齊藤工が表現する、大らかさと繊細さ―リアリティのある両極を持つ蓮佛美沙子。

「登場人物たちの"顔"がすごく印象に残って、何かを取り繕う顔、怯える顔、真実を見据える顔、その表情や息遣いすべてがスクリーンに焼き付いていたことに、まず圧倒されました。一言で言うと『すごいもの観ちゃった...』と。でも正直、私自身が後味を左右する一部でもあるので、まだあまり冷静に観られていなくて、早くもう一度観たいと思っています(笑)」

230815_LINE_ALBUM__230614_124_r.jpg

2022年2月、映画『スイート・マイホーム』撮影現場にて。以下同。

明るい。言葉も、佇まいも、表情も。母親役はぴったりだと思う。安心してお母さん役の彼女を見ていられる、そんな真っすぐなイメージのある俳優、蓮佛美沙子。
でも、彼女が出演した齊藤工監督作『スイート・マイホーム』は、穏やかであるはずの、安住の場所であるはずの家、家庭、母親がカギとなって、常識が狂い始め、登場人物たちは見えない恐怖に脅かされていくというストーリーだ。蓮佛は、物語内の中心となる「母親」役だ。

齊藤監督の撮影現場は「居心地のよい現場だった」とコメントしている。
「何よりもまず相手に対してのリスペクトがあり、お芝居に関しても役者の感情を第一に尊重して、かつ、何事も決めきらずにライブ感を大切にされている印象だったので、個人的にそれがすごくありがたく、本当に楽しかったです。自由と奥行きが常に共存している心地良さが現場にありました」(蓮佛)
いちばん一緒に撮影現場を過ごした清沢賢二役の窪田正孝に対しても、
「とにかく、優しい! どんな時も物腰柔らかで、主役としての佇まいが本当にナチュラルでした。窪田さんと齊藤監督に私は現場で毎日浄化してもらっている気分でしたし、撮影中何度も『こんな人たちになりたいなぁ』と思っていました」と語っている。
「いま振り返ると、"清沢瞳"は蓮佛美沙子さんのモノとして決まっていたかのように思います。私自身も演者として、時折、必然としか言いようがないくらいシンクロする役との出会いがありますが、『スイート・マイホーム』では蓮佛さんにそんなドラマを見せていただいた気がしています。 そして本作は、他の誰でもなく"瞳"の物語です」(齊藤)

本作は、人間の愚かさや悲しさを描いているが、そういう人間の負の部分に対して、蓮佛は愛情を感じられるタイプなのか? それとも遠ざけてしまうタイプなのか? 
「なんて難しい質問!(笑)...うーん、相手によります(笑)。愚かさの種類にもよるし、その人との関係性にもよるし...。でも、完成品である『スイート・マイホーム』に映っていた愚かさは、愛おしいと思いました。でも、それは私がリアルな世界での当事者じゃないからだろうな、とも思ったり。......ということは、遠ざけてしまうタイプなんですかね?」(蓮佛)
惑いも疑問も正直に言葉に表してくれる蓮佛の人柄に周囲も癒されるに違いない。気負いなく他者と対峙してコミュニケーションできるスポンジのような吸収力や包容力を感じる。

家族という定義に関しては、「人によって、千差万別の形があるもの。私個人にとっては、『とにかく幸せでいてほしい、愛を交わしていたい人たち』かなぁ。ただ、『家族なんだから〜』という言葉・固定概念が昔からなぜかあまり好きではなくて、そういう血縁とかカテゴリーを飛び越えたところで見つめていたい存在です」と、家族の定義の多彩さを受け止めている。
同時に、「母性」というものは、「(その言葉を聞いて)パッと最初に浮かんだのは、無償の愛、です。シンプルに優しさとも言えるし、愛の深さとも言えるし...。また、仏にも悪魔にもなり得る、計り知れない可能性を秘めた神秘的なもの、ですかね」(蓮佛)
齊藤が送ってくれた写真の中の蓮佛は、ほんの少しの微細な表情の違いで、感情や空気感をすーっと変えてしまう強さを持っていた。

230815_DNPDMA-02-高A左 LINE_ALBUM__230614_130.jpg

「蓮佛さんの瞳の表現が素晴らしすぎて鳥肌が立ち、カットを忘れたことが何度もありました。 物語上、小さな子どもたちも撮影に参加してもらっていたので、蓮佛さんや窪田さんには撮影中、本当の保護者のようにケアしていただき助かりました。 そんなビハインドから"本番"へのチューニングが凄すぎた... 蓮佛美沙子さんが演じてくださった圧倒的な瞳を、多くの観客の方々に喰らわせたいと監督として強く思っています」(齊藤)
映画『スイート・マイホーム』に出演者として関わるということは、すべての二面性や両極に触れ、表現できるということでもある。

蓮佛美沙子/MISAKO RENBUTSU
1991年2月27日生まれ、鳥取県出身。市川崑監督の映画『犬神家の一族』(2006年)で女優デビュー。滝田洋二郎監督『バッテリー』(07年)でヒロインを、大林宣彦監督『転校生 -さよならあなた-』(07年)で初主演。同年、キネマ旬報ベストテンと高崎映画祭で新人女優賞を受賞。他の主な出演作に、『君に届け』(10年)、『白ゆき姫殺人事件』(14年)、『記憶屋 あなたを忘れない』 『天外者』(ともに20年)、実写版『鋼の錬金術師』(17年・22年)など。齊藤工監督『スイート・マイホーム』(23年)では主人公の清沢賢二の妻・ひとみを演じる。

230904-sub1.jpg

『スイート・マイホーム』
●監督/齊藤工●出演/窪田正孝、蓮佛美沙子、奈緒、中島歩、里々佳、窪塚洋介、根岸季衣、松角洋平ほか●2023年、日本映画●113分●配給/日活、東京テアトル●2023年9月1日より、TOHOシネマズ日比谷ほか、全国にて公開 ©2023『スイート・マイホーム』製作委員会©神津凛子/講談社

合わせた読みたい
齊藤工の目に映る里々佳、愛らしいネイバーフッドガールの先にある虚無感。
窪塚洋介と齊藤工の間にあるもの。
齊藤工が託した、もうひとつの母性・根岸季衣。
「癖」を大胆に演じる俳優・中島歩と、監督・齊藤工。
齊藤工が撮った、弱さや戸惑いを演じきれる人・松角洋平。
齊藤工が窪田正孝を選んだ理由、そして窪田正孝が出演した理由。
大ブレイク女優・奈緒の優しさと儚さを、齊藤工が撮る。
齊藤工が映像化した『スイート・マイホーム』、原作者は美しき女性作家・神津凛子。
齊藤工、『スイート・マイホーム』の旅。

TAKUMI SAITOH

ナビゲーター役の NTV「こどもディレクター」(水曜 23:59~)放映中。出演映画『カミノフデ~怪獣たちのいる島~』が 7月26日公開。企画・プロデュースした今冬公開の児童養護施設のドキュメンタリー映画『大きな家』に続き、ハリウッド映画『ボクがにんげんだったとき/When I was a human』のエグゼクティブプロデューサーも務める。www.b-b-h.jp/saitohtakumi

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

Business with Attitude
Figaromarche
あの人のウォッチ&ジュエリーの物語
パリシティガイド
フィガロワインクラブ
BRAND SPECIAL
Ranking
Find More Stories