ウイルスと闘う世界のいま。#08 We are all in this together(みんな一緒に乗り切ろう)

Travel 2020.04.01

文/稲石千奈美(在LAカルチャーコレスポンダント)

アメリカでは感染者数のグラフがなるべく緩やかなカーブになるように、「flatten the curve(=曲線をフラットにする)」が目下の目標。感染者数の急増を抑えることが、医療機関はじめインフラへの危機的なプレッシャーの緩和にも繋がるためです。ロサンゼルスでもソーシャルディスタンシング(social distancing=社会的距離を取ること)への取り組みがいっそう真剣になり、先週からビーチや公園、ハイキングトレイルなども一部が閉鎖になりました。

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ソーシャルディスタンシング・ルールの張り紙。ひとりずつ入店、ペンなど使う時には使い捨て手袋使用、6フィート(1.8メートル強)間隔厳守、思いやりと辛抱を、などが箇条書きになっている。

レストランやカフェの営業がテイクアウトに限定されてから2週間。レストランだけでなく、農家や生鮮食料品業者も同じく影響を受けています。営業形態移行の難しさ、全体的な経済的打撃による需要の低さから、一時休業中の店も少なくない。そんななか、工夫を凝らして営業を続ける店や農家をできるだけ応援しようという動きもあちこちで見られます。

日曜の朝、ハリウッドのファーマーズマーケットで野菜や果物など買い物をしながら、知り合いとキャッチアップするのはもう何年にもなる習慣。街はロックダウンながら、マーケットは「生活必需活動」なので開催が許可されています。外出禁止と農家支援のバランスを取るために、私は隔週で行くことに決めました(これを書いた翌日の夕方、ロサンゼルス市長がファーマーズマーケットも営業規制と発表。市に対策運営計画を提案し、承認されれば営業許可が下りることに。サンタモニカ市などは継続して開催)。

マーケットは売る側も買う側もいつもの半分ほどの混み具合。普段と違って、野菜のテーブルの前では2メートルの間隔を開けて並んだり、なるべく野菜に触れないように、いつもなら見るだけで元気が出る野菜をすべて袋詰めにしている農家もありました。今年初のそら豆やいろとりどりのスイートピーをはさんで、テーブルの向こうの農家の売り子さんと励ましの挨拶を交わし、いつもよりささっと買い物を済ませたのでした(やや緊張していたため写真を撮り忘れてしまったけれど)。

マーケットで気づいたのは、行列しなかったり、2メートルの間隔を空けていない人もいて、その人たちの多くは英語が母国語ではなかったこと。行政が英語でどんなに呼びかけても、深刻な事態が必ずしも伝わらないということなのでしょうか? 移民の多い大都市の課題をもうひとつ、目の当たりにしました。

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ファーマーズマーケットで毎週購入するのが「Bub&Grandma’s」のパン。ベーカリーは営業時間短縮で先週からマーケットには出店せず、普段から卸しているレストランにて販売したり、(おそらく仲良しの)自転車店でも売ったり、お互いのビジネスを助け合っている様子。人気のベーカリーらしく自転車店がパン入荷を告知した3分後には完売。運良くネットで購入できた人は、ショップ前からメッセージを入れると、店の人が出てきて商品を渡します。

マーケット近くのおいしいベーカリーは休業だし、様子を見るためにも車で移動してレストラン&ベーカリー「République」へ。

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リパブリック前には行列。1928年竣工、チャーリー・チャップリンが依頼主だった建物の前の並木には「9〜7時 テイクアウトとデリバリー」の看板も。

リパブリックはシェフとパティシェ夫婦による人気のレストラン&カフェ。日中はベーカリーとしても営業しています。日曜の午前9時には、テイクアウト用のパンや朝食を購入するために10人ほどが2メートル間隔を空けて行列。店のカウンターで対応できるのはひとりだけなので、買い物を終えた人が出てくると、次の人が入れるというシステムです。

ベーカリーカウンターの反対側、レストランエリアはなんと簡易食料品売り場に変身。付き合いのある農家から新鮮な野菜を詰めたボックス(40ドル)や、スーパーやネットショップでも品切れ続きの小麦粉をはじめ、店で使っている乳製品、シャルキュトリーなども小分けして販売しています。先週、利用者急増中のオンラインミーティングアプリ「ズーム」でLAやNYを繋いでみんな一緒にパンを焼こうという企画があったのに、小麦粉が買えず断念したばかりだったので、さっそく1袋ゲットしました。

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店内では、野菜や果物、乳製品、自家製シャルキュトリーなどを小分けにして販売していました。バリスタ専門のラテ用牛乳を発見!

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和食のレストランも応援したく、来週テイクアウトを注文したいなと思うのは「Izakaya Tonchinkan」。自宅で仕上げるラーメンセットをテイクアウト用に用意したり、新鮮な魚をさばいて顧客と共有したりしている様子がインスタグラムでわかります。「本日の鮮魚」は毎日、インスタグラムのストーリーズにアップしているので、おいしそうな魚の日を狙って。

毎週、サラダ用のレタス各種を購入する農家が用意してくれた袋詰めの野菜。帰宅して開けてみたらレタスではなく大きなエスカロールが2個。一瞬ショックでしたが、イタリア系の親戚にご馳走になったエスカロールのスープを思い出して、レシピを検索。めでたくおいしい夕食になりました。「災い転じて福となす」は英語だと、「When life gives you lemons, make lemonade(人生にレモンを渡されたら、レモネードを作ればいいよ)」。

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ほろ苦い葉野菜、エスカロール。2個で800gもありました。

ソーシャルディスタンシングのこの頃、お隣の老夫婦は庭でたわわになっているレモンをもぎって、玄関に置いていってくれる。お礼ではありませんが、私も買い物に行く前にはお隣のショッピングリストを電話で聞く習慣ができました。

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塀越しに見えるお隣のレモン、オレンジ、ブーゲンビリアの木。レモンの花のいい香りも届きます。

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texte : CHINAMI INAISHI, title photo : alamy/amanaimages

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