堤幸彦と中村正人、これからのエンターテインメントを語る。
Culture 2025.04.10
堤幸彦と中村正人。同世代のふたりが作り上げたのは、エンタメ界への挑戦状か否か。作品の誕生秘話と思いを告白した。
DREAMS COME TRUEのプロデューサー/ベーシスト/コンポーザー/アレンジャー/プログラマー。今年3月、DREAMS COME TRUE 35th Anniversary Single「ここからだ!」をリリース。映画『Page30』ではエグゼクティブプロデューサーも務める。
Yukihiko Tsutsumi
1955年生まれ。95年、ドラマ「金田一少年の事件簿」が大ヒット。以降、「ケイゾク」「池袋ウエストゲートパーク」「TRICK」「SPEC」など次々に手がける。映画監督としては『明日の記憶』(2006年)や、『20世紀少年』3部作(08~09年)など代表作多数。
この作品を通し、役者という生き物に迫りたい--堤 幸彦
『Page30』は4人の女優が、たった3日で30ページの戯曲を作り上げるという、ゲームのような実験的な表現に挑む話です。70歳を目前にそろそろ映画的終活に入ろうかという時、中村正人さんからおもしろい映画を作らないかと誘いを受けました。僕らには共通点があり、1970年代末に、かたやテレビ界、かたや音楽界に入り、嫌な思いをしながら売れている人の背中を見続けてきた。中村さんは、DREAMS COME TRUEという不動のジャンルを開拓し、僕は監督としてどんな企画でもこなし、経済的な結果も出せるようになったと思っていた矢先、コロナ禍でこれまでのキャリアは何の柱にもならないことに気がついた。
その時浮かんだのが、役者という生き物に迫りたいという強い思い。標本のように4人の女優から人間味のある顔を引き出したい。まずは、舞台俳優として強い信頼を置く林田麻里さんを仕掛け人として据える。広山詞葉さんは、僕がコロナ禍で表向きの仕事が白紙になった時、予算はないけれど志の高い自主企画の『truth〜姦しき弔いの果て〜』を作るというので参加したら、初めて国際映画祭で評価を得た。あの作品に出合わなければ、僕は使い勝手のいい監督のまま、商売を閉じていたかもしれない。
MAAKIIIさんは仲間由紀恵さんと通ずる沖縄出身者の飾らない強さがある。唐田えりかさんに期待したのは彼女のタフネス。芯の強さが半端ない。
僕の感覚としては、いま映画もテレビも企画が平均化し、役者も生き甲斐を感じる現場は少ないかもしれない。でも未経験でも挑戦したい、いまいる場所から踏み出したいと願っている人がいるはずで、その人たちのために作りました。
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渋谷の劇場は、"挑戦する人"に活用してほしい--中村正人
『Page30』は映画を作ろうとして始まったのではなく、僕の人生のターニングポイントの中で、直面している問題を解決しようと必死で歩く中、堤幸彦監督に出会って始まりました。観客にどう伝えるかを考えた結果、2カ月間限定の渋谷ドリカム シアターを作ってしまったんです。何か運命的な出会いを感じます。
堤さんの脚本を読んだ時、生意気な言い方かもしれないけれど、どんな味になるのかわからない衝撃の強さを感じました。堤さんはコロナ禍に感じた苦悩を4人の女優のパワーで吹き飛ばす覚悟だと話していました。同時に、いまのエンターテインメントの世界はどうしても若さに重きを置きがちだけど、本当はいくつになっても輝くものがあり、見る側にインスパイアさせるチャンスを我々制作陣は作っていかないと宝の持ち腐れになってしまう。映画の内容としては、いまひとつ結果が出てない人、何をしても空虚の穴が大きい人、新しい分野にチャレンジしようとする人、もっと上へと野心を持つ人。彼女たちが限界を超える物語なんです。そのきっかけを作るのが演者としてはいちばんダメなMAAKIII演じる樹利亜であるというのもおもしろい。起用された4人の女優は本人たち自身が隠し持つ本音があり、それを映画の中で丸裸にしています。
渋谷に劇場を作ることは吉田美和も後押ししてくれました。若い世代はドリカムのことを知らないと僕は思っていて、だからこそ新商品として捉えてもらえる商機があると思います。渋谷の劇場も、新しい才能や収支が難しい中でも野心的な試みを続けている劇団などに使ってほしい。熱意と本気のある人からのアプローチを待っています。

『Page30』
とあるスタジオに集まった4人の女優。30ページの台本を配られ、わずか3日で自分のものにし、4日目には観客に披露するという。稽古が進むうち、演じることを通して4人が抱えるそれぞれの事情が浮き彫りになる。二流の役者、売れない役者、歌手から転身した役者未経験者。そして迎えた4日目の本番――。音楽を担当した上原ひろみのピアノが、時に不穏な空気を醸し出し、時に救いのよう。
●監督・原案・共同脚本/堤 幸彦
●出演/唐田えりか、林田麻里、広山詞葉、MAAKIIIほか
●音楽/上原ひろみ、中村正人
●2024年、日本映画 ●113分
●製作・配給/DCT entertainment
●渋谷 ドリカム シアターほか全国にて公開中

渋谷 ドリカム シアター
supported by Page30 期間限定オープン!
DREAMS COME TRUEにとって渋谷は特別な場所。ライブハウスから活動を開始し、渋谷公会堂、NHKホール、国立代々木競技場第一体育館と、渋谷を舞台に夢を叶えてきた。今年4月、ドリカムにとっての"聖地"に、音楽、文化、ダンス、食など多ジャンルで企画展開するテントシアターが登場。『Page30』の上映をはじめ、さまざまなイベントを予定。新たな夢が生まれる場所になりそう。
渋谷 ドリカム シアター supported by Page30
開催期間:4月11日~6月1日予定
開催場所:東京都渋谷区渋谷3-7-1 渋三広場 ※渋谷警察署裏 https://shibuyadcttheater.jp/
photography: Mirei Sakaki styling: Emiko Seki, Takaaki Uchida (A-T) hair & makeup: Nana Nakagome (Octbre) text: Yuka Kimbara