40歳を迎える齊藤工に、担当編集者たちから熱いメッセージ。
「齊藤工 活動寫眞館」について 2021.08.20
俳優・斎藤工が、アーティスト・齊藤工として手がけるモノクロ写真。尊敬する人、会いたい人にカメラを向け、シネマティックな瞬間を求めて、被写体の表情と佇まいを写し取る。フィガロジャポン本誌の連載「齊藤工 活動寫眞館」は、2021年10月号でとうとう50回目を迎えた。そして、今年8月22日に40歳の誕生日を迎える齊藤工がトライしたのはセルフポートレート。自らを被写体にした齊藤の、本誌には未掲載のカットをここに公開する。今回は特別に、いままでの「活動寫眞館」担当編集者たちが齊藤との思い出やメッセージを綴る。
思い返せば2015年9月号「新モード、新シネマ、新ロマンティック。」という特集で、「映画のロマンティシズムに関して語ってください」とお願いしたのが齊藤工との最初の出会いだった。
渋谷のスタジオで会った時、「ロマンティック、という言葉を辞書で引いてみました」と唐突に話してくれ、おもしろい人だな、と驚かされた。その時、齊藤さんが選んだロマンティックな映画5本はチャップリンの『街の灯』、ジャッキー・チェンの『奇蹟 ミラクル』、ウォン・カーウァイ『恋する惑星』、ボギーの『カサブランカ』、そして井口昇監督『わびしゃび』。インタビューのテーブル上に置いた井口監督のDVDを見て、齊藤さんがくすりと笑ったことが記憶に残っている。
その後、17年5月号「Je♥Paris いつだって、パリは私たちを待っている。」でパリジェンヌのカメラマン、ソニア・シエフの撮影したモノクロ写真に写って表紙に登場。そのご縁もあって、この年の9月号(7月20日発売号)から連載「活動寫眞館」はスタートした。
この「活動寫眞館」というタイトルを決めたのも、モノクロポートレートを撮りたい、とはっきり主張してくれたのもすべて齊藤さん自身。フィガロジャポン編集者たちは、サポートはしているが、彼の強いエネルギーにいつも引っ張られている。
2017年5月号の表紙。撮影したソニア・シエフは有名なフォトグラファー故ジャンルー・シーフの娘。ソニアは、パリの街をバイクで疾走する豊かな金髪の美女である。
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昨年コロナ禍になる前は、映画やドラマの撮影で齊藤さんが独自に撮影する時以外は、フィガロジャポン編集者たちも現場にうかがっていた。
今回は、初代の担当編集者から現在の担当者まで、齊藤さんとのシネマティックな時間について語ってみたいと思う。
今回、齊藤さんは2回セルフポートレートを撮影し、送ってくれた。madameFIGARO.jpで紹介するのは2回目に送られてきた写真からの抜粋。フィガロジャポン本誌では初回に送ってきてくれたものを掲載している。
同い年の男性から見た齊藤工。
最初に担当となったのは、ビューティエディターの編集TM。現在はフリーランスの編集者として活躍中だ。以下の言葉で彼自身も書いているが、齊藤さんとは同い年。誕生日もほど近いが、TMは、乙女座である。
「毎回、被写体と最小限の会話を交わし、呼吸を合わせていくようにシャッターを切る。齊藤工の、ある意味で秘技とも言えるであろう“歩幅合わせ力”はハンパない。たとえば、故・江波杏子さんの撮影をした時。とある六本木のギャラリーでの撮影で、その場にいたキュレーターと齊藤さんはごく自然に会話をしていた。自ら声をかけていた、と記憶する。それは優しさや気遣いとかそういったことではなく、そこに人がいるから話をする、というようなスタンスだ(と思う)。そもそもその日は『時代を背負ってきた、気迫というか強さを感じる』と江波さんを称え、いつもの撮影よりも緊張もしている気配だった。しかし、レジェンドを前にしてでも、キュレーターの方にも、当時担当だった私にも、並列で接する。なかなかできないことだと思う。どこかしらで、おもてなしの優先順位や気配りバランスが乱れるのが普通。でも、それがない。1981年8月生まれ──私とまったく同じ年月を生きてきた人物とは思えぬ、このシンプルな達観性。その空間に生きる人と、言葉交わさずとも歩幅を合わせる術は、初回の撮影の緊張感をすっと解いてくれた。それをはっきりと覚えている。役者として映画監督として、そして“心への接近写真家”としての素晴らしき才能はいわずもがな。無理せずおごらず人間と向き合い、それぞれの本質をゆっくりと見射抜いていく。それが齊藤工の超・カッコいい部分だと思う。連載が始まる初回の打ち合わせの際、彼はこう言っていた。『なんというか、その“人”を撮りたいだけなんです』。短い間ではあったが、彼の連載を担当していく中で、その意味ははっきりと理解できた。齊藤工は、“偉大なるタメ”である」
何事にも誠意に向き合い、インスパイアされる女性編集者より。
次は、いままででもっとも長く担当することになったベリーショートヘアの編集YUKI。彼女はフィガロジャポン編集部いちの善意と誠意のエディターで、外部スタッフからの信頼もすこぶる厚い。
「『活動寫眞館』で毎回実感していたのは、被写体に対する齊藤さんの大きなリスペクトだった。敬愛する先輩俳優から知る人ぞ知る若き才能まで、その人とカメラを挟んで相対する時、それはいつも変わらない。穏やかな佇まいで、丁寧に言葉を交わし、限られた時間の中で、齊藤さんにしか実現できない距離感で、はっとするほど魅力的な表情をとらえていく。さらには撮影にとどまらず、齊藤さんは被写体の方々と信頼関係を築いてさまざまなプロジェクトを実現し、フィガロがその伝え手として関わることも少なくなかった。私が担当となって間もない2018年6月、俳優・片岡礼子さんの撮影日に、憧れの存在だった片岡さんのために、齊藤さんは予定より早く現地に入り、いっぱい蚊に刺されながらロケハンを万全にして待機してくれていた。初対面だったおふたりの話は尽きず、クレイアニメーションを作るという夢の種が撒かれた、その美しい瞬間に立ち会えたことは忘れられない。課題が出現するたびに、齊藤さんが“片岡さんの思いを大切にしたい”と皆に伝え続けてくれたことで、当初のピュアなエネルギーにあふれた『オイラはビル群』が誕生した。シシド・カフカさんとは映画『家族のレシピ』でコラボレーション、現在は齊藤さん主演のドラマ「漂着者」で共演中。すらっとした長身のふたりはともに静かな優しい雰囲気を纏い、とてもカッコよかった。誌面でその様子を伝えることができなかったけれど、いまテレビで観られて感無量である。また、北海道出身という共通点をもつ大政絢さんとトム・ブラウンさんは、19年9月に北海道のむかわ町で開催された、齊藤さんのライフワークである「シネマバード(cinéma bird 移動映画館)」に出演。前年の北海道胆振東部地震の影響がまだ残るこの土地の人たちに極上の映画体験を届けたい、との齊藤さんの思いから企画された。このイベントを体験したい!と編集KIMと私も北海道へ向かい、『活動寫眞館』番外編としてレポートした。担当編集者の役割は読者と取材対象を繋ぐために現場に立ち会い、話を聞き、最良の形で届けること。時に力及ばず、もどかしい思いをさせてしまったのではと反省は尽きないが、齊藤さんはどんなに忙しくても、どんなにスケジュールが迫っていても、『活動寫眞館』をベストな形にしたいとの強い意志を持って関わってくださることにいつも背中を押されていた。チームの一員でいられたことを幸せに思うとともに、きっと齊藤さん自身の活動と呼応しながら進化していく『活動寫眞館』を、いまは読者のひとりとしてとても楽しみにしている」
金曜ナイトドラマ「漂着者」の撮影の合間に、ラフな姿の自身を捉えてくれた。
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マイペースなモード編集者の目に映る齊藤工は…‥?
3番目に現担当者、編集KT。彼は齊藤さんと同じくらいのノッポさんで、ファッションエディターである。超級マイペースなレフティ。
「この連載を担当するようになったのは、女優・夏帆さんにご出演いただいた第46回から。とはいえコロナ禍のこんなご時世、そして多忙を極める被写体のみなさまのスケジュールを考えると撮影の都度スタッフ全員が集まるのもなかなか難しく、齊藤さんと直にお会いしたのは第48回のモデル・UTAさんを撮影した時のみ。しかし、画面越しの“斎藤工”しか知らなかった僕にとってはたった一度だけでも十分に印象的だった。昨年フィガロジャポン編集部に入るまで、芸能界の方々とお仕事をする機会があまりなかったことも手伝って、齊藤工さんと一緒にページを作る、というだけでいろいろと思考を巡らせていたのだが、いざお会いすると想像していたような緊張感はなかった。フラッとスタジオに現れ、UTAさんや僕ら編集と近況報告混じりのカジュアルな挨拶を交わし、撮影では淡々とシャッターを切る。その佇まいは普段の撮影でご一緒するスタッフとなんら変わらず、ごくごく自然体。そして、自分もそうだからわかるのだが、きっと齊藤さんは人見知りだ。でも、決して壁を作らないタイプ。UTAさんとのやりとりを見ていてそんなことを勝手に感じた。本誌に掲載したご本人の『“被写体と自分の絶妙な距離”の一本刀のみでこの連載を続けている』という言葉の通り、齊藤さんのニュートラルなスタンスが生む距離感こそこの連載の醍醐味。40歳を迎えた今後、どんな被写体の、どんな表情を切り取ってくれるのかがいまから楽しみだ」
映画を愛する人のサポーターである担当デスクいわく……
最後に、ずっと「活動寫眞館」の担当デスクをしてきた私、編集KIM。映画が好きな私は、映画愛にあふれる齊藤さんを敬愛している。他者を至極冷静に、かつ温かい気持ちで眺めているその姿を、私自身も「観察」している。そして齊藤さんの表現する言葉に、いつも興味深く聞き入っている。このmadameFIGARO.jpの「活動寫眞館について」を過去までさかのぼって読んでもらうと、齊藤さんがいかに人間をじっくり見て味わっているかがわかる。
新作のPRのために舞台挨拶をすれば、誰よりも落ち着いていて、壇上でそわそわ動いたりせず、軸がぶれずにどっしりした佇まいで立っている。ファンの方々はそのことに気づいているはずだ。
齊藤さんのおかげで、知らなかった映像クリエイターや若手のアクターや、著名な俳優陣やタレントの方々にもお会いすることができた。中川大志さんとフシギなカフェにこもったり、編集YUKIも触れているが片岡礼子さんと『オイラはビル群』というクレイアニメを作ったことで、才能あるアニメーターや、映像会社の方々とご一緒する機会まで得られた。MOROHAさんのライブに行って涙したし、イッセー尾形さんと歩いた神田の古本屋街では大学時代のフランス文学の授業を思い出した。尾形さんは、齊藤さんのことを「気配を消すことができる優秀なフォトグラファー」とたたえていたと記憶する。現在アメリカ在住で女優・モデルのTAOさんは活動寫眞館への登場がきっかけとなってmadameFIGARO.jpで連載が始まった。重岡大毅さんが大の格闘好きということがわかって同じく格闘好きの私もシンパシーを覚えた。バレリーナの飯島望未さんが撮影時に流した涙で心が動き、る鹿さんの新世代表現者の伸びやかな佇まいにもアタマをガツンとやられた思いをした。
本誌最新号で齊藤さんからもらった言葉には、フィガロジャポンへの感謝が綴られていた。が、感謝したいのは私たちのほうだ。齊藤さんがきっかけで出会えたたくさんの表現者たち、クリエイション、映画愛にあふれるサポーターとの時間。素晴らしい贈りものばかりいただいた。
20年7月にいち早く見せてくれた、狐火さんと秩父の山奥で撮影されたムービーにも、「映画の同志」への切ない想いを感じた。このムービーは先日7月18日に目黒シネマ(フィガロジャポン編集部のオフィスも在・目黒)で行われた『ゾッキ』のイベントでも上映された。
最後にひとつお伝えしたい。齊藤さんは、連載「活動寫眞館」のギャランティを昨年掲載ぶんにさかのぼって、すべて、熱海の令和3年伊豆山土砂災害の義援金として寄付することに決めたそうだ。日本各地、映画やドラマの撮影などに協力してくれるシネマティックな愛にあふれる土地への感謝の想いがあるのかもしれない。
齊藤さん、これからもずっとフィガロジャポン、そして「活動寫眞館」をよろしくお願いします。
齊藤さんは現在(21年7月)、ロン毛である。ワイルドを追求したインディアン風味。
監督最新作『ゾッキ』、出演作 『孤狼の血LEVEL2』が全国公開中。『CUBE』が 10月22日、『シン・ウルトラマン』等が今後公開予定。 テレビ朝日系主演ドラマ「漂着者」が放送中。企画・プロデュース作『その日、カレーライスができるまで』(リリー・フランキー主演 × 清水康彦監督)が9月3日より全国順次公開。移動映画館「cinéma bird」の開催や「MiniTheaterPark」の活動など。
TAKUMI SAITOH
ナビゲーター役の NTV「こどもディレクター」(水曜 23:59~)放映中。出演映画『カミノフデ~怪獣たちのいる島~』が 7月26日公開。企画・プロデュースした今冬公開の児童養護施設のドキュメンタリー映画『大きな家』に続き、ハリウッド映画『ボクがにんげんだったとき/When I was a human』のエグゼクティブプロデューサーも務める。www.b-b-h.jp/saitohtakumi