秋の夜長に楽しみたい、海外ドラマ10選。#01 【海外ドラマ】自立のため奮闘する良妻賢母の、マーベラスな可愛さ。
Culture 2018.10.22
豊富な予算を背景にした作り込んだ映像、シリーズものだから描ける起伏に富んだストーリーで人気が高まる海外ドラマ。全国ネットワーク、ケーブルテレビ局、動画配信サービスがしのぎを削り、多彩で質の高いコンテンツを提供している。そんな勢いある海外ドラマのなかから、ここ数年以内スタートし、いまの時代だからこそ観たい作品を厳選。第1回は、レイチェル・ブロズナハンのチャーミングなコメディエンヌぶりが人気の「マーベラス・ミセス・メイゼル」。
良き妻、良き母として生きる理想の主婦から、スタンダップコメディ(漫談)の世界へ飛び込むミッジ。
「マーベラス・ミセス・メイゼル」(2017年~)
第70回エミー賞で、コメディシリーズ部門の作品賞、主演女優賞を含む8部門に輝いた話題作。1958年、ニューヨークを舞台に、夫や子どもたちと何不自由なく幸せな日々を暮らすミッジことミリアム・メイゼルが、夫との不和などを機に自立する道を模索していく。クリエイターは、ハートフルな母娘ドラマ「ギルモア・ガールズ」のエイミー・シャーマン=パラディーノ。といっても、笑ってホロリとさせる人情話ではない。なにしろ、ミッジが突き進む道はコメディアンなのだから!
良き妻、良き母であり、夫ジョールには気づかれないように美貌も維持する。それだけでも十分にスーパー主婦という感じのミッジは、コメディアンを目指して夜な夜な酒場「ガスライト」で客の前に立ち、漫談(スタンドアップコメディ)をする夫を応援し、ひたすら支える。でも、実際には夫の漫談は人真似で、実はミッジの方が才覚があったという皮肉。やけっぱちになったミッジが酔っ払って下着姿で客の前に立ち、夫婦関係や下ネタも交えながら漫談を繰り広げるくだりは、心底笑いがこみ上げてくる。
百貨店で働くミッジ(中央)。1950年代のファッションやカルチャー、街並みなどのビジュアルも楽しい。
1950年代に女性が職業を持ち、自立することが、どれほど難しいか。人種や貧富の差など、多くの差別や偏見があることは、ミッジたちのジョークや日常の会話の端々からよくわかる。当時のファッションや美術、街並みのようすは、まさに”古き良き時代”を思わせる。一方で、ミッジの社会進出を阻むものの多さに、現代に続く男女格差の是正を訴える#TIMESUPムーブメントに通じる問題も浮き彫りに。
ミッジ役のレイチェル・ブロズナハンは、「ハウス・オブ・カード 野望の階段」の幸薄いコールガール、レイチェル・ポスナー役のシリアス演技の印象も強いが、本作のミッジはまさに当たり役。相棒となるスージー役のアレックス・ボースタインとの掛け合いもキレッキレ。アメリカのコメディの歴史を背景にウィットに富んだ会話劇を楽しみながら、ミッジの頑張りを心から応援したくなる快作だ。
「名探偵モンク」のトニー・シャルーブ(左)と「ハーパー★ボーイズ」のマリン・ヒンクル(右)の演技派コンビが、ミッジの両親を軽妙洒脱に演じる。
原題/The Marvelous Mrs. Maisel
クリエイター/エイミー・シャーマン=パラディーノ
出演/レイチェル・ブロズナハン、マイケル・ゼゲン、アレックス・ボースタイン、トニーシャルーブ、マリン・ヒンクルスほか
Amazon Prime Videoオリジナル作品
Amazon Prime Videoにてシーズン1を独占配信中
【INDEX】秋の夜長に楽しみたい、海外ドラマ10選。 【#02】いまを映し出すディストピアを舞台にした、衝撃作。
【#03】シリアルキラーの狂気を、「glee/グリー」の彼が怪演。
【#04】知的な会話の虜になる、人気法廷ドラマのスピンオフ。
【#05】幻想世界でめぐり逢い続ける、孤独なふたりの物語。
【#06】戦場帰りのヒットマン、演劇の面白さに目覚める。
【#07】笑って泣ける、プロレスに挑む“負け犬たち”の奮闘。
【#08】絢爛に繊細に掘り下げる、孤高の女王エリザベスの素顔。
【#09】殺人犯の心の闇を探る、スリリングなミステリー。
【#10】驚きと笑いの後、心にじわりと響く人生の哀歓。
texte:SACHIE IMA