立田敦子のカンヌ映画祭2023 #07 北野組がラディカルな時代劇でカンヌに殴り込み。

Culture 2023.05.27

北野武監督の6年ぶり、19作目となる新作『首』がカンヌでワールドプレミアされた。天正10年6月2日、明智光秀が謀反を起こし、京都本能寺に滞在していた織田信長を襲撃した「本能寺の変」を独自の視点で新たに解釈し、北野自身が執筆した小説『首』を原作としている。

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レッドカーペットに登壇した、浅野忠信、中村獅童、加瀬亮、北野武監督、西島秀俊、大森南朋。©︎Kazuko Wakayama

天下統一を掲げる織田信長(加瀬亮)が毛利軍、武田軍、上杉軍、京都の寺社勢力と激しい攻防と繰り広げる中、信長の家臣・荒木村重(遠藤憲一)が姿を消す。信長は、自らの跡目相続をちらつかせ、明智光秀(西島秀俊)、羽柴秀吉(ビートたけし)らに村重を追わせる。無類の暴君として描かれる信長、性的関係を含めて複雑に絡み合う人間関係、監督一流のギャグなど北野監督一流の味付けが冴える。これまで多くの映像作品で取り上げられてきた「本能寺の変」だが、そうした正統派の解釈を蹴散らす、“アウトレイジ時代劇版”ともいえるラディカルな時代劇だ。

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北野武監督『首』より。KUBI©︎2023 KADOKAWA©︎T.N GON CO., LTD.

北野武監督といえば『HANA-BI』で最高賞の金獅子賞、『座頭市』で監督賞を受賞するなどヴェネツィアア映画祭では見事な成績を残しているが、カンヌでは無冠。本作は『アウトレイジ』以来、13年ぶりのカンヌでの上映となる。上映前に日本人向けの会見に登場した北野監督は、「カンヌは3、4回は来ているけれど、あんまりいい思い出がない。映画人にとっては、カンヌ映画祭はひとつのステイタスであり、ひとつの目標なので、コンペに選ばれた人たちは気合が入ってきていると思うんですけど、もともと映画は順位をつけるものではないものだと思う。正直、呼ばれてここに来ただけでも光栄」と話した。

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レッドカーペットにも登場。©︎Kazuko Wakayama

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明智光秀役の西島秀俊は「20年前に北野監督に『ドールズ』でベネツィア映画祭に連れて行っていただいて、今回また北野組に呼んでいただき、カンヌ映画祭に連れてきていただいた。僕は、カンヌ映画祭は初めて。夜中の11時に着いた時から、まだまだ盛り上がっていて、映画の祭典として大きなイベントなんだな、と改めて感じました。いろんな経験をして学んで帰ろうと思います」とコメントした。

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日本を代表する俳優陣が並んだ。©︎Atsuko Tatsuta

型破りな織田信長を演じた加瀬亮は、「カンヌは2回目ですが、その時の印象とはずいぶん違って、さらに盛り上がっているよう。今回は、何よりも北野監督の新作で来られたことがうれしい。いい時間を過ごして帰りたい」と述べた。

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終始会場には笑いが起こっていた。©︎Kazuko Wakayama

ほかにも中村獅童、浅野忠信、大森南朋といった出演者がカンヌ入りをし、公式上映に臨んだ。上映中は始終笑いが起こり、大いに会場が湧いたという。

5分間のスタンディングオベーションでカンヌに歓迎された『首』だが、上映後のパーティに出席した北野監督は、「細かいところでも笑いが起こっていたのがよかった。すべては役者のみなさんのおかげ。ありがとうございます」とキャスト陣に頭を下げた。日本公開は11月23日に決定している。

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映画ジャーナリスト 立田敦子
大学在学中に編集・ライターとして活動し、『フィガロジャポン』の他、『GQ JAPAN』『すばる』『キネマ旬報』など、さまざまなジャンルの媒体で活躍。セレブリティへのインタビュー取材も多く、その数は年間200人以上とか。カンヌ映画祭には毎年出席し、独自の視点でレポートを発信している。

text: Atsuko Tatsuta

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