グルメ班のおいしいこぼれ話 Vol.5 フィガログルメ班を唸らせる、ニッポンの美酒。

Gourmet 2023.07.18

フィガロのグルメ班が、足を使ってかき集めたおいしいネタを座談トーク! 最新ニュースから推しグルメまで、食いしん坊なら押さえておきたい耳寄り情報をテーマ別にお届け。第5回はヴィンテージ日本酒からレアワインまで、日本が誇るエクスクルーシブな美酒を、本誌グルメ担当のまりモグとFIGARO.jpグルメ担当のYKが語り尽くします。

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日本酒もヴィンテージがアツい! 超エクスクルーシブな熟成日本酒のお味は?

まりモグ(以下M) 今回は、最近すごい日本酒を飲んだっていう紹介をしたいと思ってます。まずは、めちゃめちゃ高額な日本酒から。「SAKE HUNDRED」っていう、日本酒の業界じゃない人が始めたハイスペックなブランドがあって、フィガロの日本酒特集でも紹介したんですけど、今年の4月にヴィンテージ日本酒をリリースしました。

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「SAKE HUNDRED 礼比」。気になるお値段は…?

「礼比(ライヒ)」という、熟成させた日本酒なんですけど、氷温熟成といって、零度以下で熟成させるんです。日本酒って熟成させると、メイラード反応(糖分とアミノ酸が反応すること)が起きて通常はキャラメル色になったりするんですけど、最初にこのお酒がグラスに注がれたのを見たとき、透明に近くて、いわゆる普通の日本酒のように水みたいな見た目で驚きました。氷温熟成で零度以下で熟成してるから、メイラード反応が一般的な熟成よりもゆるやかになるらしく、それで透明な色に近いのかもしれません。熟成期間は13年。もうめちゃめちゃコストがかかってますよね。マイナス5度で13年熟成っていうのがおもしろいとこなんですけど、お値段いくらすると思います?

YK(以下Y) 10万円ぐらいとか。

M (1本500㎖)16万5千円です。

Y これはまた、なかなか手が出にくいタイプの……。

M 数量は公開されてないんだけど、限定品になるかと。飲んだ感想ですけど、まずテクスチャーがすごかったです。ちょっとトロっとした感じですごく滑らかで。あと、フレンチオーク樽で3年間熟成させることで、ウィスキーとは言わないまでも、ちょっと香ばしい感じの、バタースコッチを思わせるトーンがあるんです。でも飲むとそれほどクセはなく、透明感のある綺麗な日本酒といった感じで……。すごく応援したいんですけれど、なかなか買えないし、飲める機会もあんまりないのかなと。

Y なるほど。熟成酒とか古酒とか結構好きですけど、基本的に見た目は紹興酒に近くなるじゃないですか。

M うん、普通はそうなりますよね。

Y 熟成香というか、ドロッと甘くなってきた感覚を楽しむというのが古酒の魅力なのかなと思ったんですけども、それとはまったく違う概念なんですね。

M 食事とも合わせやすいし、逆に食事のあとのハードリカー的な感覚でも楽しめるし、二刀流で楽しめるというか。ただ、いかんせん値段が……(二回目)

Y 氷温熟成ってことは、13年前からそのために仕込んでたってことですよね? すごいですよね。先見の明というか。

M そうなんですよ。満を持して今回ようやくお披露目にいたったわけで。日本酒って国内での消費はすごく落ちてるけど、海外への輸出は増えていて、ボルドーワインじゃないけど、そういう風に熟成しておいしい日本酒っていうのは、ブランドとして世界に進出する上では強みになるんじゃないかと個人的には思っていて。海外ではそういうの好まれますよね。

Y 焼酎業界も、蔵に眠ってる、言うなればウィスキーみたいなものが結構あるらしいんですよ。市場が狭かったり、売り方がめちゃくちゃ難しい古酒なんですが、それをボトリングする「HITOYO」っていうブランドの動きがあったりしますが、トレンドなんですよね。きっと日本酒においても。

M それを日本酒メーカーじゃないところが始めたっていうのも興味深く。今回は永井酒造さんっていう、「水芭蕉」を造っている群馬の酒造とコラボしているんですが、ほかにもいろいろな酒造とタッグを組むことで、さまざまなタイプの日本酒をリリースできるんですね。敢えて自社蔵を持たない、という発想はイマドキだなと思いました。礼比に関してはなかなかお目にかかる機会はないと思われますが、皆さんもしチャンスがあったら、お見逃しなきように。

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その土地のオリジナルの酵母から、日本酒の魅力を再発見!

M もうひとつは、歴史ある信州の老舗酒造の「山三酒造」から、新銘柄が出たという話題です。

ここの創業は1867年で慶応三年、江戸時代の末期。老朽化と作り手の高齢化で2015年から動いてない状態だったのが、別の業界の人が再始動させて、初めてリリースしたのが新銘柄「山三」。昔ながらのパッケージのものもあるんですけど、ロゴとかをちょっといまっぽくしたりして。日本酒を飲み慣れてない人にも飲んでもらおうという試みでやっているということでした。個人的にいちばん興味深かったのは、日本酒造りに欠かせない酵母に「アルプス酵母」を使っている点。有名どころなら、「新政」だったら“きょうかい6号”、「真澄」だったら“きょうかい7号”っていう酵母を使ってるんですけど、ここのはアルプス酵母という長野生まれの酵母なんですよ。ちょっとりんごっぽい酸味が生まれたりする。アルプス酵母の日本酒って、長野ならではだなあと。そこにちょっと感動しました。

Y 先日岩手の酒蔵に取材に行った時にも、やっぱり独自の酵母で「ジョバンニの調べ」というのがありましたね。お米だけじゃなく、酵母もその土地の味わいを出していくんだなあと。

M 酵母でもテロワールを感じられるのがおもしろいですよね。日本酒だと、海外じゃないからその土地のこともなんとなくわかるし、楽しみ方のひとつとしていいのかなと思いました。「山三」は味もすごく綺麗で、日本酒エントリー層に向けたっていうだけあって、昔ながらの酒らしさはないんですけど、すごく綺麗でおいしいお水を飲んでいるかのようなさわやかさが印象的。日本人としては、日本酒を飲む人が少ないのがちょっと悲しいですね。一応、国酒なのに。

Y ワイングラスで飲む日本酒とかも結構おいしかったりしますよね。僕、住んでるのが世田谷で、東京農大が近いんですよ。東京農大って、大学のキャンパスは経堂の方にあるんですが、彼らのアンテナショップが、世田谷代田の駅のすぐ近くにあって。結構な頻度で土・日に農大の醸造科の先生が、全国の日本酒を集めて試飲会と即売会をやってるんですね。その先生がめちゃくちゃ話上手で。「飲んで気に入ったら買ってね!」ってスタイルで。かなりオススメです。

M 酒蔵を取材させてもらうと、地方の蔵でも当主とか杜氏の方が東京の大学出身だったっていうのがすごく多くて。で、大学名を聞くと、東京農大っていうケースが多数でした。酒蔵あるあるですが、酒造の跡取りは東京農大出身者が多く、同級生にも同じような立場の人間が何人もいるっていうときもあるそうですよ。

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世界に誇る、ニッポンのワイン。グルメ班が現地で発掘したレアワインとは?

Y うちの妻とその友人夫妻と4人で、山形県を北から南に下ってくるような形で、先日ワイナリー巡りをしてきました。コロナの影響で、まだそんなに見学できるところがなく、畑とワイナリー施設を見せてもらえたのは、タケダワイナリー高畠ワイナリーのふたつでしたが、ブドウが育つ現場を見せてもらえたのが、すごく勉強になりました。おもしろいなと思ったのがタケダワイナリーで「収穫ってどういう風にやってるんですか?」って聞いたら、シルバー人材センターの人にお願いしてるっていうんです。そういうところでも地域活性というか、やる気のある人たちが、毎年収穫の時期になると総出で早朝から畑作業をするっていう話をしてて。普段飲んでる日本のワインって、そういう人たちの手がかかってできているものなんだなあってしみじみ考えさせられました。現地に行ってみないとわからないこともあるものだと。

M 実際に現地では何を飲んだんですか?

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2本ほど山形産以外も混ざっていますが…。最終日に撮った空きボトル。photography: Mirei Sakaki

Y 4人で2日間で15本ぐらい飲みましたね。基本的に山形って欧州品種がめちゃくちゃ多いエリアなんですよね。いちばん気に入ったのは、赤湯っていう東北で最も古いワイナリーがあるワイナリーの密集地帯があって、そこに「地酒蔵 ゆうき」という、かなり大規模な日本酒とワインの酒販店さんがあるんですが、ブドウ農家さんとコラボで作ってるワインっていうのが結構置いてあって。その中の1本「赤湯十分一山産純粋欧州メルロビンテージ2017」は、蛇の目傘を差した着物姿の女性が描かれてある奥ゆかしいボトルでして(笑)、ちょっとジャケ買いしてみたところ、これがまあ本当にきれいなメルロで、フードフレンドリー。土の臭いがしっかりしてるのに、上品で。

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ジャケ買いしがちな編集YK、今度は「素敵すぎるワインのラベル特集」もありですね……。

M メルロらしいメルロなんですね。

Y アルコール度数は12%とそんなに高くはない。だから本当に流れるようにいただける。ラベル裏面の表記に「須藤ぶどう酒 須藤孝一」って生産者の名前、電話番号、住所まで書いてあるのもなかなかよく。

M なんか親近感感じますね、うん。

Y 生産者の顔も見えるみたいで。もともとそのワイナリーって、そんなに高級ラインを手がけてらっしゃらないんですけど、こういった酒販店さんとコラボしてとか、取り組み次第で、こういったおもしろいボトルもできちゃうんだなーって、目から鱗で。日本のワインもまだまだ、ポテンシャルというか新たな可能性があると実感できた、とても勉強になる旅でした。

M すごく飲みまくった旅だったのですね(笑)。在庫はもうなくなったの?

Y 現地でも飲みまくったし、お土産で買ってきたのもすでに無いですね。

M ちなみにサンスフルは飲みましたか?

Y あ、いただきました。やっぱり爽やかですね。結構都内でも置いてあるところが多くてうれしいです。

M 確か2000円ぐらいで買えると思うんですけど、私、これが結構好きで。ただ、開けるとき、要注意ですよね。

Y 泡が噴き出ますね。

M 本当に噴き出すんで、シンクで開けるか、下にボウルみたいなもの置いて、万が一のときキャッチできるようにしておく。これも本当に何でも、和食にも合うし、2000円台なのに万能だなあと思って。東京だと君嶋屋とかで売ってますね。

Y 宿泊したところで旅割みたいなクーポンを貰えたんですよ。4人で2日間だったので、全部で1万5000円分くらいかな? 結局、6000円、5000円、4000円ぐらいのボトルを買って、それで全て使い果たしました。

M 何飲んだんですか?

Y トラヤワイナリーの「月虎カベルネソーヴィニヨン2015」、高畠ワイナリーの樽を利かせた「2020高畠ラ クロチュア エレクトリック エン 上和田シャルドネ」、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、プティ・ヴェルドをブレンドしたフラッグシップの「高畠ワイン アルケイディア2018 セレクトハーベスト」ですね。この辺りはもはや、別格というか……。山の中のコテージを借りたのですが、庄内で取れた赤海老と、米沢牛のミスジを炭火で焼いて一緒にいただきました。

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M まあでも、日本のワインって“可愛い味”とかって表現されがちですよね。

Y 「マスカット・ベーリーA」とか、日本独自の品種があると思うんですけど、ちょっと酸味はあるけど、際立った特徴があるわけでもなく、でも果実味と甘味は強めで、何に合わせるのがいいのかっていうのが全然わかってなかったんですけど。

M 甘いものは、私、芋煮がいいと思います。

Y ああ、なるほど。山形とか東北では、それアリかもしれないですね。

M 山梨だったら鳥モツ煮みたいにちょっと甘辛く煮たやつ、山形だったら芋煮とか。醤油を使ってちょっとしっかり煮込んだもの。

Y ワインスクールで聞いたら、意外と魚介系でもいけるっていう話でした。タンニンの要素が全然関係ないから、正月料理とも相性がいいとのことで。たとえば数の子を食べているときにカベルネとかピノを飲んじゃうと、ちょっと口の中が酷いことになるじゃないですか。

M 大変なことになりますね。生臭くて。

Y そんなお節に、いいワインを合わせたいってなったら、マスカット・ベーリーAのちょっといいやつだと、ボトルを変えることなく、お節を楽しめるからいいですよっていう。まあお正月くらいは日本酒を飲めって話かもしれませんが(笑)

M 私、GWは富山に行ってきたんですね。ワイナリーは、ちょっと今回は訪ねるのを断念しちゃったんだけど、セイズファームっていう、江戸時代から続く魚の問屋が始めたすごく有名なワイナリーがあるんですね。ひとり3万円くらいする日本料理店に行った時にすごくワインが飲みたくなって、せっかくだったらと思ってセイズファームを頼んだら、ボトルにシャルドネとか、なんかいろいろ書いてあるんですけど、よく見たら、「セイズファームシャルドネ2020年 for 御料理ふじ居」って店の名前が入ってて。要は別注で作ってもらってて、ここでしか飲めないってのがすごいなーと。シャルドネなんだけど、主張が強すぎないから日本料理の繊細な味にもすごく合いました。その後にはもちろん、満寿泉をいただきました。

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富山県岩瀬地区にある「御料理ふじ居」でいただいた、満寿泉の純米吟醸の生酒。

Y グルメ班、休みになると酒蔵とワイナリーに行きがちっていう。

M フィガロジャポン編集部のあるある話(笑)

 

 

まりモグ/幼少期から北京を拠点にアジア、欧米、太平洋の島々などを旅し、モンゴルの羊鍋からフランスのエスカルゴまで、さまざまな現地の料理を食べ歩く。特に香港は、多い時で年4回のペースで通うほどの“香港迷”。食べ過ぎ飲みすぎがたたり、28歳で逆流性胃腸炎を発症。ワイン好きが高じて、2021年にJ.S.A.認定ワインエキスパートを取得。

YK/大学時代、元週刊プレイボーイ編集長で現在はエッセイスト&バーマンの島地勝彦氏の「書生」としてカバン持ちを経験、グルメの洗礼を浴びる。ホテルの配膳のバイト→和牛を扱う飲食店に就職した後、いろいろあって編集部バイトから編集者に。好きなものはオーセンティックバーとトラットリア。ワインエキスパートの一次試験が今週末!! 目を回しております。

text: Eri Arimoto

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