによい3人衆であることは触れたが、根岸もそのように感じていたようだ。撮影現場で、母親役として、息子を演じるふたりを眺めていた根岸。本作で大事な要素でもある「母性」に関し、根岸の考えを聞いた。
「私は実際に2人の息子がおりますが、夢中で子育てしていた中で培われて来たものが、母という立場を演ずる上で私を支えてくれているな、といつも実感します」(根岸)
子育てとは夢中なもの......根岸のこの言葉は、本作ではとても重要な意味を持つ。
「"母"がテーマでもある『スイート・マイホーム』における母性の象徴・慈悲深いキャラクターは、根岸さんしかいないと原作を読んでいる段階から思っていました」(齊藤)
家や家族、というものに対し、根岸は本来、どのような考えを持っているのだろう。
「もう子どもたちがそれぞれの家庭を持って別に暮らしているので、家は自分が快適に過ごせる必要最小限の場所を確保するだけで充分満足です。家族揃う機会がすっかり少なくなりましたが、健康で仲良く暮らしてくれていることが私の幸せです」(根岸)
映画『スイート・マイホーム』の物語の中ではこの写真のような根岸(=清沢美子)の笑顔はあまり見ることはできない。
が、「家」「家族」に関して、本来の根岸が返してくれる言葉には、母性から湧き出る温かさと優しさがにじみ出ていた。
東京都生まれ。1973年、舞台『ストリッパー物語』で鮮烈なデビューを果たす。つかこうへい、渡辺えり、白井晃、蜷川幸雄など日本を代表する演出家はもちろん、映画においても黒澤明監督、大林宣彦から愛される俳優。主な近作に、『焼肉ドラゴン』(2018年)、『ミッドナイトスワン』(20年)、『ちひろさん』『スイート・マイホーム』『女家族』(すべて23年)など。
●監督/齊藤工
●出演/窪田正孝、蓮佛美沙子、奈緒、中島歩、里々佳、根岸季衣、窪塚洋介ほか
●2023年、日本映画
●113分
●配給/日活、東京テアトル
●2023年9月1日より、TOHOシネマズ日比谷ほか、全国にて公開
©2023『スイート・マイホーム』製作委員会
©神津凛子/講談社
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TAKUMI SAITOH
ナビゲーター役の NTV「こどもディレクター」(水曜 23:59~)放映中。出演映画『カミノフデ~怪獣たちのいる島~』が 7月26日公開。企画・プロデュースした今冬公開の児童養護施設のドキュメンタリー映画『大きな家』に続き、ハリウッド映画『ボクがにんげんだったとき/When I was a human』のエグゼクティブプロデューサーも務める。www.b-b-h.jp/saitohtakumi