マダムkaoriの23SSパリコレ日記 パリコレ日記最終日はシャネルとミュウミュウ、LVへ。
Fashion 2022.11.01
元「フィガロジャポン」の編集長でもあり現在ファッションジャーナリストとして活躍中のマダムKaoriこと塚本香さん。
2年半ぶりにパリコレ参戦中。9日間のコレクション日記も今日で最終日です。
10月4日 à bientôt
Bonjour, Parisな毎日も最終日。9日間に及ぶ2023年春夏パリコレクションが終わります。長かったような短かったような。まあ、東京に帰ってまでやり残した宿題のように日記を書いていた私にとってはエンドレスだったとも言えますが。でも、10月4日のパリは太陽の光が心地よく(今日は雨も降らない予報です)、いつもどおりのクロワッサンとカフェクレーム、そして今日はパン・オ・レザンで朝から糖質補給でスタートです。ちなみに今日のパンはお隣でも「Liberte」でもなくホテルからは1ブロック先の「La Parisienne」のもの。2022年に3度目のバゲット大賞を受賞したブーランジェリーのようです。夕方になるとどのブーランジェリーもですが、行列ができてました。
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さあ、いよいよシャネルです。でも、その前にこの23年春夏プレタポルテの出発点でもある映画、アラン・レネ監督の『去年マリエンバードで』について。製作は1961年、当時78歳だったガブリエル・シャネル自身が衣装を手がけたことでも知られるこの作品、2017年にシャネルのサポートでデジタルリマスター版が完成しています。大昔に私も見たことはあるのですが、覚えているのはフランス風庭園に男女が点在しているというシーンのみ。脚本はヌーヴォーロマンの旗手、アラン・ロブ=グリエなので、いわゆる話の筋はないようなもので、思い出せなくて当然なのですが。バロック風宮殿のようなホテルに滞在している男Xと女A、男は女に昨年もここで出会ったと話しかけ、女は会ったことがないと答える、そのふたりの会話が場面を変え、過去と交錯しながら続いていくというのがストーリーといえばストーリー。その女Aを演じるデルフィーヌ・セイリグが纏うのは、ガブリエルがデザインしたシフォンのケープやフリルをあしらったリトルブラックドレス、その黒と対照的な白のケープスリーブドレス、スパンコールやラメのような輝きを感じるドレス、襟元や袖にフェザーをあしらったガウンなど。モノクロの画面から、彼女のゆっくりとした仕草とともに、シャネルらしい究極のシンプルエレガンスが香ってきます。女Aの圧倒的な存在感はこの衣装の力も大きい。バイカラーシューズやコスチュームジュエリーなど惹きつけられるポイントがいくつもあります。
と、映画の説明が長くなってしまいましたが、これから始まるショーはいかに? ホテルから徒歩圏内の今回の会場は左岸にあるGrand Palais Éphémère(グラン・パレ・エフェメール)、シャネルのショーはずっと右岸のGrand Palaisが会場でしたが、現在は修復中。ここは、その間にグランパレに代わるイベントホールとして作られたもので、24年のパリオリンピックの柔道やレスリングなどの競技場として使用される予定とか。遠くにエッフェル塔が見えます。これがパリコレ最後のエッフェル塔カットですね。
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さて、会場に入って最初に目にするのは床から壁まで全面に貼られた写真のコラージュ。ガブリエルのポートレートあり、クリステン・スチュワートが登場する今コレクションのイメージ写真あり、『去年マリエンバードで』のスチール写真あり、そのなかに現アーティスティックディレクターのヴィルジニー・ヴィアールの写真も。招待状もそうでしたが、コラージュというのも今回のキーワードかもしれません。映画も、現在と過去の断片をつなぎ合わせるように進んでいくのですから。
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その奥の部屋が長い長いランウェイ。シートに座ると目の前の壁はランウェイに沿って続くスクリーンで、そこに映されるクリステン・スチュワートのティザー動画が『去年マリエンバードで』に変わったと思ったら、いよいよショーの開幕です。ファーストルックはさきほどのコラージュをプリントしたスウェットとランジェリー風のショートパンツ。肩に羽織ったシフォンのロングケープが映画の衣装とリンクしつつも、モデルAはもっともっと現代的。
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ヴィルジニー・ヴィアールが「断片を自由に散策するようにイメージした」と語った今回のコレクションは、過去と現代をコラージュしたモダンエレガンスの提案。ツイードはホワイトやエクリューの軽快なジャケットに、はたまたパステルカラーのヴィシーチェックのオールインワンに。スパンコールで描くロゴマークは白のパジャマスーツや黒のミニドレスにのせて。映画を思い出させるゴールドの輝きやフェザーの装飾、そしてたくさんのリトルブラックドレスも現代的にアップデート。彼女はさまざまなシャネルの断片を集めてそれをフレッシュに刷新して見せてくれた。ファーストルックでも印象的だったランジェリー風ショートパンツ、フィッシュネットソックスと一体化したバイカラーシューズも彼女ならではの斬新なピースです。
このコレクションを象徴する”Allure”という単語、avoir l’allureと使うと洗練と特性を持っているという意味にも。ヴィルジニーが描いたコラージュはそれぞれのアリュールを放つ自由な女性たちのための服。
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ラストデーなのでもうショーだけに集中して、次はミュウミュウです。会場はいつもと同じイエナ宮。オンタイムで到着するとまたもやすごい人だかりですが、その理由はすぐにわかりました。韓国のガールズグループIVEのメンバー、ウォニョンの登場です。ミュウミュウの公式アンバサダーに抜擢された彼女はまだ18歳、たくさんのカメラに応えて何度もポージングをとる姿が可愛い! もちろん私も遠くから撮影。
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さまざまなアーティストとのコラボレーションでデザインされるミュウミュウのランウェイですが、今回は中国人アーティストのシュアン・リーをフィーチャー、彼女が今回のために作ったオリジナル映像が壁に映されています。筒状の黒いシートは海底を走る電線を表現しているとか。そんなデジタルな空間で始まったランウェイに最初に登場したのは俳優のユアン・マクレガーの娘、エスター・ローズ・マクレガー。そのファーストルックはちょっと衝撃!でした。 あまりにも普通のアイテムの普通でないスタイリング。白のリブのTシャツドレスにベージュカーキの濃淡の長袖Tシャツ、さらにグレーのキャップスリーブスウェットを重ねるというスーパーレイヤード。ただのTシャツを合わせただけなのになんでこんなにおしゃれに見えるんだろう? 微妙なカラーグラデーション、微妙なネックラインやレングスのずらし方、そのバランスがこのルックをモードに仕上げている。さすが、ミウッチャ。そしてスタイリストのロッタ・ヴォルコヴァの手腕も。
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このスピリットはその後も続きます。Tシャツレイヤードにスーパーシンプルなナイロンのウインドブレーカーを羽織ったり、ビーズやラインストーン刺繍の透けるスカートを合わせたり。ここ2シーズン、ミュウミュウの代名詞となったY2Kなお腹見せのスタイリングも継続。クラシックなテーラードジャケットは裾や袖の裏地を見せて、インにはジャケットと同素材のブラトップとデニムのスーパーミニからロゴ入りショーツをのぞかせて。今シーズンのパリコレで目立ったアウトポケットはミュウミュウでも。トラッドなプリーツスカートはダブルポケットのベルト付き、ストーンウォッシュのレザーやデニムのスーパーミニにもスカート丈いっぱいの大きなポケットを配して。バックル付きのブラトップも登場してどこかアウトドアなムードを醸しています。
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ラストルックに登場したのはFKAツイッグスでしたが、彼女のルックもトップと同じで普通のアイテムだけのルック。白シャツとネイビーのリブセーターにポケットベルトを合わせただけ。でもやっぱりモードを感じる。ミウッチャ・プラダの服はときにバナルシックと形容されますが、今回もその延長線上のひとつ。ありふれていても退屈じゃない。グレーやベージュのニュートラルカラー、Tシャツやプリーツスカート、テーラードジャケットのベーシックアイテム、デザインは徹底してシンプル。でもどこかに普通ではないツイストが隠されている。それこそがミウッチャの感性で、それがこの高揚感を呼び覚ましてくれるのです。
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いよいよ私の23年春夏パリコレもこれがラスト。いつもと同じルーヴル美術館の中庭、クールカレに会場を設置してのルイ・ヴィトンのショーです。ランウェイは中央の真っ赤なオブジェを囲むように。宇宙船かなテントかなと思ったこのオブジェはアーティストのフィリップ・パレーノが手がけた「モンスターフラワー」。確かに中央にめしべやおしべが見えますね。
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ショーは「イカゲーム」でブレイクしたチョン・ホヨンの登場でスタート。彼女は昨年ルイ・ヴィトンのグローバルアンバサダーに就任、前シーズンに続いてオープニングを飾ります。彼女の着るファーストルックからもわかるように、巨大化したメゾンのアイコンが今回のキーモチーフ。ジッパーやロック、クラスプ、バックルなどを拡大して、レザースーツにプリントしたり、Aラインのドレスのパーツにしたり。そうしたプレイフルなディテールがシンプルな服にグラフィックなインパクトを作り出している。キーホルダーやラゲージタグをモチーフにしたバッグも楽しい。
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そんな視覚効果と並んで目を奪われるのは、ショー中盤に続くミニドレス群。立体感のある総刺繍、レース、シフォンなど、手をかけた贅沢な素材使いはまるでクチュールのよう。クリスタルをちりばめたレースタイツにハードなサイドゴアブーツを合わせたコーディネートでモダンさも忘れていない。巨大ジップにアウトポケットも加えたグラフィックなドレスで幕を閉じたコレクション。ショーノートで今回のテーマをフェミニニティへの挑戦と語っているウィメンズ アーティスティック・ディレクター ニコラ・ジェスキエール。彼の考えるフェミニニティはこの言葉の古い規範を打ち破るものです。強調されたディテールがそれを具現化しています。自分のアイデンティティをしっかりと主張し、タフに進むのが現代のフェミニニティ。メゾンのアーカイブと自由に戯れながら、それが彼のいちばん伝えたかったことなのでしょう。
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終わり良ければすべて良しとウキウキとルイ・ヴィトンの会場を出たところで、Kōki,さんにばったり遭遇。彼女のカバー撮影をしたのはパンデミック前だからもう3年以上あれから経っている? その間にすっかり大人の顔になったみたい。ヴィトンの会場を背景に、前髪ありのヘアスタイルになった彼女を撮影させてもらいました。
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さてさて、これで9日間のコレクション取材はすべて終了。持ち帰りの宿題も終わった〜! 2年半ぶりに生で見るショーに興奮したり感動したりの毎日。そんな気持ちをストレートに書いたパリコレ日記、楽しんでいただけたでしょうか。バレンシアガのデムナが今回のショーレターに書いていたように、ファッションに説明はいらない、自分の目で見て好きか嫌いか、ただそれだけ、というのはそのとおりだと思います。最後はその服に自分が心動かされるかどうか。でも、私はその服を作った人、その服が生まれた背景を知ることに意味がないとは思えない。私の解釈や感想とは違ったとしても、デザイナーがそれぞれにメッセージを発信するコレクションという場に目を向けてほしいというのが、この日記を寝不足になりながらも書き続けた理由。デジタルでもショーを見ることができる時代ですが、やっぱりその場にいたからこそ感じられるものもある。そんなファッションの熱量が少しでも届いていますように。
Merci mille fois et J’espère à bientôt.
Vol1.ファッションジャーナリスト塚本香の23SSパリコレ日記スタート!
Vol2.Blackpinkのジスに遭遇! 感激のパリコレ2日目へ。
Vol3.ドリス ヴァン ノッテンに胸を熱くしたパリコレ3日目。
Vol4.4日目はクロエのショーからスキャパレリの展覧会まで。
Vol5.折り返しの5日目は待望のロエベ、おいしいディナーも。
Vol6.パリコレ日記、美しく語りかけてくるファッションとは?
Vol7.パリコレ日記7日目、疲れを吹き飛ばす感動のショー。
Vol8.パリコレ8日目はフレッシュなステラとサカイから。
ファッションジャーナリスト/エディトリアルディレクター。
1991年より「フィガロジャポン」の編集に携わる。「ヴォーグ ジャパン」のファッションディレクターを経て、2003年「フィガロジャポン」編集長に就任。その後、「エル・ジャポン」編集長、「ハーパーズ バザー」編集長とインターナショナルなファッション誌の編集長を経験し、今年からフリーランスとして活動をスタート。このコロナ禍までは毎シーズン、パリ、ミラノ、ニューヨークの海外コレクションに参加、コレクション取材歴は25年以上になる。
Instagram:@kaorinokarami
text & photography: Kaori Tsukamoto