斎藤工主演、映画から生まれた家族のレシピの味は?

Culture 2019.02.20

斎藤工主演、エリック・クー監督によるシンガポール・日本・フランス合作映画『家族のレシピ』。各国の映画祭で話題になり、先に公開されたシンガポールやフランスでも大きな反響を呼んでいる本作がついに来月、日本でも公開される。それに合わせて、フィガロジャポン4月号(2月20日発売)にはこの映画とシンガポールのソウルフードにフォーカスした特集「家族の味を求めて、シンガポールへ!」を掲載!

公開に先駆けて、2月初旬にはキュリナリーシネマイベントが開催され、斎藤工とエリック・クー監督、そしてシンガポールのキャストのひとりであるジネット・アウ、日本版の主題歌を手がけたシシド・カフカが登壇した。

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左から、ジネット・アウ、斎藤工、エリック・クー、シシド・カフカ。

キュリナリーシネマとは、ベルリンやサンセバスチャン国際映画祭で、世界各国から食がテーマの秀逸な作品を選出する部門。『家族のレシピ』はこの両映画祭に昨年正式招待され、上演とともに、作品にまつわる料理が提供されるイベントも大好評を得た。また昨年7月にはニューヨークでの北米最大の日本映画祭「JAPAN CUTS」でも上映。オープニングパーティでは作品にちなみラーメン屋が会場に作られた。その様子は「齊藤工 活動寫眞館・番外編 齊藤工 in NY。」にて斎藤自身が語っている。

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「JAPAN CUTS」会場で、斎藤がエリック・クー監督と彼の息子たちを撮影。 photo : TAKUMI SAITOH

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『家族のレシピ』キャストたち。

東京でのイベントでは、映画上映後、まず監督と出演者たちの“家族のレシピ”が来場者に振る舞われた(その内容は後述)。その後ゲストが登壇、トークショーがスタート。この作品が生まれたきっかけについて、エリック・クー監督が説明する。

「数年前、私の友人でもあるプロデューサーが、日本とシンガポールの外交樹立50周年記念の映画を作らないかと私に提案をしたのです。私は日本が大好きですし、ぜひやりたいと思ってどんな映画にしようかと考え始めました。そこで思い浮かんだのは、食をテーマにした映画。すばらしい食文化を持つ両国のソウルフード、日本のラーメンとシンガポールのバクテーを組み合わせるアイデアを思いついたんです」

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斎藤(奥右)は、群馬県高崎市で父(伊原剛志/奥中)と叔父(別所哲也/奥左)とラーメン店を営む青年、真人を演じる。

撮影は、群馬県高崎市とシンガポールの2都市で行われた。両国のスタッフやキャストが入り交じっての撮影はどんな雰囲気だったかと問われた斎藤は、こう話す。

「地域の方たちに協力していただきながら製作する“地域映画”ということと、合作としての国際交流が見事に融合した現場でした。もちろん、言葉ですべて通じ合えたわけではありませんが、皆が共通の方向に向かったことで、仲間というか家族を見つけるような時間でした。大げさではなく、僕にとっては本当にこの物語のように、“こんな出会いが大人になってからあるんだ”と思うような出会いがありました」

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映画から生まれた料理、ラーメン・テー。

客席には映画のもうひとつの主役ともいえるラーメン・テーが運ばれ始める。おいしそうな匂いが会場を満たす中、斎藤が「せっかくだから、記者の方たちにもラーメンを……」と気遣う場面も。

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これが本邦初公開のラーメン・テー。現地のバクテーと同様、揚げパンが添えられていた。

このラーメン・テーという料理を実際に開発するところから、この映画はスタートしたという。

「エリックは本物志向で、ラーメンとバクテーを融合した新しい料理ラーメン・テーを、半年以上かけて完成させてからこの企画自体をスタートしているんです。映画を通じて新しいメニューが世の中に誕生した、そのプロセスはエリックそのもの」(斎藤)

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料理監修の竹田敬介氏(右)は、俳優として『家族のレシピ』にも出演。

ラーメン・テーを含め映画の料理監修を務めたのは、竹田敬介氏。2005年に「黒味噌ラーメン 初代けいすけ」を開店以来、日本全国にさまざまなコンセプトのラーメン店を構えるほか、近年はシンガポールでもラーメン店をはじめとする多くの店舗を手がけている。斎藤演じる真人のラーメン・テー作りに協力する料理店経営者として、劇中にも登場した。

「敬介さんにはお芝居もしていただき、すごく説得力があって。実際に敬介さんのラーメンショップでも撮影させていただきました」(斎藤)

このイベントで供されたラーメン・テーも敬介氏が監修。それを実際に食べたエリック監督が絶賛する。

「シンガポールで食べた時よりさらにおいしく感じます。私の大好物である日本の豚肉を使っているからかも。敬介は天才だね!」

斎藤もその味についてこう補足する。「バクテーに麺を入れればラーメン・テーになるかというと、そうじゃないんです。バクテーのほうが寄り添っていかないと成立しない。敬介さんのスープの加減が絶妙だと思いました。エリックは来日するたびに、とんかつを食べに行くんです。日本のポークのクオリティと、バクテーという料理が出合って、日本でさらに進化するんだなと思いました」

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真人がシンガポールで出会うフードブロガー、美樹を松田聖子(右)が演じる。

日本版の主題歌を担当したシシド・カフカは、バクテー自体を食べるのが初めてだという。本作の音楽を手がけたケビン・マシューの楽曲にシシド自身が歌詞を書き、歌唱する主題歌「Hold my Hand」は、映画の余韻にそっと寄り添い、包み込むように優しく響く。

「今日みなさんも感じられたと思いますが、映画を観て、おいしそうだな、きっとこういう味がするんだろうな、っていう想像を見事に満たしてくれる、それ以上に満たしてくれる味だと思いました」(シシド)

この作品をきっかけにバクテーを作るようになったという斎藤は、映画と料理について、次のように語る。

「映画を作ることと料理をすることには、通じるものがあると思います。喜んでもらう、というのもそうですが、いろんな材料を集めてひとつの鍋の中に合わせたり、最後の味付けが決め手だったり、後片付けが大変だったり……すべてにおいて映画作りに通じる気がします」

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監督・出演者それぞれの“家族のレシピ”。

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手前のトレイが「家族のレシピ スペシャルプレート」。手前左から時計回りに、松田聖子の「がめ煮(筑前煮)」、別所哲也の「別所家のピーマンの肉詰め」、シシド・カフカの「ケサディア」、伊原剛志の「伊原家の牛丼」、エリック・クーの「半熟卵のダークソースがけ」、そして映画のロケが行われた高崎市のお菓子「ちごもち」。

「家族のレシピ スペシャルプレート」について、レシピを提供したエリック監督とシシド・カフカがコメント。エリック監督の家族のレシピは「半熟卵のダークソースがけ」。

「これは私が覚えている、最初に食べた料理のひとつです。子どもの頃、母や祖母が毎朝のように作ってくれた大好きな料理。日本の温泉卵にかかっている甘いソースもおいしいけれど、シンガポールでは何より、このダークソーヤソースをかけて食べる半熟卵が最高です」

シシドの家族のレシピは「ケサディア」。トルティーヤにチーズを載せて焼いた、メキシコの家庭料理だ。

「私、メキシコ生まれなんです。母がメキシコからレシピを持ち帰って、実家にいた頃は、母がよく朝食に作ってくれました。日本のチーズがメキシコのものとちょっと違うこともありますし、朝食に合うようにと母がいろいろアレンジを加えてくれたので、シシド家のレシピになっていると思います」

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真人の父を演じる伊原剛志(左)と母のメイリアン役を演じるジネット・アウ(右)。このシーンが撮影されたのが敬介氏のラーメン店だ。

そしてプレートの左上に載っていた、高崎市のお菓子ちごもちについて語ったのは、本作の縁で現在、高崎市のPR大使を務めるジネット・アウだ。

「私はお菓子作りが好きで、以前コルドンブルーに通ってパティスリーの勉強をしていました。高崎を訪れた時にちごもちを初めて食べて、フレッシュな果物が入っていることにすごく驚きました。その時は柑橘類が旬のシーズンで、ミカンが入っていたんです。

次に高崎を訪れた時、作り方を教えてほしいと菓子職人の方にお願いしたら、快く引き受けてくださって、果物をお餅で包む体験をしました。すごく楽しかった! 作り方を学んでからはさらにおいしく感じるのは、感謝の気持ちが加わったからかもしれませんね。フルーツを包んだお餅はとても柔らかくて薄く、かじると口の中で溶けるんです。私の大好物のひとつです」

劇中では、斎藤演じる真人の母親メイリアン役を演じたジネット。“観音様のようだった”と回想される、優しく可憐な若き母が、スクリーンを飛び出して高崎のお菓子について少女のように溌剌と語る。食を通して繋がっていく縁は、何ともこの映画らしい。

この日に提供されたちごもちは高崎を代表する名店、微笑庵(みしょうあん)のもの。中に入っている果物は、群馬県の指定品種であるイチゴ「やよいひめ」。そのイチゴの大きさと新鮮な味わいに、会場全体が沸いた。

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真人と、祖母のマダム・リーを演じたビートリス・チャン(右)。

そして斎藤が自身の家族のレシピについて尋ねられると、撮影最終日のエピソードを披露してくれた。

「監督という立場はいちばん大変なはずなのに、撮影の最終日、エリックがチキンスープを作ってきてくれたんです。彼が作ってくれたその時間もスープとともに味わって、号泣してしまいました。この物語自体が、食を通じて国境を超えていくという物語でもありますが、実際にそういう温かさで僕ら日本人キャストやスタッフを迎えてくれた、エリックをはじめとするシンガポールチームへの感謝の涙が止まらなくて。しかも本当においしくて、あのスープの味は忘れられないですね。“家族を見つけた味”というか。エリックとの出会いはその後も、僕の未来を光に導いてくれています」

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過去から、一緒に未来を導いていく。

最後の挨拶で、斎藤はこう締めくくった。

「フランスとシンガポール、日本の合作映画がどんなふうに展開していくのかを、ここ1年半くらい寄り添って見せていただきました。昨年ベルリン国際映画祭のキュリナリー部門に出品した時点で、約30〜40カ国へセールスがもう成立している。日本で俳優をやっていると、どうしても国内に向けた映画産業の中での展開という枠組みなんです。日本では映画館の数は少しずつ減ってしまっていますが、世界という市場に向けて、アジアから映画というクリエイティビティを発信する、日本映画にとっても大切なモデルケースにするべき体験をさせていただきました。向かうべき場所は世界だと、具体的に見せてもらった作品でもあります。

そしてこの作品では、とても大事な日本とシンガポールの歴史に触れられています。観る方にとって、それは初めて知ることかも知れないし、僕自身もそうでしたが、その大事なことが作品の根っこになっている。同時に、過去からどう未来を共に導いていくか、ということも提示している作品だと思います。

とにかくお腹が減る作品でもありますので、ぜひ今日のように、映画を観終わった後に、作品からインスパイアされた食を味わうという体験を、みなさんにもしていただけたらと思います」

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真人は、17年にリニューアルオープンした、シンガポールに実在する戦争博物館を訪れる。

日本とシンガポールの歴史については、2018年の東京国際映画祭でのイベントでも斎藤は語っていた。劇中で真人が訪れる、シンガポールの戦争博物館について触れたうえで、次のようにコメントした。

「シンガポールと日本にとって特別な意味を持つ、僕らが訪れるべき場所。そのことを僕自身も心に留めながら、その上にあるシンガポールの方たちの優しさ、親切心に、本当にありがたみを深く感じました。感じ方は自由ですが、映画を観た方にも、そうした角度からもシンガポールを“味わって”いただけたらうれしいです」

「歴史」という言葉に込められた意味が深く、そしてその上で描かれるこの希望の光を感じさせる物語がいっそう心に響く。

エリック監督も最後にこのような言葉を日本の観客に贈った。

「斎藤さんをはじめとする日本のキャスト、スタッフとのコラボレーションは素晴らしい経験でした。『家族のレシピ』を撮り終えた後に残されたのは、深い友情でした。それは撮影後もどんどん育ち続けています。日本のたくさんの方たちがこの映画を観て、心の旅をご一緒できることを願っています」

3月9日(土)の公開を心待ちにしながら、観終わった後に何を食べに行こうかと計画を立てたり、フィガロジャポン4月号の『家族のレシピ』特集を読んでシンガポールへの旅を企画したり……。五感をフル活動させて『家族のレシピ』の世界を味わいたい。

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『家族のレシピ』
●監督/エリック・クー
●出演/斎藤工、マーク・リー、ジネット・アウ、伊原剛志、別所哲也、ビートリス・チャン、松田聖子
●2018年、シンガポール・日本・フランス合作映画
●89分
●配給/エレファントハウス、ニッポン放送
●3月9日より、シネマート新宿ほか全国にて公開
https://www.ramenteh.com
© Wild Orange Artists/Zhao Wei Films/Comme des Cinemas/Version Originale

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