齊藤工がシネマティックな人物のモノクロポートレートを撮影する連載「活動寫眞館」。今回は、齊藤の監督作『スイート・マイホーム』の主題歌を歌うyamaが登場。ミステリアスな存在だが、作品を観て主題歌をどのように着地させようとしたのか、その思いをきいた。

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8月、都内のスタジオにて撮影。以下同。

「(『スイート・マイホーム』の)結末を観た時、救いがないと言うのか......最後まで追いつめてくる映画だな、と感じました。『そうなりませんように!』と思ったことが起きていく物語ですよね。観客というものは、物語を変えることはできない。観ることしか、祈ることしかできないなかで、あの結末と出会って、ああ、こうなってしまうのか、というなんともいえなさがありました」(yama)

作品を観てから、この主題歌を引き受けるかどうか決めた、と言う。そこでyamaが考えたことが、「物語を観終えて、最後に流れる主題歌でどれだけ観客の後味を変えられるか」だった。
「映画館を出て、帰る際中も映画のことを思い出すだろうし、誰かと一緒に観ていたら、カフェに入って映画のことを話すかもしれない。その時、『後味』を担うのが主題歌だと思っています。作品を癒すようなバラード調にもできたのかもしれない。でも、ただの祈り、というかレクイエムのようなものに、囚われずに表現したいと思いました。この作品ならではの狂気とか、人間のえぐみのようなことを、歌声を入れる際、不安定な印象が出るように表現してみたり。アンバランスと言うべきか、あえて違和感を表現するのがこの作品に合っているかもしれない、と考えて制作に取り組みました」(yama)
できあがった曲「返光」に対して、齊藤はこのように述べる。
「3度ほどやり取りをさせていただき、現在の『返光』が上がってきて、これだ、と思いました。歌詞を含めて、あるキャラクターを、すなわち作品を浄化させてくれるものでした。地鎮祭で始まる物語が、yamaさんの歌という神ごとのような儀式で幕を閉じることができる、と」(齊藤)

「返光」はyamaの声の透明感と強さが心に響く。映画の結末とその余韻に浸りながらも、観客自身が冷静な気持ちになって作品を思考することを促すような、透き通った感覚があるように感じる。

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ドラマや映画など作品のために曲を書いたり歌ったりすることはあっても、今回のように制作側の監督に実際会い、クリエイティブに関しての感想まで聞けることは滅多にない、とyamaは言う。
「新鮮でした。もちろん丁寧に音入れしていきましたが、あらためて監督から『よかった』と聞けて、うれしかったです」(yama)

今回、yamaと実際に会い、ポートレートを撮った齊藤は、シャッターを押している時、どんな印象を持ったのだろう?
「シャッターを切る瞬間、yamaとしての剥き出しのアイデンティティがそこにありました」(齊藤)

俳優としての斎藤工は知っていたが、監督としての齊藤工を体感するのはyamaにとって初だ。
「作品を作り上げるというクリエイティブなこと、しかも原作があるものを映画化することは、とても難しいと思う。『スイート・マイホーム』は、(原作の)どこを選んで表現するのか、それがとてもまとまっていて、観ていて集中が途切れませんでした。自分は、作品によってはふと冷めてしまって、途中でまったく違うこと考え始めてしまうこともある。でも、『スイート・マイホーム』は、のめり込めました。監督としての齊藤さんのこだわりを感じました」(yama)

では、yamaにとって、集中が切れることなく、繰り返し観てしまう作品とは?
「そんなに多くの映画を観ているわけではないのですが、『インターステラー』(2014年)が好きです。SF好きというわけでもないのですが、『インターステラー』の世界は、もしかしたら人類がこの先向かう世界なのではないか、と感じさせてくれるようなリアルさがあって。その、現実世界との地続きの感じが好きでした。物語はとてつもなく大規模なのに、人間同士や家族の愛が描かれているところも」(yama)

yama
2018 年より YouTube をベースに活動をスタートし、20 年 4 月に自身初のオリジナル楽曲としてリリースされた「春を告げる」が、SNS をきっかけにストリーミング再生では 3 億回再生を記録。アニメ「SPY × FAMILY」の第 2クール ED 主題歌「色彩」、アニメ「機動戦士ガンダム 水星の魔女」Season2のOPテーマ「slash」など、現在の音楽シーンを象徴するアーティスト。9 月 1 日に公開された映画『スイート・マイホーム』で主題曲「返光」を担当。
『スイート・マイホーム』
●監督/齊藤工
●出演/窪田正孝、蓮佛美沙子、奈緒、中島歩、里々佳、窪塚洋介、根岸季衣、松角洋平ほか
●主題歌/yama
●2023年、日本映画
●113分
●配給/日活、東京テアトル
●2023年9月1日より、TOHOシネマズ日比谷ほか、全国にて公開 
©2023『スイート・マイホーム』製作委員会
©神津凛子/講談社

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齊藤工、『スイート・マイホーム』の旅。

TAKUMI SAITOH

ナビゲーター役の NTV「こどもディレクター」(水曜 23:59~)放映中。出演映画『カミノフデ~怪獣たちのいる島~』が 7月26日公開。企画・プロデュースした今冬公開の児童養護施設のドキュメンタリー映画『大きな家』に続き、ハリウッド映画『ボクがにんげんだったとき/When I was a human』のエグゼクティブプロデューサーも務める。www.b-b-h.jp/saitohtakumi

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