マダムkaoriの23SSパリコレ日記 パリコレ8日目はフレッシュなステラとサカイから。
Fashion 2022.10.24
元「フィガロジャポン」の編集長でもあり現在ファッションジャーナリストとして活躍中のマダムKaoriこと塚本香さん。
2年半ぶりにパリコレ参戦中。コレクション終盤、疲れを吹き飛ばす刺激的なランウェイが続く8日目へ。
10月3日 着たい!欲しい!ただそれだけ
ラスト2日となったパリの朝。疲れもかなり溜まっているはずなのに、ランウェイショーを生で見られる感激がそれを吹き飛ばしてくれます。ほとんどのショーがライブ配信され、世界中どこにいてもリアルタイムで同じものを見られる時代ですが、その瞬間、その場所で感じたファッションのエネルギーのようなものを少しでも伝えられたら、というのがこのパリコレ日記を書いている理由。なんだかうまく言葉にできなかった、視点が偏っていたかもと反省しきりの毎日ですが、めげずに8日目に突入します。
今回のコレクションのテーマは? という質問を私たちはよくショー後のバックステージでします。テーマやコンセプト、インスピレーション源などが書かれたリリースが会場のシートに置かれていることもあります。ランウェイで発表される服にはデザイナーたちからの大事なメッセージが込められているので、自分が目にしたものだけでなく、その背景や真意など見逃したものはないか、より深く知ろうとします。個人的にはそういうプロセスが大好きなのですが、それとは逆に、もう気分だけで持っていかれることもあります。欲し~い! 着た~い!、ただそれだけ。今日の午前中の2つのショーはまさにその典型でした。
まずは、朝イチのステラ マッカートニーから。会場はあのポンピドゥー・センターの広場です。
私がこれまで知っているステラの会場といえばオペラ座・ガルニエ宮がお約束でしたが、前シーズンに引き続きのポンピドゥー・センター、しかもステラとしては初めての屋外のランウェイ。彼女の言葉を借りると「民主的なデモンストレーション」。確かに会場を囲む道から柵越しに見ることができます。ランウェイは赤、青、黄の3本が、レンゾ・ピアノ設計の建物の回転ドアから始まり、それぞれ別のルートを描き、また建物に戻っていくという仕掛けです。
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少しだけ肌寒い、でも心地よい秋の空の下、ショーのオープニングに登場したのは、サヴィルロー仕立ての黒のオーバーサイズジャケットにアシンメトリーのスカート、メンズライクな白シャツというルック。ジャケットはゆったりと羽織るように、スカートは片側だけ長くなったヘムラインが揺れて。エフォートレスシックというステラを象徴するキーワードがすぐに頭に浮かびます。そして足元はフィッシュネットストッキングと一体になったヌーディーなサンダル。この抜け感がなんともいえずモダンでフレッシュ。これぞステラ!と思っていると、彼女の代名詞的ルックが次々に登場してきます。オーバーサイズジャケットのインやタンクトップに重ねたチェーンのボディアクセサリー、レースのランジェリードレス、スリークなローライズパンツ、コルセット付きのオールインワンやジャケット、ウエストをシェイプしたユーティリティジャケット、スカートやドレスはアシンメトリーなヘムラインがニュアンスを添えて。どこか懐かしさを感じさせるオールスターはセントラル・セント・マーチンズの卒業ショーの頃から変わらず提案しているモダンワードローブを象徴するものばかり。「さまざまな時代のステラのDNAを再定義」とショーノートでも語っているように、彼女の原点をチャーミングに進化させた最新バージョンがこの2023Summerコレクションです。
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特に90年代と2000年代を参照してアップデートしたというステラ。チェーンのボディアクセサリーを発表したのはクロエの2000年春夏ですが、そのショーにも中盤とラストに、そして今回も同じように登場したスーパーモデルのアンバー・バレッタの存在に原点と進化が重なる気がします。アンバー・バレッタ、貫禄の美しさでした。
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今回のランウェイにはもうひとつ話題となったアートとの融合も。奈良美智氏の掲げる「Change the History」というメッセージがインスピレーション源という今回のコレクション、そのメッセージは穴のあいたニットセーターに、大きな目をした女の子などの作品がドレスに描かれて。
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なにより特筆すべきは、こんなにも心ときめくアイテムの87%が持続可能な素材で作られ、これまでで最もサステイナブルなコレクションだったということ。再生ナイロンやレザーの代替素材、そして再生コットンまで使用、ラインストーンにも鉛を使わないという徹底ぶりです。サステイナブルファッションの先駆者として毎シーズンさまざまなチャレンジを続けてきた彼女ですが、自分らしいクリエイションが、そしてみんなが着たいと思う服が環境負荷を減らしながらできることをあらためて証明してくれました。”Change the History”という言葉は、彼女の次のステージを意味するだけでなく、みんなでファッションを変えていこうという明日への宣言なのです。
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そんな高揚感のまま向かったサカイ。ポンピドゥー・センターからアンヴァリットへとパリの右岸の名所から左岸の名所への移動ですが、会場で迎えてくれたのはステラのトリコロールのランウェイ以上にカラフルなシートです。なんだか楽しい気分は続きそう。
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その予感どおり、ファーストルックで完全にノックアウトされました。異なるアイテム、異なるイメージを合体させるハイブリッドなルック。デザイナーの阿部千登勢さんお得意のアプローチですが、いつも以上にハッとさせられる感じ。タキシードジャケットと白シャツが一体化して、全体にプリーツが施され、シルエットはAライン。パンツにもプリーツがたたまれ、ふくらはぎあたりからフレアラインを描いて広がっています。このプリーツが今回のコレクションの鍵。トップのタキシードだけでなく、MA-1やトレンチコート、ブレザーなどの定番アイテムにさまざまにアレンジされています。そのプリーツと合わせて、ベルスリーブだったり極端なパフスリーブだったりと袖のフォルムが絶妙。ファーストルックでも内側をカットしたベルスリーブから腕を出してポケットに両手を突っ込んで歩く姿がカッコよかったのですが、40ルックすべてのモデルが同じアティチュード。そのためなのか大きなアウトポケット付きのベルトも登場して。モデルたちはそのポーズで凛とした表情でランウェイを闊歩していきます。
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バックステージで「自由な気持ちとポジティブな意志を表現したかった」と語った阿部さん。ランウェイに登場したポリウレタンのオールインワンに書かれていたのは、リゾの曲「About Damn Time」の1フレーズとのことですが、フィナーレにも同じ曲が流れました。「I GOT A FEELIN' I'M GON' BE ALRIGHT」という歌詞は阿部さんの気持ちを代弁するメッセージ。私はもう大丈夫、これからは強い意志を持って自由に前へ進んでいく、と語りかけてくるようなコレクションに最大級の拍手をおくります。その思いがファッションの力であり、着る人にたくさんのエネルギーを届けてくれるのだから。
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さて、着たい気分いっぱいのリアルな2つのショーを終えて、午後はトム・ブラウンのファッションファンタジーの世界へ。会場はオペラ座・ガルニエ宮。いつも舞台のようにドラマティックな彼のランウェイにぴったりの場所です。大きな靴のセットから「シンデレラ」のストーリーを想像したのですが、前半はパステルトーンの背番号入りオペラコートが次々に登場、後半はそのコートを脱いで大きなドットのセットアップを披露、ラストはなぜかパンクなプリンセスに変身するというストーリー。なんだか魔法にかけられたようなちょっと不思議なシンデレラ、でもこんなランウェイ、トム・ブラウン以外の誰にも表現できません。
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Re-seeを回って、残念ながらGermanierもAZ Factoryもチケットが届かなかったので、今日はこれにて終了。
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で、おまけのパリ便りは、私が滞在しているサン・ドミニク通りのミニミニ案内。左岸の7区にあるこの通りはサンジェルマン大通りから枝分かれした地点から、アンヴァリッドを横切ってエッフェル塔近くのAvenue de la Bourdonnais(ブルドネ通り)まで続く長い通り。ホテル周辺は庶民的な商店街のようと以前の日記でもお伝えしましたが、カフェやブティックだけでなくチーズ専門店、ワイン屋、おしゃれな店構えの八百屋や肉屋も並んでいます。
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エッフェル塔に近くなると、ビストロやブラッスリーが増えてきて、ビストロ通りとも呼ばれてるいるとパリ在住の友人が教えてくれました。この7区にはいまは亡きカール・ラガーフェルドやカトリーヌ・ドヌーヴ(たぶんいまもそうだと思うのですが)も住んでいるような高級住宅街もあって、そういう富裕層を常連客にしようとビストロが増えていったそう。メインの通りだけでなく、ちょっと脇道に入ったところにもそんなビストロがたくさん。
日本でも知られている1908年創業の老舗ビストロ「La Fontaine de Mars/ラ・フォンテーヌ・ド・マルス」があるのもこの通り。ツーリスト客も多いのですが、伝統的なビストロそのもので、ここで喧騒のなか食事をしていると、パリに来た~という気分に浸れるはず。お料理もクラシックな昔ながらのフランスの味なので、エッフェル塔で夕暮れの景色を楽しんだ後に立ち寄るのもおすすめ。
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もう少しおしゃれなムードを体験したいなら、ブティックホテル、Hotel Thoumieux(オテル トゥーミュー)1階の「Brasserie Thoumieux/ ブラッスリー・トゥーミュー」もいいかも。ちょっとひとりで行くのは躊躇してしまい、私はホテルのリコメンドのもっとカジュアルな「Bar de Central」を利用していましたが。手軽にご飯が食べられて、お店の雰囲気も悪くない。とびきりおいしいわけではないですが、パリらしいメニューは食べられます。こういうなんでもない店も悪くない。
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ブーランジェリーが何軒もあって、日本にも上陸している「LIBERTE/リベルテ」が同じ通りにあることもお伝えしましたが、なんともう一軒、すでに日本上陸のパティスリーを発見。2年前に東京・神楽坂にオープンした「Aux Merveilleux de Fred/オー・メルベイユ・ド・フレッド」の小さなショップがオープンしていました。東京ではカフェも併設、フランスパンも人気ですが、このサン・ドミニク通りのショップで扱っているのは店名にもなっているお菓子、メルベイユとメレンゲ、ベルギーワッフルなど数種のみ。北フランスとベルギーのフラマン地方で作られているメレンゲの伝統菓子をパティシエのフレデリック・ヴォカンが現代風にライトにアレンジしたメルベイユはメレンゲにホイップクリームをのせてダークチョコでコーティングしたもの。ホイップクリームのフレーバーやコーティングをキャラメル、コーヒーなどに変えたバリエーションも揃ってます。大きなケーキタイプからひと口サイズまであるので、ひと口サイズのフレーバー違いをボックスに詰めてお土産にも。私は2つだけ買ってホテルのお部屋でいただきました。
さあ、パリコレも明日が最終日。今日以上に盛り上がりそうです。
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Vol1.ファッションジャーナリスト塚本香の23SSパリコレ日記スタート!
Vol2.Blackpinkのジスに遭遇! 感激のパリコレ2日目へ。
Vol3.ドリス ヴァン ノッテンに胸を熱くしたパリコレ3日目。
Vol4.4日目はクロエのショーからスキャパレリの展覧会まで。
Vol5.折り返しの5日目は待望のロエベ、おいしいディナーも。
Vol6.パリコレ日記、美しく語りかけてくるファッションとは?
Vol7.パリコレ日記7日目、疲れを吹き飛ばす感動のショー。
ファッションジャーナリスト/エディトリアルディレクター。
1991年より「フィガロジャポン」の編集に携わる。「ヴォーグ ジャパン」のファッションディレクターを経て、2003年「フィガロジャポン」編集長に就任。その後、「エル・ジャポン」編集長、「ハーパーズ バザー」編集長とインターナショナルなファッション誌の編集長を経験し、今年からフリーランスとして活動をスタート。このコロナ禍までは毎シーズン、パリ、ミラノ、ニューヨークの海外コレクションに参加、コレクション取材歴は25年以上になる。
Instagram:@kaorinokarami
text & photography: Kaori Tsukamoto